サッカーシリーズで30のお題
21:Cry for the moon.


雪がふわふわと舞い始めた。
もうすぐ、約束の地にも雪が舞うだろう。


「大会、どうなった?」
「K高、勝ちましたよ。準決で3-0ですよ。さすがっすねぇ」
「相手は?」
「F学。いい対決ですね」
 夏は野球が甲子園でドラマを作る。
 サッカーは冬にドラマを作る。
 憧れの地・国立霞ヶ丘競技場での決勝を目指し。
「F学って、寺井さんトコ?」
「おうよ」
「K高は富永さんとスバルさん出身でしょ? でF学が寺井さん。すげぇー」
「ユーキはクラブユースで頂上見てるだろ」
「えへ〜、そうなんすけどね〜」
 高校サッカー選手権、クラブユース選手権、他にもたくさんの大会がある。
 プロチームに集う人たちは、多かれ少なかれそれらを体験してきている人が多い。
 その頂上に辿り着いた経歴を持つ人も大勢いる。
 この季節、母校の結果を気にして話題に上る高校サッカー。

 俺は、少しだけ面白くない。
 高校時代は学校のサッカー部に所属した。
 名鑑に載せても、どこだよそれと突っ込まれるような無名校。
 怪我明けでどうにか進学した高校が、自分がアピールする場所だった。
 どこにも辿り着けそうにないもどかしさを募らせて、それでも部員の士気を高めて励んだ三年間で出した結果は、チームの強化ではなく自身のみのアピールだった。
 強豪校相手にした練習試合でバカスカゴールに突っ込んで、どうにかスカウトマンの目を惹きつけて、ここにいることができている。
 ただ、なんだかわけのわからない情熱が渦巻いて、怖いものもなくて、背負うものもなくて、ガンガン前に進んでいくだけで良かったあの頃に、選手権で歓喜を味わうことができたらどんなに良かっただろうと思ってしまう。
 のんびりムードで苛立つことはあったけど、みんないい友達だったから尚のこと。
 きっと、気持ちよかっただろうなぁ。
 負けたとしても、きっといい思い出になっただろう。
「いいなぁ……」
 あの頃の俺達にとって、聖地は遠かった。
 目に捕らえることができないほど遠くて、脳裏に思い描くことしかできなかった。
「英介」
 思わず零した呟きを拾ったタカが、ひょいと顔を覗き込んでくる。
 俺が何で浮かない顔をしているのか、お見通しらしい。
 タカも、そういうタイトルやこの業界でキラリと光る学校やクラブの出身じゃない。
 タカの場合、自分がプロになるなんて夢にも思っていなくて、気張ったチームを目指さなかった結果、落ち着いた場所らしい。
 部活も極自然に、高校生の義務みたいなもんだと思って参加していた。
 サッカーは好きだったけど志しの低かった高校生だった。
 それでも持って生まれ磨かれてきたサッカーセンスは隠しようがなく、ヤングジャパンに名を連ねることになった。
 いい結果を出してやるという自分自身に与えるプレッシャーがなかったのが逆に良かったらしい。
 俺からしてみれば物凄く羨ましい経歴の持ち主。
「国立、行きたい?」
「行きたいけど、高校生の時に行きたかったよ」
 この季節、俺とタカはなんだか蚊帳の外。
「17歳の俺を国立に連れて行け」
「無茶言うな」
「じゃあ、聞くな」
 ついつい八つ当たり。
 タカはそういう後悔みたいなもんはないらしい。
 俺だってあんまりそんなこと考えないけど、この時期になるとつい。
 冬の国立のピッチで戦う高校生はかっこいいよ。
 勝った学校は気持ちよさそうだし、負けた学校の子だって本人達は悔しさでいっぱいだろうけど、なんかその泣き顔もかっこいい。
 いいなぁ。
 憧れるなぁ。
 時々、心の底からあの頃に戻りたいと思ってしまうほど。
「地区予選で戦った高校生だって、一生懸命でかっこいいだろ」
「屁理屈言うなよ」
 高校三年生の県大会で流した涙は嘘じゃないけど。
「連れて行ってやろうか?」
「国立にデート?」
「正月に。来年は、11月頃にでも」
 正月元旦は、天皇杯の決勝戦。
 11月頃には、ナビスコカップ決勝戦。
 どちらも国立で行われる。
 高校サッカーが開幕する頃には、天皇杯は決勝を残すのみというスケジュール。
 神戸レインボーチャーサーは先日の準決勝で敗退した。
「って言うか、行こうぜ。一緒に」
「……うん」
 やばいなぁ。
 タカの一言でホクホクする。
「うん。行こう」
 ふっとタカが笑う。
 ほんとに嬉しい。
「行こう。一緒に。同じ色のユニホ着て」
「おう」
 あの頃にしか、感じ得なかった感情も歓喜も絶望もある。
 今でしか、感じられないコトだってある。
 あの頃にはいなかったお前が、今はいる。
 なんだから、ほんとうにおかしいくらいに嬉しくてニヤニヤしていると、昴さんたちに不審がられてしまった。
「来年は国立、行きましょーね」
「あぁ? 当たり前だろ。行くよ」
 準決勝でシュートを二度もポストに当ててしまった、実はコントロール抜群かもしれない昴さんは意気込む。

 連れて行く。
 タカも、昴さん達も、サポーターも、プロを目指す人たちの夢も。
 高校生の頃の俺にはとてもじゃないけど背負いきれなかったものを、今の俺は背負って憧れの地を目指す。


2004/1/1
季節モノ(笑)
やっぱいいなぁ、高校サッカーは。この頃、ものすごくあの頃に戻りたいと思ったりしたのでこんな話。
Cry for the moon.って、翻訳に放り込んだら「不可能なことを求めてください」って出たので、こんな感じに。

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