Thanks Project 2006
クリスマスお題連載編
聖夜に5つのお題


聖夜に5つのお題 …… 配布サイト/COUNT TEN.
※配布されているのは1〜5までのお題です。αは結のオリジナルです。

01:待ち人
02:イルミネーション
03:雪
04:クリスマスケーキ
05:ぬくもり
α:Drink Me(裏へどうぞ)


01:待ち人(2006/12/4)

 プロ入りしてからずっと、クリスマスを楽しいと思ったことがない。
 秋から元旦にかけての天皇杯はクリスマスを挟む。
 負ければ終わりのトーナメントを勝ち進んでいればクリスマスを楽しんでいる暇などないし、敗退していれば悔しさを噛み締めなければならない。
 けれど今年のクリスマスは、ちょっと楽しいかもしれない。
 早々に天皇杯敗退となったことは悔しいし情けないけれど、イルミネーションやクリスマス仕様に飾られた街の雰囲気を堪能していると浮かれてしまう。
 敗退後、しょげるチームに一枚のプリントが配布された。
 選手慰労とスタッフへの謝恩を兼ねた、クリスマスパーティー参加者募集のチラシだった。
 主催に名前のあがる富永がいつから計画していたのかは知らないが、会場に書かれた県北のホテルは小さいながら雰囲気のある洋館で、どうやって貸切なんてことが可能になったのか、考えるだけ怖い気がする。
 ともかく、今年のクリスマスは例年とは違った一夜になるのは間違いなく、英介もそわそわしながら腕時計に視線を落とした。

 駅のコーヒースタンドは回転が早い。
 時計を睨んでいた人が通りから手を振る待ち人を見つけると、ぱっと笑顔になって席を立つ。
 そんな風景をぼんやり眺めながら、英介はもう半分ほどになったカフェオレを大事に飲む。
 クリスマス当日、午後から取材が入っていた英介は高山と待ち合わせをした。
 合流したらそのまま会場に行こうと約束した時間まであと十分。
 思いのほか早く終わってしまった取材のせいで、二十分も待つ羽目になってしまった。
 高山は合流するまでに、幹事を務める富永へ参加者からのお礼としてワインを購入することになっている。
 生活する場所が同じ二人は待ち合わせをすることが滅多にない。
 最初の十分間はわくわくと久々の待ち時間を楽しんでいたのだが、今は早く時計の針が進んでくれないかそわそわするだけだ。
「待った?」
 耳に馴染んだ声がした。
 店内で何度か聞いた、けれど自分に向けられてはいなかった言葉を乗せて。
「十分前だけど、遅い」
 隣のスツールに滑り込んできた連れは、厳しいなと笑った。
「ちょっと休憩させて」
 そう言って、持ってきたオレンジジュースを一口飲む。
「だいぶ待った?」
「取材が早く終わったから」
 そっか、と呟いて大きな溜息を一つ。
 目当ての物は買えたのかと問うと、なんとかという苦い答えが返る。
「すげぇ人で、だいぶ待たされたけどな。取り寄せといて良かった」
 背後ではまた一組のカップルが席を立つ。
「待ち合わせするの、久しぶりだったから楽しかった」
 後半は待ちくたびれてしまったけれど、こうして隣の席が埋まったことの安心感を味わえたのでよしとしよう。
「なら、良かった」
 笑った高山は、走ってきたのだろう。
 この寒い季節に冷たいジュースが欲しくなる程度には焦りながら、人込みをかき分けて。
「クリスマスーって、感じだ」
 嬉しくて楽しくて、ドキドキしたりそわそわしたり。
 街は綺麗でキラキラしている。
「じゃあ、行くか」
「寝れるかな、今日」
「諦めとけ。どっちに転んでも寝れないから」
「どう言う意味だよ」
「クリスマスだから」
「あのなぁ、本来クリスマスってのはだねー…」
 そんなやりとりを交わしながら乗り込んだスカイラインの中。
 額への口付けで聖夜の幕が上がる。

02:イルミネーション (2006/12/11)

