01:vanilla ice cream dream(タカ×英介)
02:honey honey lip(タカ×英介)
03:bitter chocolate kiss(タカ×英介)
04:pink peach affair(タカ×英介)
05:very berry lovers(タカ×英介)
■お借りしたのはコチラ……COUNT TEN.
手を出したら拒まれた。
よくあることだが、一応理由を尋ねてみる。
英介は顔を真っ赤にしながら、
「……もう、ないじゃん」
と言った。
英語はぺらぺら喋れるくせに時々日本語が下手くそになる英介の言葉が通じず、どういう意味かともう一度尋ねてみると、更に英介は赤くなった。
「……、……ゴム、ないって言ってた」
口ごもり、うろうろと視線を彷徨わせながら、今度はちゃんと通じる日本語を話した。
「あれ? なかったっけ?」
「この前、タカが言ったんだろ」
この前ってのは何ヶ月前の話だと突っ込みかけて止めた。
話がややこしくなる。
「なら、買ってくるか」
「やだよ。恥ずかしい」
「俺行ってくるし」
「どこまで?」
「そこのコンビニ」
「駄目だ! それこそ恥ずかしい!」
「なんで。お前が行くんじゃないし」
「だって、タカがゴム買って使う相手って俺しかいないし。するのかなーとか、あそこの店員に思われるの、恥ずかしくねぇのっ?」
真っ赤になって力説する英介の発想とその必死さに、一瞬呆気にとられてしまった。
頭の中で言われたことを反芻して、恥ずかしいとは思わなかったが、英介の発想を可愛いと思った。
ベッドの下にある可愛らしい猫のイラストが描かれた缶の中に常備されていた避妊具は、英介の兄と妹から送りつけられたものだった。
それこそ十分恥ずかしい話だと思うのだが、あの食えない兄弟はどうにもならないという諦めもあるのだろう。
二人の関係がチームメイトではなく恋人であると世間には知られている状態であるにも関わらず、普段の生活で関わる人たちに肉体関係があると生々しく知られることが恥ずかしいと言う。
わからないでもないが、ここで恥ずかしがっているばかりではもう何もできない。
「じゃあ、昴さんあたりから仕入れてこようか」
「ばっかじゃねぇの!」
いい案だと思ったのだが、一喝されてしまった。
「じゃあ、どこならいいの」
両手で頬を包んで真正面から視線を合わせると、英介らしくなく視線がうろうろと泳ぎまくる。
遠い所と言うから、どこなら遠いのだと問えば自分で考えろと言われる。
遠い所で買おうとしても、週に一度はテレビに映る自分の顔はばれるかもしれないと言えば、顔を変えろと言う。
無理な希望を聞きながら、あちこちをしつこく撫で回し呼吸を乱させる。
「なぁ」
「なんだよっ」
「ハーゲンダッツ買ってくるから、コンビニで譲歩して」
頬は羞恥とは別の意味で赤くなって、泳いでいた視線は別の意味で宙を彷徨う。
もぞもぞと落ち着きなく動く英介は、悔しそうな顔をする。
「譲歩してやるけど、先にダッツ食うからな」
「いいよ、食わせてやる。けど、それで終わると思うなよ」
皴の寄った眉間に音を立てたキスをして、財布片手に部屋を出た。
どんな顔して自分の帰りを待つのだろうと想像すると、胸も体も脳髄も疼いて足が速くなる。
ごめん。
ちょっとリッチでひんやり甘いバニラアイスクリームは、先に食わしてやれないかも。
あとがき>ずっと書いてみたかったゴム切れネタ
英介が自分の口唇を摩る。
切ったのかと問えば、日に焼けたせいかガサガサするのだと言う。
勝手知った相棒の部屋だ。
雑然としたシェルフの中から、以前英介の妹から送られてきたリップバームの入った容器を探し出す。
それを手にベッドに寝そべっている英介に近付くと、可愛らしい顔を歪めて拒否反応を示す。
それを強引に膝の上に引き上げて横抱きにすると、さすがに驚いたように目を見開いて高山を凝視し、何か言おうと開いた口をパクパクさせる。
小さな容器の蓋を捻って、クリームを指先に掬ってペタリと英介の口元に塗りつけた。
びくりと跳ねた体は右手で抱きとめて、左手で口唇の上をゆるゆると往復する。
英介がぎゅっと目を閉じたのをいいことに、ほんの数秒で済む行為に時間をかける。
