<2005年感謝企画>

タカと英介のデート番組出演話で、皆様からのデートプランを募集させていただきました。
さの際、オマケとして昴と富永のデート(?)編のプランも募集しましたところ、楽しいアイディアをいただきました。
オマケなのであっさり短めですが、楽しんでいただけると幸いです。


Thanks Project 2005
追いかけるためのビハインド


 想定外の待ち合わせから、豪快なノートラップボレー、可愛らしい戯れと男気溢れる言い合いに、馬鹿だとかがキだとか可愛いだとか、そういうコメントを撒き散らしてその収録は終えたはずだった。
 深夜枠で人気のデート番組に可愛い後輩の高山と英介が出演させられるので、スタジオでの茶々入れ役として呼ばれた。
 無事にそのお勤めも終了したと思っていたのだが、翌週に入っていた仕事はその続編だった。
 久々に故郷へと帰り、懐かしい場所を訪ね歩くという企画だったはず。
 それがいつの間にやら、歳の離れた幼馴染と連れ立って母校の校門をくぐっていた。
 これも一つの『デート』らしい。


 サッカー強豪校として名を馳せる母校は、今や日本代表になくてはならない存在にまで成長した二人のJリーガーを歓迎してくれた。
 いいのかと、富永は愚痴る。
 デート番組だぞ、男子サッカー部のOBだぞ、それでデート番組だぞ。
 いいのか、校長。
 いいのか、PTA。
 いいのか、教育委員会。
 だいたい俺の貴重な休みを、何でこんなクソガキのために使わなければならないのか。
 クソガキってのは現役ハイティーンのことじゃねぇからな、お前のことだからなスバル!
 喧しかった兄的存在の幼馴染で現在チームメイトの紳士は、校門をくぐって口を閉じた。
 土曜日の午後の学校。
 もう何年も遠ざかっていた空気が、突然肌に沁み込んできた。
 少し閑散として、でもグランドだけは熱く、いつもよりも静かな校舎を見上げる感覚。
 少年時代なんてとっくの昔に通り過ぎてしまったけれど、確かに自分は少年だったのだと思い知る。
 土曜の午後の学校の空気を、自分達は知っている。


「うわ、キラキラしてる」
 ずらり並んだサッカー部員は百五十名。
 大きいの小さいの、二十歳過ぎてるんじゃないかと思うようなの、小学生かと疑うようなの。
 体つきも顔つきもそれぞれだが、朝礼台に立った自分達を見上げる双眸はいずれもキラキラと輝いていた。
 思わず昴が小声で呟く。
「お前も昔はあんなだった……」
 まだキャバクラ嬢の優しさを知らない頃の話だと、富永も小声で返す。
 たじろぐほどひたむきな視線に、少しこそばゆいような嬉しいような引き締まるような複雑な感情が生まれてくる。
 学校訪問を積極的に取り入れる富永でも、母校への訪問はいつも緊張する。
 羨望と尊敬の眼差しと、誇らしげな恩師の表情とで、自分の立っている位置を確認する。
 謙虚であれ、胸を張れ、強くあれ。
 身に沁みた教訓が、腹の奥で響く。
 三桁に及ぶ部員の中で、レギュラーとして試合に出られるのは二十人とちょっと。
 その枠に入るため、その中でも更にスタメンとして使ってもらえる定着メンバーとして監督の目に留まるため、切磋琢磨した日々を思い出す。
 恐ろしまでに苦しい思い出と、それを凌駕するほど刺激的だった日々を。
 君たちも存分に味わうがいいよ。
 苦しい練習から、ライバルに追い越される焦燥から、勝利の味、敗北の苦味を。
 “今”しか見えない少年達を見渡しながら、いいオヤジに育ってしまったかつての高校生フットボーラー二人はニヤリと笑ってみせたのだった。