 目的地のホテルまであとちょっと。
 みんなもう揃っているのだろうか、美味しい料理が並んでいるだろうか。
 膨らんだ想像をバチンと弾けさせたのは、高山の愛車であるスカイラインの停車だった。
「どうした?」
 運転手はサイドブレーキを自棄のように引き上げて、うんざり顔で助手席を見る。
「パンクっぽいな」
 先刻、ガタガタと車体が揺れたのは山道のせいではなかったらしい。
「マジで?」
 幸い待避所に寄せて停車できたスカイラインから降りてタイヤを点検すると、右後輪のタイヤがへしゃげていた。
「釘でも踏んだかな」
 タイヤを撫でて溜息をついた高山は落胆を隠せない。
 しかしいつまでも凹んでいるわけにはいかない。
「俺、富永さんに電話しとく」
 携帯を開いた英介が、低く唸り声を上げた。
 まさか、と高山も自分の携帯電話を開く。
 谷間の待避所に、携帯電話の電波は届かないらしい。
「さっさとタイヤ替えて行くか」
「一本だけだし、あっちゅー間でしょ」
 ガコンと音を立てて開いたトランクの中敷を捲り、二人は動きを止める。
 ぽっかりと開いた空洞。
 そこには本来、スペアタイヤが収まっているはずだ。
「……あ!」
 空洞の理由に思い当たった高山は、夜空を見上げて白い息を長く吐き出した。
「昴さん……」
 恨みがましく呼ばれた相手に、この寒さと衝撃が届けばいい。
「夏に昴さんにコイツ貸したんだよ。パンクしたから弁償しとくって言ってたんだけど……」
 新品を四本履かせてくれたのはいいが、肝心のスペアのことなど頭にはなかったのだろう。
 点検しなかった自分も自分だが、まさかこんなタイミングで発覚しなくてもいい。
 電話は圏外、スペアタイヤは無い。
「歩く、か」
「それしかないだろ」
 夜道に街灯はほとんどなく、本当の闇が前方を塞いでいる。
 寒さも市内のそれとは比べ物にならないほど厳しい。
 けれど先に進まなければ、暖かい部屋も美味しい料理も遠くに想像として霞むだけだ。
 スポーツマンシップを発揮して、二人は一泊用の軽い荷物を持ってスカイラインに一時の別れを告げる。
 車通りのほとんどない夜道も、しばらくすると目が慣れてきた。
 寒さは身にしみるが、歩いていればいつかぽかぽかしてくるだろう。
「あと何キロくらいかな」
「十キロはないと思うんだけど」
 コツコツと自分たちの足音と、鼻声になりつつある囁きがやけに大きく聞こえる。
「さっむい!」
「雪でも降りそうだな」
「ホワイトクリスマスになったらチビ達が喜びそうだけど」
「お前もな」
 コートの繊維の間にまで寒さが染み込んでくる。
「うー、凍死する!」
 とん、と隣を歩く高山に体当たりをしながら、英介は賑やかに叫んだ。
 そうしながら高山のコートのポケットに自分の手も滑り込ませる。
 そんな可愛い行動に出ながら、サッカーボール持って来れば良かったと呟くから苦笑してしまう。
「二人で来て良かったな。お前一人じゃ怖くて車から降りられないだろ」
「否定できないのが悔しい」
 ポケットの中で握った冷たい手が、徐々に温かくなっていく。
 英介が傍にいればトラブルも楽しめてしまうから不思議だ。
「なーんか、わけのわからんクリスマスだな」
 満更でもない顔でぼやく高山を見上げ、英介は楽しそうに笑う。

