サッカーシリーズで30のお題
07:携帯電話



 ガガガガガガと派出な音が鳴る。
 机の上で震える携帯電話に慌てて手を伸ばした英介は、嬉々とした様子で画面を開いていた。
「最近、えっちゃんの携帯よく鳴るよね」
「前なんか携帯電話忘れて帰ったりすることしょっちゅうだったのに」
 クラスの女の子達がそんなことを囁いている。

 英介は食事の手を止めて、カタカタとメールを打つ。
 その顔は嬉しそうで、一緒に弁当を広げていたクラスメートも思わず注視してしまう。
 送信して携帯を閉じると、英介は再び箸を手にする。
「メル友?」
「え?」
「メール。やったらとくるようになったじゃん」
「ちがう。友達」
 兄貴に無理矢理持たされたのだと言っていた携帯電話に、英介は無頓着だったはずだ。
 少し前まで英介の携帯はかけるだけ無駄だとさえ思われていた。
 それがここのところ活用されているらしい。
 授業中もこっそり打っていることがある。
「友達って、サッカーの?」
 日本代表経験のあるこの友人には、この学校以外にもたくさんの友人がいる。
「そう。高山って言う」
「あぁ、十番の人だろ」
 そうそうと英介は頷いた。
「仲いいんだ?」
「仲いいよ」
「えっちゃんとつるんでるタイプに見えないけど?」
「そう?」
「そう」
 言っているそばから携帯が震える。
「無口に見えるけど、けっこう話すよ?」
 メールでもそうなんだろうか。
 メールを読んだ英介は楽しそうだ。
 カタカタカタカタとメールを打ち捲くる友人達に、『メールよりも電話した方が早くねぇ?』と言っていたはずだが。
「タカとなら、黙ってても気まずくなんないし」
「っていうか、あの人とどんなメールやり取りしてるわけ?」
「絵文字とか使う?」
 テレビで観る高山浩二クンは、同級生のはずなのに自分達よもずっと大人びて見えた。
 いかにも寡黙そうで、もしもクラスにいたらちょっと敬遠してしまいそうな雰囲気を持っている。
「こんな感じ」
 言って、英介は携帯電話を差し出した。
 差出人はタカとある。

『フィーゴ最高! マジ上手い。足とボールに磁石ついてるんじゃないかって思う。ロナウドも凄いけど、ロベカルのキャノン砲も見てて気持ちいいな』

 勝手に弄っていいよという言葉に甘えて、英介のプライバシーにちょっと踏み込んでみる。
 この話題に興味をそそられたクラスメートは多く、みんなが画面を覗き込みはじめた。
 それを尻目に英介は弁当を掻き込み始める。

『レアル最強だね。マジ強いよ。あれは反則。俺もあんなドリブルしたい』

『お前のドリブルは充分凄い。俺ももうちょっとパスの精度とか球種しっかりしないとプロ入り危ういかも』

 簡潔な言葉で綴られるメールの内容のほとんどがサッカーのことばかり。
 中にはそれぞれの学校での出来事もある。

『今日、監督に怒られた(>_<)周りとの連携考えろって。俺、自分勝手かなぁ?』

『今日でこっちはテスト終了。惨敗。早くサッカーしてぇ』

『こっちもテストしゅーりょー♪ 今度の休みいつ? 遊ぼうよ』

『神戸山形戦のチケットゲット。暇だったら観に行かん?』

『代表入りお互いにおめでとう(^▽^)/合宿で会おう!』

 などなど。
 親しげなメールがやり取りされている。
 それにしても。
「高山ばっかりだな。着信もメールも」
 他の名前もチラホラあるが、それにしてもダントツに『タカ』という名前が多い。
 英介は大きな弁当箱を空っぽにして、さらに菓子パンの袋を開けた。
 この体のどこにそれだけの食料が入るのだろうと不思議に思うほどの食欲を見せるが、英介の体は小さいままだ。
 気を抜くとすぐに体重が落ちるという女の子にとっては羨ましい体質で、ベスト体重を保つのは大変らしい。
「えっちゃんからばっかりメールしてるんじゃないの?」
「なんだよ、それ。タカからもしてくれるよ」
「だって、なんかかまってもらってるって感じがするから」
「失礼だなぁ」
「ごめんごめん」
 一見、ちぐはぐで正反対なタイプの二人だが、ピッチの上に放てば相性は抜群だということは実証済みだ。
「日頃からのコミュニケーションが、ピッチでも生かされるわけですよ」
 なんてもっともらしいことを言いながら携帯を受け取る。
 繋がる相手を見つけた携帯電話は、あっと言う間に彼の大切なツールになったらしい。
「ねぇ、えっちゃんの写メールいけるよね?」
「うん」
「じゃ、撮ろうよ。みんなで」
 誰かが言い出した。
「いいじゃん。撮ろう! おーい、英介の携帯で写メール撮るぞー」
「なんで、俺のなんだよ!」
「留守がちなえっちゃんが私らのこと忘れないように」
「待ち受けにしてねー」
 わいわい集まったクラスメートが英介を中心に小さな画面に集まろうと四苦八苦。
 ガタガタと机が鳴る。
「撮るよー?」
「おっけー」
 隣のクラスの男子がボタンを押す。
「イエーイ!」
 のりのいい声とともにカシャリと音がする。
 携帯電話の画面には、賑やかな写真。
「も一枚いっとこかー」
 もう一枚、二枚。
 撮れた写真を勝手に待ち受け画面に設定して、ついでとばかりに女の子の手に渡る。
「何するんだよー」
 英介が伸ばした手はクラスメートの手を握った。
「ホラ、えっちゃんはしっかり食べて」
 女の子達の楽しそうな笑い声が止み、携帯電話は無事に英介の手元に返ってきた。
 男子も女子もニヤニヤしながら英介が携帯を見るのを眺めている。
 携帯電話の待ち受けが、さっき撮った写真になっているのは、まぁいい。
 だが、メールの送信ボックスに覚えのない送信メールの履歴があるのはどうだろう。
 宛先はタカへ。
 勿論送られたのはさっきの写真。
『私たちのえっちゃんをヨロシク!』
 なんて文章が添えてある。
「よろしくってなんだよ。俺の方が面倒見てやってるっつーの」
「嘘つけ」
「俺あってのタカだぜ?」
「高山のアシストあってのえっちゃんだろ」
「早くご飯食べないと授業始まるよー」
 そんな昼休みの一コマ。


 そして他校の昼休みと言えば。
「…………」
 携帯電話をしげしげと見つめるサッカー部の司令塔に、教室の視線は集中していた。
「高山くん、最近携帯よく鳴るよね?」
「鳴る鳴るー。携帯見て笑ってることあるよね」
「彼女でもできたかぁ〜?」
「年上だと思うね」
「年上の彼女がそんなにメールしてくるかぁ?」
「学生とか暇って言うじゃん」
「そんな感じでもないんだけどなぁ?」
「お、返信してるぞ」
「かー、高山くんの携帯電話、一回のぞいてみたいよね」
「見てみたぁい」
 これも昼休みの一コマ。


『こちらこそ、俺達の英介をよろしく』
 青いユニホームを誇らしげに纏ったヤングJAPANの錚々たる面子の映った写メールも、後日英介の携帯電話に保存されることになる。


2003/9/6
若者らしく。
私らの高校時代はピッチとポケベル時代です。私はどっちも持ってなかったけど。
英介は友達多そうなので、携帯は活用してそう。でも依存はしてない感じ?

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