<前書き>

この話は2006年感謝企画で皆様からご応募いただいたCMプランをもとにしています。
このページに2本のSSをアップしています。
 ・隠し味は愛情です。/カレールー
 ・私しか知らないあなたが聞こえる/携帯電話



Thanks Project 2006
CMプラン募集企画 「隠し味は愛情です。 」


 ででん、と置かれた鍋に見覚えがある。
 あれだ。
 小学生だった時、ナントカ学習とかナントカ教育とかで給食調理室にお邪魔したことがある。
 そこで給食のおばちゃんの手伝いだか邪魔だかをしたことがある。
 おばちゃんが奥歯を噛み締めてでかいしゃもじを使ってかき回していた鍋だ。
 あのサイズだ。

 ファン感謝祭で料理対決をするから、神戸RCの料理上手にはぜひ出場して欲しいと押されて、カレー作りくらいだったら楽勝だろうとOKした。
 その高山の目の前に置かれたのは、家庭用大鍋サイズを遥かに超えた炊き出し用の大鍋だった。
 単位が違う。
 スタジアムの特設ステージには厨房と材料の山。
 そのバックには代表的なカレールーを売り出している食品会社のロゴがプリントされたボードが置かれている。
 イベントの様子を撮影するためのチーム用カメラ以外に、よりグレードの高そうなカメラやマイクを携えた見知らぬスタッフもちらほら見える。
 ついでのCM撮影とは、横着すぎやしないかと自分たちのメディア露出をつかさどる沖田広報を睨むと、騙されたほうが浅はかなのよと言わんばかりの満面の笑みを返してくれた。
 高山と対決することになっていた富永は、何もかもお見通しだったのか余裕の表情。
 何故だかピンク色のエプロンをまとって、ファンの黄色い声援を浴びていた。
 勝敗を決めるのは抽選で試食の権利を得たファン百人。
 他の選手は勝ちそうだと思う方のアシスタントに入り、負けた代表者と応援選手にはイベント後の片付けが待っている。
 黒いエプロンを掛けた高山に向かって、いつもよりも黄色い色合いの強い声援が飛んでくる。
『それではー、石○軍団を見習って、神戸RC炊き出し料理上手決定戦、キックオフでーす!』

「タカ、まだー?」
「まだ。玉ねぎはしっかり炒めた方が美味いんだから、気合入れてかき混ぜて。焦がすなよ」
「タカさん、なんか、じゃがいも、食べれるところが減っていくんですけど」
「それ以前になんでじゃがいもが赤いんだよ! ピューラー使え! ユーキはその前に手当て! 薫さん、けが人ー!」
「タカさん、ブロッコリーってどこまでが一房ですかー?」
「誰がブロッコリーを粉砕しろって言った! 司会者! ちょっとタイム! うちのチームは使えなさすぎ!」


「おぉ、この肉はあれじゃないですか、噂に聞くこうべぎゅーというヤツではないですか?」
「ま、さ、し、くー」
「美味そうー」
「坂元さん、一口ください」
「直球だなー。キャプテンから肉係りを任命された身としては、ツマミ食いを許すわけにはいかないなぁ」
「坂元さんも一口食べてみたいでしょ? カレーに入ったら香辛料の味に飲まれて、肉本来の旨味がわからなくなっちゃいまっせ」
「百人分あるから大丈夫。一口くらいわかりませんよ」
「くー、仕方ねぇ! キャプテンが玉ねぎと格闘しているうちにいっちゃうか」
「いっちゃえいっちゃえー」


 高山は母親の手伝いをする小学生のような応援団の邪魔を受けつつ、慣れた手つきで野菜の下ごしらえをこなしていく。
 香辛料のブレンドにこだわっていた富永は、一息ついて振り返った自分の厨房からメイン食材の神戸牛の大半が食い尽くされたことに気づき悲鳴を上げた。
 ハプニングやミスを伴いつつも、なんとなくそれっぽいものが出来上がってしまうのもカレーの魅力。
 高山の野菜たっぷりのカレー、富永の予定よりも肉の量が減ったスパイシーなカレーはファンに振舞われ、厳正なジャッジの結果、女性の人気を得た高山のカレーが票を得た。
 罰ゲームの片付けに富永の姿は勿論なく、肉を食い尽くした悪ガキ達が食器洗いやスタンドのゴミ広いに従事していた

 それから暫くして放送開始になったカレールーのCMでは、賑やかにじゃれあう神戸RCの姿と出来上がったカレーの映像、最後には調理リーダーとなった新旧司令塔がエプロン姿でこう謳う。

 隠し味?

