<まえがき>
このSSは2006年感謝企画の中で行った第2回BSシリーズ人気キャラ投票の結果を受けてのお話です。
投票結果はコチラ↓
1位 高山浩二(79票)
2位 江口英介(61票)
3位 矢良薫(8票)
4位 富永真吾(7票)
5位 樋口夏木(6票)
6位 片岡昴 宮川聡(4票)
7位 佐藤優輝(3票)
8位 内田京介(2票)
9位 水内純平・江口勲・江口友里・高山家(1票)
このような結果になりました。
1位のタカをメインにしたSSになりますので、ランキング結果全てを反映させた内容にはなっておりません。あらかじめご了承ください。
投票にご協力くださった皆様、ありがとうございました!
「うっそ、マジで!!」
クラブハウスのマッサージルームに、リラックスタイムをぶち壊す悲壮な声が響いた。
「うるせー、英介。俺がびっくりしてユーキの筋違えたらどうする気だ」
「えぇっ、びっくりしたくらいで筋やっちゃわないでくださいよ!」
太股痛を訴えたユーキの症状を確認していた矢良の注意も耳に届かないらしい。
開いた雑誌に顔を突っ込むようにして、もう一度、
「うそだ」
と喚いた。
「あ、サッカー愛じゃん。ランキング、どうなってる?」
英介が凝視している雑誌はプレーが採点されるシビアなサッカー週刊雑誌とは違い、隔月発行で女性読者をターゲットとした雑誌だった。
その中のコーナーに人気選手ランキングがあり、それを見れば日本人サッカープレーヤーのイケメンチェックができるというもの。
評価対象はプレーではなく、顔や言動やユーモアに重きが置かれる。
「スバルはとっくの昔に圏外だろ」
「週刊誌に乱交パーティーとか書かれて、どーんと落ちたまま上がってこないんだよな」
「乱交じゃないです、合コンです」
ついこの前までは三位以上の常連だった昴も、ゴシップ記事に叩き落された。
先週までは英介がトップの座に輝いていたのだが、今季また変動があったらしい。
「首位は誰だ?」
英介がのろのろと広げて見せた雑誌のランキングコーナーのトップには、ゴールを決めた直後の笑顔が掲載されていた。
「うっそ、タカさん!」
前回の順位からの急浮上で初の一位。
いつも硬い表情が崩れ、優しそうでもあり少年のようでもある笑顔。
堅実なプレーや真面目そうな人柄を一部のファンから根強く支持されて今まで十位から七位に留まり続けていた男が、いきなりの一位。
「先日から放送が始まった某携帯電話会社のCMでは声のみとは言え、初の母子競演を果たした高山選手。少年のような一面と優しい声音で多くのファンを虜にし、前回八位から驚異のランクアップを見せた。語る言葉も少なく表情もあまり変わらないため現代のサムライと称されてきたが、ここに来て親しみやすい一面も明らかになりファンの層を広げた」
コメントを矢良が読み上げると、なるほどなーと納得の声が上がる。
読者からのコメントには“かっこいい”という言葉が並ぶ。
ページを一枚めくると、二位には江口英介の名前とグラウンドに寝そべって笑っている写真がある。
「なんだ、お前、二位じゃんか」
一位の選手よりもずっと狭いコメント欄には、「相変わらずの可愛さです」とどうでもいいような一言があるだけだ。
「駄目だ……。ちょーショック」
英介はガクリと首を折る。
「なんでよ? お前、このランキングはサッカー影響してないから気にしないって言ってただろ」
「だって、タカに負けた……」
何よりもその下克上が許せないらしい。
本当にショックを受けているようで、大きな溜め息をついてみせる。
「その凹み方どうなの? 彼氏がかっこいいって認められてるんだと思えば、ちょっとは嬉しいだろ?」
「そんなの別にどうでもいいっす。タカが俺よりかっこいいって思われてるのがムカつく」
自分以外の女性から好意を寄せられている、という嫉妬ではないらしい。
自分よりもてるのが許せないという、単純な男の意地。
口唇を尖らせながら、昴や富永に負ける方が納得いくのにと呟く。
顔や体型が男らしく女性の心を惹きつけるのは認めるところだが、中身は果たして、と英介は思うのだ。
「褒められると自信なくす面倒くさい男なのに」
わかってるのかな。
そんな風に愚痴りながら首を傾げるのがおかしい。
「そういうところも含めて人気なんだろ。母性本能をくすぐるんだよ」
「母性本能くすぐるのなら、俺も得意よ」
「昴は父性本能もくすぐる子よ。お前、これからむこう一ヶ月間の夜間外出禁止」
「えぇえっ、薫さーん、それはないっすよ!」
「黙れ。精力吐き出してばっかりじゃなくてたまには溜めとけ。いいプレーができるぞ。俺の親心だ」
「いらない、そんな親心!」
余計な茶々を入れた昴も絶望し、がっくりと項垂れた。