 そうして他愛もないやり取りと、空腹と寒さを訴えるぼやきを口にし合ってどれだけ歩いただろうか。
 あ、と英介が声を上げた。
 暗い坂道の先に光が見えた。
「よっしゃ、走るぞ!」
 目的地が見えたことでやる気が出たらしい。
 もしくは、これ以上の空腹に耐えられなくなったのか。
 そう言えばとポケットに突っ込んだままの携帯電話を見ると、集合時間に四十分遅れていることと、電波が届いていることを知らされる。
 自棄のように坂を駆け上がる英介を追うと、光の正体がわかった。
 ホテルに灯った灯りだけではなく、庭にイルミネーションが飾られているのだ。
 ここ数年の流行だという青白い洗練された光ではなく、素朴な黄金色のイルミネーションが葉を落とした木を彩っている。
 いかにも暖かそうな光景に抱いた感動は、英介が開けたドアから聞こえてきた、遅ぇというブーイングにかき消される。
 災難の道程はここで終了だ。
 あとは楽しいクリスマスパーティーが待っている。
 高山も、あとわずかとなった坂道を駆け上がった。

03:雪 (2006/12/17)

 辿り着いた山間の洋館は、普段なら心地よい静寂に包まれ穏やかな時間が流れる空間なのだろう。
 だが今年のクリスマスだけは賑やかに彩られることになった。
 馬越寮監の旧友が営んでいると知った洋館は、賑やかな客人を招きいれた。
 館が主と一家を失って数十年。
 静けさの中に身を浸す古い館に懐かしい子供たちの歓声や走り回る足音を響かせてやりたいと思い立って、オーナー夫婦が誘いを掛けたらしい。
 その希望通り、瀟洒な館には笑い声や歓声があちこちから溢れ、パタパタと走り回る子供たちの足音も絶え間ない。
 最後の客人となった英介と高山は四十分の遅刻を真っ先に詰られたが、パンクとスペアタイヤが無かったトラブルを説明すると罵声は昴へと矛先を変えた。
 馴染みの顔に迎えられながら、二人はともかくと想定外の運動で限界を訴える腹を満たし始めた。
「一年間お疲れさん、とんだ災難もおつかれさん」
 グラスを軽く触れ合わせる挨拶を交わしながら、ようやく一心地つく。
 そのタイミングを見計らっていたのか、いつもよりもランクが上のアルコールに手を伸ばしかけたところで英介と高山は子供たちに捕獲されてしまった。
 『遊ぼう』と、キラキラした瞳で見上げられれば拒むことはできない。
 選手やスタッフの子供たちが集合してのクリスマス。
 いつもと違うシチュエーション。
 子供たちのテンションも上がるのだろう、手を引かれるままに広々とした食堂から連れ出されてしまう。
 客室の一つはツリーで飾られ、ゲーム機やおもちゃが並べてある。
 まるで外国映画のクリスマスの一場面のようだが、ベッドでぐったりと伸びている後輩の屍が現実に引き戻す。
「ユーキくん、疲れちゃったんだってー」
「サッカー選手なのに僕たちより先に疲れるなんて、変なのー」
「ちがうよー、ユーキ兄ちゃんは酔っ払いなんだよ」
 小学校高学年の女の子がこっそりと教えてくれた。
 乾杯の際、飲ませ魔富永の餌食第一号としてハイペースで飲まされたらしい。
 先輩の酌を断れず、そして子供たちの遊んで攻撃も断れず。
 子供たちにじゃれつかれているうちにアルコールが回り、ダウンをとられたらしい。
「誰かユーキくんにお水持ってきてくれるか?」
 哀れな後輩を気遣う高山の一声に、女の子達はわれ先にと走り出す。
「さすがは初恋キラー」
「なんだ、それ」
「娘の初恋をタカに奪われたって悔しがっているパパが大勢いるってことだよ」
「怖いこと言うなよ」
 本当のことだと英介は肩をすくめて見せる。
 高山の持つ近寄りがたい雰囲気と、話してみてわかる優しい一面に少女達は小さな胸を躍らせる。
 べったりと懐いていた少女が小学校の高学年くらいになると、高山と距離をとりたがる。
 遠くから見つめて、話しかけられれば頬を染めて笑顔になるのだ。
 娘の初恋の相手は父親だというけれど、それをカウントに入れなければここにいる少女達の多くは高山浩二に初恋を持っていかれたことになる。
 それを一応”恋人”の立場から見守るのは、微笑ましいような妬けるような怖いような。
 そんな気持ちを誤魔化して、英介は伸びているユーキを起こす。
「選手交代だ。おつかれさん」
 目を開けたユーキは差し出された水を飲み干して息を吹き返す。
「部屋、一人で行けるか? 遠山でも呼んで来るか?」
「……遠山は……、彼女と……、電話してるんス」
 ようやく彼女が出来た同期に気を使い、子供たちの相手を買ってでたのだろう。
 ユーキ本人はと言えば、友達以上恋人未満状態の英介の妹と過ごすクリスマスは仕事の都合で叶わなかった。
 意気消沈のグロッキーな酔っ払いは、とぼとぼと子供部屋を出て行った。
「あとで友里に電話してやってって言っとこう」
 とびきりのクリスマスプレゼントを思いついて、英介は子供たちに向き直る。
「さーて、何して遊ぶ?」
 子供たちは待ってましたと声をそろえた。
 大きなお屋敷、大勢の友達。
 やってみたい事と言えば、
「かくれんぼ!」