ふっくらしていてちょっと微笑むだけで華やかな雰囲気になるそこは、試合中に噛み切って痛々しいことになるのだが、今日は乾燥しているだけでリップバームを乗せて塗りこむとすぐに柔らかくなった。
同時にじわじわと耳が赤くなる。
弱いそこを撫でられるのに感じまいと体に力を入れているせいで、呼吸も止めている。
執拗に口唇を撫でていると、息苦しさに耐え切れず結んでいたそこをふっと解いた。
一緒に色を含んだ声も微かに聞こえてきて、してやったりと思えば、英介が目を開いて睨んできた。
普段なら迫力に押されてしまうが、この状態では可愛いだけだ。
塗りこんだリップバームは体温に溶けて甘ったるい匂いを放ち始める。
そこを潤すという目的を果たした高山の指は、新たな目的を持ってそこをゆったりと往復する。
たまらず目を伏せた英介の指先が高山のシャツに縋る。
何かを強請るための指先が作る仕草、眼差しを味わう。
そうして後頭部に添えた手で誘導する先、蜂蜜のように甘い口唇を食む。
あとがき>タカさんは口唇フェチ。
「うぉ……っ、不っ味い……!」
可愛らしい顔を惜しげなく歪めて、英介が口を押さえた。
お前が不味いと感じるものがこの世にあるのかと、失礼なことを言いかけた口を噤んで彼の手元を見ると、さっき昴さんからもらったチョコレートのパッケージがあった。
取り上げてみると、カカオのイラストと99%の文字がでかでかと書かれている。
最近、話題の苦いチョコレートと言うヤツか。
「にっげぇー……」
齧られたチョコレートを見れば、豪快な歯型が残っている。
「知ってて食べたんじゃないのか」
あきれ果てた声がでるのは仕方ない。
「昴さんが……」
呻くように言って、ばたんとベッドに伏せた。
昴が、という言葉で全て納得もいった。
『超美味いから食べてみー?』と、悪戯心丸出しの顔で差し出してきたに違いない。
「毒じゃねぇから大丈夫だ。そんで、カカオって頭も良くなるらしいぜ。良かったな」
転がりながら口の中の苦味を格闘している英介の足が伸びてくる。
一歩ひいて避けてやると、目線だけで攻撃してくる。
溜め息一つついて、ちょうだいと声を掛けると握ったままのチョコレートを差し出してきた。
そうじゃなく、と顔を寄せると抗わずに口唇も解く。
そうして英介の口内で溶けたチョコレートを舌で掬う。
甘味はないが、これはこれでチョコレートと思わずに食べればいけると思う。
全部もっていけというように、英介は自分から舌を絡めてくる。
一頻り舐めると、早く飲み込めと口を離される。
「クレヨン食ってるみたいだった」
あまりの言いようだが、甘党の英介には厳しい味なのかもしれない。
何か口直しはないかと問うから、もう一度口づけた。
苦いキスが甘くなるまで。
あとがき>クレヨンみたい、は友人の感想。衝撃のチョコでした。
熱中していたゲームから、ふっと意識が現実に戻ってくる。
飽きを感じて、英介はゲームを終了させた。
振り向くと、ベッドの上で雑誌を読んでいた相棒が寝息を立てている。
疲れたのかな、と目を覚まさない高山の顔を覗き込んで思う。
今日は内田コーチを引き止めて居残り練習をしていたので、先に引き上げてきた。
帰寮するなり大きなため息をついていたから、ハードにやってきたのだろう。
得意とするフリーキックの球種を増やしたいのだと、先日からこれまでにない蹴り方を試しているのだと言っていた。
自分の自信がない分、高山は努力を怠らない。
新しいものに挑んでいく勇気を持っている。
ベッドの淵に顎を乗せて、寝顔をしげしげと観察してみる。
骨格のしっかりした輪郭。
いつもは引き結ばれて簡単には解けない口唇は、安らかな寝息をたてている。
鋭いけれど、人に威圧感を与えることはない目。
物静かで穏やか、けれど融通が利かなさそうなそこも今は閉じられている。
なんなんだろう。
どこがかっこいいんだろうか。
世の高山ファンな女の子たちは、どのパーツがツボなんだろうか。
そして自分は、この顔のどこが嵌ったんだろうか。
見慣れ見飽きている形のはずなのに、時々、妙にドキドキして胸が騒ぐことがあるのは何故か。
男前だとは思うけど、自分は男前に惚れる嗜好ではなかったはずだが。
触れてみたらわかるだろうか。