 愛情です。



Thanks Project 2006
CMプラン募集企画 「私しか知らないあなたが聞こえる」



 白い部屋にオレンジ色がよく目立つ携帯電話会社のロゴが一つ、浮かび上がっている。
 そんな背景を背に、緩く波打つ髪を一房指先に絡めた女性が白い携帯を耳に当てる。
 5回の呼び出し音の後、電波が拾われる。
『もしもし?』
 低く応じるその声に、女性はくるりと瞳を輝かせて微笑む。
「もしもーし。今、いいかな?」
『大丈夫。なに?』
「この前の試合でハットトリックしてたでしょ? おめでとう」
『あー、あれか。まぁ、うん。偶然っぽいのもあったけど。ありがとう』
 素っ気無さを優しさを混ぜ合わせた声音に、女性はますます笑みを深くする。
 回転イスを反転させてストンと立ち上がると、スキップするような軽い足取りで画面の中をふらふらと歩き回る。
 ゆったりとしたロングスカートがまるで尾ひれのように揺れる。
「ちゃんと食べてる?」
『食べてるよ』
「風邪ひいてない?」
『ひいてないよ。そっちは?』
「うん。元気よ。ご飯もねー、ちゃんと野菜食べてるし」
『仕事は?』
「順調。あ、今度そっちで撮影があるんだけど、終わったらご飯一緒に食べようか」
『いいけど、親父にちゃんと言ってからにして。後で一緒に飯食ったって知ったらうるさいんだよ』
「愛されてるなー」
『ほんっと、あの人ガキくせぇ。普通、息子に嫉妬するかよ』
 悪態つく声音こそガキくさいけれど、普段なかなか耳にできないそれに相澤瑠璃子は軽やかな笑い声を上げる。
「そういうところがいいんじゃない」
『わかんねー』
「似たもの親子だと思うんだけどな」
『俺は親父ほど狭量じゃないよ』
「じゃあ今度真相を確かめておくわ」
『確かめなくていいから。時間決まったらまた連絡して』
「わかった。じゃあ、体に気をつけてね」
『ん。そっちも。……、ありがと』
「はい。またね」
『はーい。また』
 僅かな通話時間を知らせる画面を見て、女優はぱたりと携帯を閉じる。
 その白いボディを顎先に押し付けて、小さく笑う。
 遠慮のない、そしてあたたかい会話を反芻すれば笑みが溢れる。
 握り締めた小さな小さな電話からは、

私しか知らないあなたが聞こえる。

「よっし。がんばろー!」
 大きく手を振ってフレームアウトした女優の表情は素顔の彼女。
 彼女にそんな表情を浮かべさせた電話の相手は知らない。
 自分が受けたいつもの電話、交わしたいつもの会話、それが暫く後にそのまま携帯電話のコマーシャルで全国に放送されることなど。


「っしゃ、いくかー!」
 午後の日差しを浴びた練習グラウンドに気合を入れながら踏み込んでいく息子は、今はまだ、何も知らない。


<カレーあとがき>
いただいたCMプランから「カレーのCM」ということで書いてみました。
本当は子どもと一緒にというリクエストだったのですが、リーダー以外子どもみたいなものになってしまいました。いただいた案をかなりアレンジしてしまった形になりましたが、いかがだったでしょうか〜。
不安は残りますが、ご応募ありがとうございました!

<携帯あとがき>
今回、ちょこちょこと高山母子へのリクエストがあったので、こんな話になりました。
ケータイ電話CMです。杉山が契約している会社がモデルです。
そしてこのCMの撮影者は宮川聡です。

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