 数十分後。
 不自然にぐるぐると巻かれたカーテンを解いていくと、きゃーという可愛らしい悲鳴が上がる。
 中から出てきたのはポニーテールを乱した女の子だった。
「アイちゃん、見つけた」
 はにかんだように笑う少女の髪の毛を手櫛で整えてやると、お礼を言って子供部屋に駆けていく。
 あと何人だったかと鬼の相棒役となった男の子と指折り数えて、その中に英介の名前があがってくるのに気がついた。
「あ、子供部屋まだ見てない!」
 相棒は灯台下暗しという諺を知っていたのか、ばたばたと駆けて行った。
 すぐに見つけたという大声と歓声が上がる。
 さて、英介はどこに行ったのか。
 思案しようとした高山の耳に、雪という言葉が聞こえてきた。
「おとうさーん、おかーさん! 雪だよ! 雪が降ってる!」
 子供部屋は一気に沸きあがり、食堂でくつろぐ大人たちに報告するための足音も溢れた。
 雪、と聞いて閃いた。
 サッカー馬鹿で色気より食い気という性格ではあるが、あれは意外と季節の花や空を眺めるのが好きだという性質もある。
 探し当てたのは冬の冷たい風が僅かにビロードのカーテンを揺らすバルコニー。
 カーテンを捲ると、手摺から腕を伸ばして雪に触れようとする後ろ姿が見えた。
 そっと忍び寄って背後から覆いかぶさると驚いて振り返り、一瞬後には笑顔になる。
「雪!」
「知ってるよ。冬用タイヤにしとけばよかった」
「情緒のない男だな。ホワイトクリスマスだよ」
 抱いた背中はひんやりしている。
 顎や頬に触れる髪の毛も冷たい。
「いつからここに隠れてたんだよ」
「あ、かくれんぼしてたのに、見つかっちゃったな」
「気づくのが遅い」
 冷気を孕んだ体を温めたくて、ぎゅうぎゅうと抱きしめると英介は苦しいと文句を言いながら体を預ける。
 眼下には金色に光るイルミネーション。
 賑やかな人々を包み込む館の上から雪はハラハラと舞い落ちる。
 懲りずに雪に向けて伸ばされた英介の手の平を、高山の手が包んだ。
「冷たい」
 そのまま自分の体温を分け与えるように握りこむと、英介が小さく笑う。
「あーあ、俺って嫌な大人だなぁ」
「何?」
「女の子たちの初恋はさ、雪みたいなもんだなぁって思ってたんだよ。ふわーって溶けちゃうけど、綺麗なの。それに触りたいって伸ばした俺の手は、タカが握ってくれる。それがちょっと嬉しくて、これって優越感なのかなぁって思った」
 雪を眺めてはしゃいで、子供と一緒だと思っていたらこの発言。
 やられた、と高山は英介の肩に顔を埋める。
 恥ずかしいし嬉しいし、今の自分の顔は相当だらしがないことになっているはずだ。
「明日は積もるかなぁ。積もったらみんなで雪合戦しようか。飲ませ魔の餌食になってなければの話だけど」
 そんな高山の心中など知りもしない英介は、無邪気に明日の計画を練る。
 そこに弾けたイルミネーションとは違う光に驚いて振り返れば、玩具のようなポラロイドカメラを持った昴がニヤリと笑ってベランダの入り口から身を翻すところだった。
 かくれんぼをエスケープしての逢引写真にはでかでかとハートマークが描かれて、参加者達に微笑ましさと笑いを提供する。
 そしてその写真は淡い初恋を溶かして、いつか芽吹く想いの種へと生まれ変わらせるのだ。

