色世界
桃:にっこり




 呆れられているんじゃないかと恐怖するのに、びくびくと震える体はなかなか収まらない。
 自分を強く抱きしめていた腕の主が早くも呼吸を整えて、春海の首筋から顔を上げた。その目に全てを見られていると思うと、怖い。怖いのに体が反応するのを止められず、涙が溢れた。
「……んっ、やぁ……だ、目、閉じてて……!」
 不自然な力が入る腕をどうにか持ち上げて、自分と繋がったままの一臣の視界を遮ろうと試みる。
 一臣と抱き合うようになってから、春海の体は本人が戸惑うほど感じやすくなった。絶頂感が長引いて、あやすように一臣に触れられると収まるどころかより煽り立てられて、そのまま中に含んだ楔を締め付けて次の行為へと続くことも多い。
 淫らだと自分自身が嫌悪するその様子を、一臣に見られたくない。
 怖くて怯えているのに体は心に影響されることなく、隅々に行きわたる快楽を摘み取っては悦び反応する。
「見せろ」
 視界を邪魔する春海の手をどかせると、一臣は射抜くように春海の目を見る。目つきは獰猛なくせに、額に張り付く髪の毛を払う手つきは優しい。下心を感じさせない手つきにも春海の体は反応して、肩を竦ませて口唇を噛み締めた。
「声、殺すなよ。なんのためにここまで来てる?」
 舌先で口唇を擽るように解かれ、春海は熱い息を一つつく。そうしながらクラシックなシャンデリアが輝く頭上を見上げた。
 オークションで入手してみましたとフロントで鉢合わせした大介が自慢げに説明を添えたそれは、確かに可愛いしセンスもいい。だけどそれは、ラブホテルの天井に輝くには少し不釣合いな気もする。大介はもう一つ胸を張る。
『ここは栄月館と違って防音ばっちりだから、普段我慢してる分発散してってくださいねー』
 そう言われて遠慮も羞恥も捨てて喘げるほど春海は開き直れない。たとえ一臣が強請っても。
 強情に結ぶ口唇が気に食わないのか、一臣が動かさないように気をつけていた腰をゆるりと揺すった。
「ふぁっ、あぁっ……!」
 時間とともに小さくなっていた官能の火がまた爆ぜる。それからまた宥めるように髪を梳いたり頬を撫でられたりして、ゆっくりと呼吸を合わされて、白く霞む視界がクリアになっていく。
 ふっと現実に戻ったように息をつくと、低く笑った一臣が体を離した。その瞬間だけ、無意識に喉が仰け反ったが、疲労を訴える肉体が本能の暴走を押さえ込んだのかくたりと力が抜けた。
「心配しなくても、かわいい顔して啼いてるぞ」
 春海の羞恥も不安も全て承知で告げる言葉はフォローにはなっていない。言葉の選択が下手くそな男を恨めしげに見上げるが、意に介さずご満悦の笑みを浮かべている。
「気持ち良さそうにしてくれるから、安心するんだ。だから隠すなよ」
 ズルイズルイ。
「なぁ、見せて?」
 そんな風に笑われたら、どうしようもなく気持ちいい。





2011/5/4
久々にエロー。

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