何か伝わるものがあるだろうか。
身を乗り出して額に口唇を押し当ててみた。
目蓋、鼻筋、頬、耳朶。
まるで、自分の体の一部みたいに触れることができる存在だから、嵌ったのかもしれない。
一方的に触っているだけなのに、包み込んでもらっているような安心感がある。
口唇の端っこに触れ、首筋から深い懐へと潜り込んでいこうとすると、さわっと後頭部を撫でられた。
「あー……、すっげぇ夢見た」
呆けた声は掠れていた。
どんな夢だと問えば、言えないと返される。
腹の上に乗り上げると、どうかしたのかと頬を摩られる。
「タカの寝顔に欲情してた」
わざと体を揺すると、驚いた顔をするのが楽しい。
「そこ、ちょっとヤバイっ」
「夢の続きが見たい?」
「……見せてくれんの?」
「今日はどういったわけか、そういう気分なんだよね」
しよう。
短い言葉で誘うと、まだ夢の中なんじゃないかとタカは首を捻りながら腕を伸ばしてきた。
誘ったのは、見たくなったから。
自分だけを怖いくらい真っ直ぐに見てくれるタカの目を見たいと、体が疼いたからだ。
あとがき>誘い受け。英介は未だ手探り状態で恋愛してる。
美味しい料理店、特に甘いものが美味しいと評判の店に、英介は敏感だ。
しょっちゅうあそこのケーキを食べたいだのと言っているし、店にも詳しい。
それとはまったく正反対に、英介は雑食だ。
海外遠征先で誰もが顔をしかめる料理を平気で平らげるし、食中毒も一人だけ回避できている。
揺籠から棺桶まで、ではないが、英介の場合は三ツ星から残飯寸前まで。
ある意味、料理に対して失礼な舌を持っている。
その英介が高山に連れて行ってと強請ったのは、昔ながらの住宅地に埋もれるようにして存在する民家のようなカフェだった。
飴色の家具と控え目に鎮座する植物。
たっぷり差し込む光りは薄いカーテンにやんわりと遮られて、穏やかに店内を照らしている。
男二人で入るには可愛らしすぎる店だが、英介は気にしない。
昔から妹の友里に付き合わされ、連れまわされたのだろう。
英介の“可愛い”という感覚は、女の子のものに近いのかもしれない。
その可愛らしい店だが、平日昼前の客入りはささやかだった。
英介が選んだのは窓際のカウンター。
カウンターを挟んで店員が立つような配置だと、どっちを向いてしゃべったらいいのかわからなくなると苦手意識を持っている英介だが、向かいが窓なら気にならないらしい。
悩んだ末のオーダーが運ばれてくると、英介は嬉々としてフォークを手にして艶々した苺タルトにフォークを突き刺した。
俺の前にはブレンドコーヒーと黒糖プリン。
焼き物風の器に入ったそれを木製のスプーンで掬って一口食べると、黒糖のどこか懐かしい味がする。
英介は大振りのカフェオレボウルを両手で持って、ゆっくりと口に運ぶ。
穏やかな横顔が、しっかりとオフを満喫している証拠だ。
店内に流れるスローテンポのBGMに耳を傾け、会話は少ないけれど同じ空間に身を浸し、時を過ごす。
そのうち英介はいつものように店の本棚から適当な一冊を持ってきて、二人の間に広げて読み始める。
この店の本棚から選んだのは、この店が紹介されたらしいタウン情報誌だった。
「あ、ココも行きたい」
「どこ?」
一冊の本を覗き込んでいるうちに、二人のスツールは距離を詰める。
英介がふと顔を上げて、二人の顔の近さを認識したらしい。
目の端をさっと赤くして、視線を逸らしながら食べかけのタルトから零れたブルーベリーをフォークの先に突き刺した。
そしてそのフォークを俺に向ける。
素直に食いつくと、仄かにはにかむ。
お返しに二口程度食べただけの黒糖プリンを差し出すと、大口を開けてスプーンを銜え込んだ。
「食わないなら、ちょうだい」
スプーンに手を伸ばしてくるから、スプーンを持ったまま手を引いた。
むっとした顔をするくせに、その顔のまま差し出すスプーンには素直に食いつくから、可笑しくて楽しい。
男二人で可愛らしいカフェに入るのは正直恥ずかしいという気持ちがあったのだけど、こうして繰り返す休日の穏やかさは悪くない。
車に戻ったら、黒糖とベリーを味わった恋人にキスをしてみよう。
あとがき>こんな二人組がいたら観察しちゃうね。
タカ×英介のラブラブ甘々を心掛けてみました。