04:クリスマスケーキ(2006/12/24)

「こんなに賑やかなのは本当に久しぶり。穏やかに静かに暮らすだけでは駄目ね。たまにはこうして子供たちの笑い声や打ち解けた若い人のパワーをもらわないと」
 かくれんぼやらホワイトクリスマスへの歓声やら隠し撮り写真の騒動が一段落した頃、お茶の準備を始めたオーナー婦人がしみじみと呟いた。
「賑やかすぎるでしょう。申し訳ないです」
「いいんですよ。この家も、昔は十人近い子供たちが暮らしていたことがあるんですって。家もその時代を懐かしんでいることでしょう。さぁ、デザートの準備ができましたよ。お嬢ちゃん、坊ちゃんからどうぞ」
 白髪の老女は楽しげに微笑んで、孫か曾孫ほどの子供たちを手招く。
 用意されたのはバイキングで見かけるような小さなカットケーキが数種類。
 チョコレート、イチゴ、抹茶にプリンと色鮮やかなそれらに子供たちは歓声を上げている。
 アルコール組は秘蔵のボトルを持ち寄って封を切る。
 ダイニングに飾られたツリーの周りでは大人も子供も楽しげに笑いながら、クリスマスを満喫している。
「なんか、クリスマスが楽しいのって本当に久しぶりだな」
 誰からともなくそんな感想が零れる。
「なんだ、英介は飲まんのか」
 英介が皿に幾つかのケーキを載せてソファに腰を下ろすと、昴が不満そうにグラスを出してくる。
 昴も甘党だが、それよりは秘蔵のアルコール類の方が好みらしい。
「これ以上は楽しいクリスマスが台無しになります」
「残念だな。お前の一人反省会を聞きたかったんだけど」
「それより昴さん、さっき撮った写真はっ?」
「ありゃ、どっかいっちゃった」
 おどける昴を睨んでも、最早効き目はない。
 ヘラリと笑ってかわされるだけだ。

「おやすみなさーい」
「はーい、おやすみー」
 子供たちがケーキを平らげて眠そうに目をこすりだすタイミングに合わせ、ほろ酔いの大人たちはピッチを僅かに上げる。
 子供たちは子供部屋への集団お泊りになるらしいが、散々はしゃぎまわった彼らに枕投げはできないかもしれない。
 リビングの方ではご婦人方が主人の愚痴等々に花を咲かせているのだろう。
「あっらー、高山くんは杯が空じゃない。お注ぎしましょうね」
 選手が作る輪の中では、キャプテンが両手に酒瓶を持ってフットワーク軽く後輩達の杯を満たして回る。
「や、もうこのへんで、やめときます」
「うちの宴会にやめとくの文字はねぇ。飲め」
 人のグラスに酒を注ぐ姿が最も様になり最も手馴れている飲ませ魔は、普段はとてもじゃないが口にできないランクのボトルを躊躇なく開け、タプタプと高山のグラスを満たす。
「英介のグラスも空ですが」
「お、可愛い相方を生贄にする気か? 俺の妄想的にはお前が勃たない方が面白い」
「どんな妄想ですか。高い酒なんだから生みたいに呷らない!」
「まぁ、飲め! クリスマスだ! メリークリスマース!」
 クリスマスパーティーは普段通りの宴会の様相へと近づいていく。
 富永の妄想上の理由で餌食となることを逃れた英介は、ケーキを頬張りながら今シーズンを振り返りサッカー談義に花を咲かせる。
 絶好調の飲ませ魔に脅され、飲み口のいい高級酒に騙され、高山の思考は拡散していく。
「タカ専用のデザートはお預けでーす」
 ぶよぶよと膨れて萎んで霧散していく意識の中、かの有名なクリスマス泥棒撃退ムービーの悪知恵働く主人公の顔を彷彿とさせる大先輩の会心の笑みを見た気がした。