 高校生指導に汗を流した二人は、昼食のために懐かしい学食へ足を踏み入れた。
 設備が整っている母校の食堂は富永や昴が在学していた頃と変わらず、そして相変わらず綺麗だった。
「お、メニュー増えてる。オムハヤシとかある。美味そうー」
 食堂のおばちゃんの顔は変わっていた。
 富永たちがいた頃には、恰幅と気前のいいおばちゃんがどの器も大盛りによそってくれたものだった。
 あのおばちゃんは引退し、今では息子夫婦と一緒に暮らして孫の世話をする日々を送っているらしい。
 頼んだA定食もカレーも、笑えるほど変わらない味がして、嬉しいのにどこかで胸がぎゅっと痛んだ。
 もう戻れないのだとわかっているからこそ、十代の輝くようなあの思い出をもう一度繰り返したい思いが沸き起こるのを抑えることができない。
 なんだか歳くったなぁと、しみじみ思うしかない。
「こうしてみるとさ、なんか不思議だな」
「なにが」
「俺と真吾さぁ、ココに一緒に通ったことなんかなかったじゃん。なのに、いい大人になってから、高校の学食で一緒に飯食ってんの」
 中坊だった頃、俺は真吾と同じ場所に立つ連中に嫉妬して仕方なかったのにと、昴は笑った。
「俺はこんなに高く飛べんのに、なんで真吾と一緒にサッカーできないんだよって、腹立ててた時期もあった。正直」
 大盛りのサラダの中の大きなレタスの葉をスプーンに乗せるのに苦心している昴を、思わず凝視してしまった。
「そんでココに進学して、監督に自惚れるなとかお前みたいな奴幾らでもいるとか、コテンパンに言われてさ。あー、そっかーって。まぁ、鍛えなおされたわけよ、俺は、ここで」
 スプーンという道具を扱うのを諦めた昴は、テーブルの上の割り箸を手にとるとそれでバリバリとサラダを食べ始めた。
 結局、何が言いたかったのかわからない。
 ただ当時の自分の心情を暴露してみたい心持だったのか、昴はそれきり食事に集中してしまい、テーブルには沈黙が降りた。
 放送事故まであと何秒だったか。
 カウントしながら、富永は天井を仰いだ。
 自分は五つ年下の幼馴染を、小学生の頃のまま成長したと認識しようとしない癖がある。
 それに、ほとほと呆れたのだ。



 共有していないはずの思い出だが、通り過ぎてきたところは同じ。
 少しのズレをちらつかせながも変わらず存在する学び舎をブラブラしながら、二人は撮影スタッフに促されるまま、体育館裏の自転車置き場にやって来た。
 自宅生だった二人の通学手段は自転車で、この自転車置き場には思い出もある。
 練習後、ぼろぼろの体を引きずってふらふらになりながら自転車を漕いだこと。
 最終下校時刻ギリギリまで練習を続けるサッカー部の練習上がりを、わざわざ待っていてくれた女の子から渡されたラブレター。
 部内のちょっとした確執を語り合ったりもした。
 きっとそういう思い出は、富永は富永で、昴は昴で大切に抱えている。
「懐かしいー。俺、ここで痴女にあったことがある。ダチ三人くらいで帰ろうとしたら、そこにトレンチコート姿の女が立ってんの。そしたらいきなりガバーってされてさ。うわぁあって絶叫したら、すって逃げられたの。あれ、びびったわー」
 昴はそんな思い出話を一つ暴露して、錆止めの塗られた鉄柱を撫でた。
 簡素な屋根の下には、自転車通学の生徒達の愛車がずらりと並んでいる。
「ニケツしろって?」
 番組が用意したのだろう自転車のスタンドを、昴はさっさと立てて跨った。
 ハンドルには小さなカメラが付けてある。
 カンペには、通学路を走ってくださいとある。
「チャリ乗るの久々―」
「嘘つけ。酔っ払って寮のチャリ乗って、タカのスカイラインに傷つけたのお前だろ。何日前の話だよ」
「だって記憶にねぇもん。いいから、ほら、乗れよ」
 どんな些細な事でもテンションを上げて楽しめるのは昴の長所でもあるが、そろそろ年齢的にも割り切りの遅くなった富永には多少ついていけないこともある。
 昴に強く促されて、渋々荷台に腰を下ろした。
「こけんなよ」
「俺の職業なんだと思ってるの。足使う人よ?」
 よっと掛け声を口にして、昴が自転車を漕ぎ始めた。
 スポーツ選手二人分の体重を乗せた自転車はキィと切ない声を上げながら、ぐんぐんとスピードを上げ始める。
 自転車は校門を抜け、学校前の住宅地を走る。
 懐かしい懐かしい帰り道の風景は、学校内よりも変化が激しいように見えた。
 部活帰り、疲労困憊した目には映っていなかっただけかもしれないが。

