「集中! 守備、相手にスペース与えるな!」
手をたたき、声を張り上げ神戸レインボーチャーサーは気合を入れなおす。
後半四十三分。
ロスタイムはおそらくは一分程度。
試合終了までは本当にあと僅か。
点差は一対一。
引き分け、負けでは優勝争いに残れないこの一戦。
神戸RCがファーストステージ優勝の可能性を残せるのは、勝った時だけ。
先制したところを、後半に追いつかれての苦しい戦況。
焦りが足を重くし、判断を鈍らせる。
キャプテンマークをつけた富永がゲキを飛ばし、応えるように白いユニホームは声を上げる。
その一番後ろ。
相手チームのサポーターを背負うゴールマウスに立っている神尾も、同じように声を上げてディフェンス陣のポジショニングを支持していた。
そして相手の持ったボールがミートせず、力をなくしてコロコロと神尾の下に転がってきた。
時間がない。
早くゴールキックを。
そう思ってボールを持った。
その瞬間。
不意に、目に飛び込んできたものがあった。
相手チームのゴールキーパーの後ろの、白い波を。
神戸レインボーチャーサーのサポーターの姿が。
今は弛んでいる白い旗。
あ。
届きそう。
と、その時思ってしまったのだ。
風が、自分の方から相手ゴールの方へ向かって吹いているような、そんな錯覚をしてしまったのだ。
実際は、その時はほぼ無風状態。
追い風なんか、ありはしなかった。
男は度胸。
何もしないよりは、やってみた方が後悔はしない。
手にしたボールを転がして、自分の足で転がしてペナルティエリアから数歩でる。
そして、思い切り蹴り出した。
ボールの中心をとらえるように、小学校の頃初めて教わった蹴り方をそのまま思い出して体で表す。
それは、ゴールキックではなくシュートだった。
ぐんっと伸びたボールは落ちるかと思えばその距離を伸ばしていく。
ちょうど、ジャンプスキーのジャンパーのような粘り。
威力を失うことなく相手ゴールに向う。
そして、そのまま。
…………………………………………。
『……ゴォオオオオオオオル!!!』
落ちた。
前に出ていた相手ゴールキーパーの頭上を越えて、慌てて伸ばした手のほんの少し掠めて、神尾のキックはゴールネットを揺らした。
たっぷりの沈黙の後、神尾の正面でフラッグは打ち振られた。
歓喜の抱擁に駆け寄ってくるチームメイトが浮かべる笑みは、喜びのためと言うよりは、
『なにやってんの? 入っちゃったじゃん!』
という面白がる笑み。
「神尾さん、すっげぇ! すごすぎる! っていうか笑えるわ」
「明日のスポーツ紙の一面は君だ!」
そうして抱擁の輪が出来たとろこで、ゲームセット。
ベンチからも選手、スタッフが雪崩れ込んでくる。
これで、優勝の可能性は残ったのだ。
その喜びもあるのだが、何よりもゴールキーパーのゴールに興奮している。
耳にはゴール裏から、『カミオ! カミオ!』と自分の名前が大音響でコールされている。
「入っちゃいました」
と、試合後のヒーローインタビューで答えたコメントと、ゴールが入った瞬間の神尾の間抜け面はその日のどのニュース番組でも放送された。
「ミラクルだな」
チームを救う大活躍をしたにも関わらず矢良ドクターのそんな呟き一つで、翌日から神尾はミラクルボーイという恥ずかしいあだ名をいただいてしまったのだった。
そしてそれを聞いたサポーターは、神尾の新しい応援歌を作った。
ミラクルボーイ、ミラクルボーイ、カ〜ミ〜オォ!
22/003/7
脇役神尾さん、大活躍の巻。
この前スタジアムに行ったら、「セクシー」コールされていた選手がいたので、恥ずかしい応援歌ネタで。