05:ぬくもり (2006/12/25)

 耳にこびりついたような賑やかな人の気配がすーっと消えていって、たった一つの気配が傍に残った。
 もっと傍に寄り添って欲しいと手を伸ばすのにそれはなかなか捕らえることができず、苛立ちにも似た感情の波が起きて目が覚めた。
 ダイニングでの宴会から記憶はブラックアウトして、今に至る。
 高山は視線を巡らせ、自分たちに与えられたツインルームにいることを認識する。
 ベッドサイドのアンティークらしきランプが一つ灯っている。
「起きた?」
 隣のベッドに転がっていた英介が起き上がり、高山の頬に触れてきた。
「二日酔いは? って、まだそんなに時間経ってないけど」
 窓辺に置いたピッチャーからコップへ水を注いで渡してくれる。
 染み込んできた外気で水はキンと冷え、ほんのりとレモンの風味がした。
「割とすっきりしてる。高い酒は酔い方も違うのかな」
「富永さんの猥談にうんうんって相槌打ってたら、そのままグーって寝ちゃったんだぜ」
「今、何時?」
「1時」
「26日の?」
「そうだよ」
 くすくすと可笑しそうに笑いながら、英介は高山のベッドに腰を下ろす。
「まだ下には灯りがついてる。富永さんや昴さんが残ってたから、まだ盛り上がってるみたい」
 つい先刻までの喧騒が幻のようだ。
 子供たちは遊び疲れてぐっすりと眠っているのだろうし、ご婦人方も喋り疲れながらこの洒落たホテルの雰囲気を堪能しつつ眠りについたのか。
 高山の少し伸びた髭に触れる英介の指先からは甘い匂いがした。
「俺のカバンの中」
「え?」
「プレゼントが入ってる」
 驚いて赤くなった顔のまま、英介は高山のカバンから包みを取り出した。
「開けていい?」
「どうぞ」
 慎重な手つきで解かれた包みの中からは、ブルーグレーの大判ブランケットが出てきた。
「車の暖房効きが悪いから、いつも寒そうにしてるだろ。これ一枚でもあればましになるかなと思って」
「あ、端っこが花柄。可愛い」
 控え目に散らされた花模様は、可愛い物好きな英介のツボをつくだろうと思っていた。
 触り心地のいい生地を抱きしめて英介は”ありがとうと"と、とびきり可愛い笑顔を浮かべた。
 運転中、助手席で英介が眠っているという状況が高山は好きだ。
 カーステレオからは好きな音楽、隣では好きな人が安心して眠っている。
 あの閉ざされた空間には幸せが満ちているようで。
 このブランケットに包まって眠る姿は可愛いだろうなと思って選んだのだが、気に入ってくれて良かった。
「俺もプレゼントあるんだけど、割れ物だから寮に置いてきた。サンタ気取りでタカの部屋の枕元にあるから、帰ったら踏んづけるなよ」
「わかった。楽しみにしとく」
 答えながら、ずるずると英介を自分のベッドに引きずりこむと、
「寝ゲロすんなよ」
 恐ろしく今のムードと噛み合わない言葉が出てきて少々萎える。
 飲みすぎで役立たずになることよりも、相手の発言で萎える方がよほど深刻な事態だと思いながら、未だ上質の酔いが澱む体を英介の中で泳がせる。


 色気なくムードを木っ端微塵にする英介が用意したプレゼントは、後日高山の理性を粉砕する。
 無人の寮、高山のベッドの枕元。
 クリスマスカラーの包みの中では、蜜の味がするアイスワインが待っている。
 繊細なボトルに注がれた液体につけられた名前は、

 Drink Me


α:★Drink Me
ここより先はおまけのエロです。


2006感謝企画でした!
久々のクリスマス話、楽しんで書きました。皆さんにも楽しんでいただけたら幸いです。

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