「気持ちいいー」
「あんまり飛ばすなよ、怖ぇな」
 黒とシルバーの地味な男子学生用自転車は風を切りカーブを曲がる。
 そうして前方に広がるのは、いつも夕暮れで真っ赤に染まっていた大きな川の河川敷。
 そこは自分達の家への近道で、川沿いにただひたすら走ればやがて我が家へと辿り着くのだ。
 そして、その途中には小学校が見える。
 小学生だった昴は川沿いの小学校のグランドから、テスト期間中に早く帰る高校生の下校の群れを遠く眺めた。
 富永は川沿いの道を行きながら、小学校の窓に目を凝らした。
 君は頑張っているだろうかと。
 決して交わらない時間軸を憎く思ったこともあった。
 けれど、昴にとって富永が目標であるための五年のずれ。
 富永にとって追いつかれてはいけないと追い込まれるための五年のずれ。
 今では必要だったと思える。
 交差することなく過ぎていった青春時代を名残惜しく思う気持ちはあるけれど、今、同じピッチ同じユニホーム同じ目標を持って第二の青春時代を謳歌できている。

「すーっげぇ小せぇ頃さぁ」
 ペダルを力強く漕ぎながら、昴はまた暴露話を披露するつもりらしい。
「遊びに行く時、真吾、よく俺のことチャリの後ろ乗せてくれただろ」
「あぁ」
「あれが嬉しくて、でもちょい悔しかったのを思い出した」
「悔しい?」
「幼馴染の兄ちゃんが飛ばすチャリの荷台は居心地最高だったよ。でも、俺のことを乗っけたまま余裕で坂道を登っていくお前のこと後ろから見てて、遠いなーって思った」
 河川敷ではコスモスが揺れ、水の流れは穏やか。
「知ってる? 俺が真吾のこと後ろに乗せてチャリ漕ぐの初めてなの」
 ちらりと昴が振り返る。
 悪戯小僧の顔をして。
「じゃあ、お前は知ってるのかよ」
「なに?」
「俺が、ガキのお前に笑われないために、必死になりながら坂道登ってたことをだよ」
 汗を流しながら、呼吸を乱さないように奥歯を食いしばりながら。
 お兄ちゃんなんだからと必死でペダルを踏み込んでいた。
 
 五つのビハインドが課した義務がある。

 一つは、追いつかれないこと。

 もう一つは、追いかけること。

 そうして得られたものは、他のどんな関係にも負けないと誇れる絆だ。

 昴は短く笑ったようだった。
 サドルから腰を浮かせて、ますます力強くペダルを踏み込む。
 富永は空を仰いだ。
 昴の作る風が髪の毛を乱していく。
 飛ばしすぎた昴のゼェゼェと言う荒れた呼吸を聞きながら、それでも自分達はどこまでも行ける気がした。
 僕には僕の道があり、寄り添うように君の道がある。
 現在地に多少のずれはあったとしても、目に見える景色がどこかで交わるのなら、強く前へと進んでいける気がした。


推奨BGM:スキマスイッチ「全力少年」 Def Tech「My Way」
タカ英だけでなく、こちらの幼馴染コンビへのプランもありがとうございます!一応、オマケと言うことで、あっさり気味になってしまったのが申し訳ないですが。
採用させていただいたプランは、
 ・母校への訪問
 ・二人乗り
の二つです。二人乗りと言うアイディアは幾つかいただきました。
人気のコンビなのですが、登場させるとつい漫才のようなやり取りや怒鳴りあいになってしまうので、たまにはじっくり心理描写をと思いまして。この二人は怒鳴りあいはするけど、あまり深いことは口に出し合わず、空気とか雰囲気とかで伝え合える感じです。

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