サッカーシリーズで30のお題
24:3K


「『キャプテン』、『高度な技術』、『かっこいい』」
「富永さんは、かっこいいじゃないだろ。『けっこうオヤジ』」
「あー、そっちだな。じゃあ、スバルさんは?」
「『気持ちは最強』、『脚力半端じゃねぇ』、『気をつけないとタラシだよ』」
「うまいね、坂本さん」

 練習場の隅っこで、スパイクの紐を結びなおしたり給水したりと体を休めながらお喋りに興じている一団に、矢良は顔を出してみた。
「なんの話?」
「あ、薫さん」
坂本、高山、英介、ユーキ、神尾と中堅組と若手が混じっている。

「うちのチームの3Kについて」
「3K?」
「『きつい』、『きたない』、『給料安い』ってあるじゃないですか。仕事の」
「あぁ、その3Kね」
「薫さんはー、『鬼畜』、『子供臭い』、『かわいいところもたまにある』」
 指折り発言したのはユーキ。
 あははははと乾いた笑い声の恐怖に気がつけないあたり、ユーキもまだまだ子供だ。
 足を投げ出しているユーキの肩にポンと手を置くと、そのまま容赦なく全屈させた。
 うぎゃあ、とユーキの悲鳴がグランドに響き渡る。
「お前は固いねぇ、本当に。駄目だよ、こんなんじゃ」
 その背中にどしりと乗っかる。
 無茶をするなと言いたいが、誰よりも自分達の体については熟知しているドクターだ。
 怪我をさせるようなヘマは絶対にしない。
 だからと言って、安心できるわけではないが。
「タカは、『寡黙』、『球種が多い』、『暗い』」
 そうしてユーキを人間椅子にしたまま、矢良は話題に加わる。
「否定しないけど……」
「英介は『かわいい』、『光速プレー』、『食えないヤツ』」
 歌でも歌う調子で英介の3Kを並べる。
「食えないヤツってなんスか?」
「面とか態度見てりゃ甘ちゃんっぽいのに、プレーになったらプロの顔になる」
 誉められているのか貶されているのか。

「内田コーチは?」
 坂本が監督と難しい顔を突合せいている内田を指差す。
 神戸レインボーチャーサーOBの内田は、矢良の短い現役生活を共にした仲間でもあった。
「ウッチ―は、『過去の栄光今尚輝く』、『苦労性』、『好青年だけど気をつけないとけっこうえげつないゾ』」
「ずいぶん、誉めますね。って言うかえげつないって、内田さんが?」
 貴方がの間違いじゃないの?
「ウッチ―は、いいフォワードだったからな。俺はあのプレー好きだったな。それにウッチ―は腹黒いぞ。滅多に出さないけど」
 のんびりとした口調だが、それも苦しんでいるユーキの背中にどっかり座ったままという状況だと鬼畜さが増して見える。
「ちなみに神戸レインボーチャーサーは、『冠三つを目指そうぜ』、『神戸の顔になりましょう』、『攻守のバランスをみんなで考えましょう』」
「それって標語じゃん」
「いいのいいの。水分しっかりとっとけよ。ぼちぼちコンディションの維持がきつくなるからな。調子が悪いと思ったら、即報告すること。黙ってたら倍返しだからな」
 にやり、と悪魔のような笑みを浮かべるとユーキを解放してコーチ陣の方へと向かっていく。
 義足の左足をほんの少し引き摺りながら、悠々と練習場を横切る。

 解放されたユーキはぐったりと、芝生の上に伸びている。
「悪魔って、会ったことも見たこともないけど、あんな感じでしょうね」
 あまりにもしみじみと呟くのを、誰かが今更だろと返した。
 よいせ、と徐々に腰を上げていく。
 休憩時間はそろそろ終わりだ。
 再び地獄の練習が始まる。

「エースケ」
「ん?」
 スパイクの紐を固く結んでいる英介の隣で、背伸びをしていた高山が呼ぶ。
「お前の3Kの最後は『食えないヤツ』ってのもありだけど、俺に言わせりゃ『感度良好』だな」
 ポンと頭に手が置かれた。
 赤面しながらも喚いて怒るのだと予想していた反応は、過剰だった。
「こんなところで、そんなん言うな!」
 赤面も怒声も予想の範疇だったが、鳩尾に入ったパンチは予想外だった。
 ぐっとうめいて膝をついた高山の様子を、意地の悪いチームメイトは笑いながら眺めている。
「タカー、夜のお誘いは練習後にしとけよー」
「性欲飛ぶくらいに体力使わせてやるよ」
 そんなんじゃない。
 お誘いでパンチを食らうのならまだわかるけど、ちょっと冗談を言っただけじゃん。
 英介の愛を疑う高山浩二は、その日の練習を居残りしてちょっぴり切ない背中を見せた。
 そしてそれに付き合った内田に、薫が言っていた『好青年だけど気をつけないとけっこうえげつないゾ』という一つのKを見せ付けられたのだった。


2003/8/1
みんなの3Kについて。
ここから内田、矢良、市井のU-45三つ巴プラトニックラブの構想が始まろうとしている………

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