やかましいほど元気なツートップがそろって意気消沈している姿は気味が悪い。
誰かこの空気を打ち破ってはくれないかとマッサージルームに居合わせた面々が思っていると、短いノックの後にドアが開き、人気ランキング一位が入ってきた。
「昴さん、ロビーにアキナさんって言う女性が来てますけど」
「えっ、アキナちゃんっ? デートのお誘いかなっ」
「実家に帰ることにしたから、部屋に忘れてった昴さんの荷物を届けにきたって言ってましたけど」
「……えぇー?」
上昇しかけた気持ちは一気に底まで落ち、よろよろした足取りで昴は歩き出す。
「午後練もあるから、帰って来いよ」
矢良はその背中に容赦なく止めを刺して、選手たちを青くさせた。
「美人だったか?」
「綺麗な人でしたよ」
「昴にはもったいないか」
「そうですね」
国内で今最も人気があるらしいサッカー選手の返事は素っ気無い。
一緒にいて楽しそうと思えるタイプではないのだが。
そんな男の視線は自然の流れなのか、最初から探していたのか、失意を抱える相方へと向けられ、その機嫌がよろしくないことを一瞬で悟る。
どうかしたのかと、高山が尋ねるより先に英介が行動に出た。
「あー、ショックすぎて眩暈がする!」
叫ぶなり、傍らにいたユーキの腰に抱きついた。
高山が驚いたのは一瞬。
瞬き一回ほどの時間でそれは消え、すぐに何を考えているのかわからない無表情に戻っていった。
戻ったというよりは、悪化した。
カチンと固まったのは高山の表情だけでなく、抱きつかれたユーキも石と化す。
胸の中では、
(眩暈なんて生まれてこのかたしたことねーくせにー!)
と叫んでいるのだが、音声になることはない。
ぎゅうぎゅうと英介の腕がユーキを抱擁している間、高山の視線は矢良やトレーナーに説明を求めた。
いくつかの視線は英介の手の中にある雑誌に向けられ、なんとなく事を察する。
英介は哀れな後輩を抱きしめたまま、ドクターにお伺いをたてる。
「薫さん、ユーキまだ要る?」
「もうちょいな」
「ふぅん。じゃあ遠山誘って飯行こうかな」
ターゲットを他のチームメイトに合わせると、ユーキはすかさずこくこくと頷いてみせる。
「じゃあ、ユーキは俺と飯行くか」
しかし、そう簡単にこの修羅場は抜けられないらしい。
間髪おかずに高山から地獄のような誘いがかかる。
行くか、という語尾にクエスチョンマークは感じ取れず、ほぼ断定口調のそれに首を横に振るだけの勇気も持ち合わせてはいない。
まとう空気にピリっとした棘を生やし始めた英介は、玩具に飽きたようにユーキから離れると、高山に向けて思い切り舌を出しマッサージルームを出て行った。
室内に満ちる忍び笑いに便乗できないユーキは、ぐったりとした体を優秀なドクターに委ねる。
「心療は俺の専門外なんだけどな」
笑いながら、矢良はマッサージを再開する。
高山は英介が置いていった雑誌を手にして、大きな溜め息をついてみせた。
「こんなの、三日天下に決まってるのに、あのアホは」
「えらく謙虚だな」
「この集計の後から英介が出てるコマーシャルが放送開始になったから、次はあいつがトップですよ。ダントツの」
「なるほど」
「たまには俺に花もたせるなり嫉妬するなりすれば可愛いのに」
うんざりと肩を落とす。
「男前同士は難しいな」
そんな茶々に頷きかけた高山は、首を傾げてそうでもないかもと言い直す。
「週末には解決しますよ。俺のアシストあいつが決めて終わり。俺なくして江口英介はかっこよくなり得ないってことが証明されますから」
珍しく自信を湛えた物言いは、高山浩二の成長を感じさせる。
認められることを怖がるような、選手として致命的な欠陥を抱えた少年は、自分なりの輝き方を見つけたのだ。
「お前もじゅうぶん人気ランキング一位にふさわしい男前だよ。さぁ、ユーキも一丁上がり。連れて行くか?」
「どうも。何食いに行くかなぁ」
何が食べたいと話を振られ、引き渡された青年は思い切る。
「タカさんっ、すみません、俺っ、遠山と飯行ってきますんで!」
すみません、と高山が口を挟む間を与えないほど連呼しながら、ユーキはマッサージルームを逃げ出した。
精一杯の気遣いはユーキの成長の証か。
呆気にとられた高山は、ややあって苦笑交じりの溜め息をつく。
もう何年か経てば、あの少年と青年の過渡期にあるような若者がランキングに食い込んでくるのだろう。
高山の思考は数年単位の未来から、あと数分後の和解にむく。
何と言ってあのプライドの高い男を口説き落とそうか。
出会ってから今までも、そしてこれからもずっと、君は自分のヒーローなのだと、どうしたら伝わるだろうか。
答えは週末のスタジアムの中。
サッカー愛はAI。