言ノ端七題_ver2【G】
2:素敵な眺め


 肌寒さを感じ始めた季節。
 互いの体温を分け合って眠り、迎えた朝は気持ちいい。
 もぞもぞと動き始めた体がお互いを蹴りあって、覚醒の気配に促しあって目が覚める。
 ぼんやりしながら目を開けて、寝起きの不細工な顔を笑い合う。
 そしてゆっくり起き出して、各部屋についている狭いユニットバスに向かう。
 覚醒までに時間のかかる俺は動きが鈍くて、先に顔を洗って小さな浴槽の縁に腰掛けて歯を磨く。
 その間に既にしゃきっとしているタカは顔を洗って歯も磨いて、髭を剃る。
 電気シェーバーのスイッチを入れて、ザリザリと音を立てる。
 普段は楽だからと電気シェーバーを使うけど、気合の入った日にはT字剃刀で丁寧に髭をあたっていく。
 あまり自分の顔が好きではないと言うタカが、自分の顔を凝視しなければならない時間帯。
 顔の角度を変えると、しっかりした骨格がよくわかる。
 顔を洗う時に濡れるからとパジャマを脱いでしまった男の広い肩と背中も見える。
 堅そうに見えて、意外なほど柔軟に動く筋肉がついた体が羨ましい。
 狭いユニットバスには電気シェーバーの立てる音が響く。
 ザリザリとタカの髭が剃り落とされる生活感の溢れる音を聞きながら、剃刀の方が色気があるな、とぼんやり考えた。
 そしてこのぼんやりとタカの体を眺める時間が、嫌いではないと思う。
「寝るなよ」
 シェーバーのスイッチを切って、こちらを向いたタカが呆れたような視線を投げてくる。
 緩慢に動かしていた歯ブラシを抜いて口を濯ぐ俺の頭上で、タカは剃り残しがないか確認している。
 俺が顔を上げると、タカの手は俺の頬や顎を一撫でしてくる。
 何の引っ掛かりもない肌をタカが笑ったのが、鏡越しに見えた。
 鏡越しに交わした視線は直に顔を合わせるより照れ臭い。
 腰に巻きついてきた手や、その体にすっぽり収まった自分の体や、目を細めたタカの表情まで見える。
 後ろから抱きしめられるのが、実は好き。
 好意のベクトルが、タカから俺に向いているのがわかる。
 タカがそうしたかったからという明確な理由が見える。
 縋られている感じが好きなのかもしれない。
 前、それを友里に言うと亭主関白ねと笑われた。
 でも俺だって普段はタカの背中に飛びついてじゃれて愛情表現してる。
 そういうと、えっちゃんは誰にだってそうするじゃないと言われたっけ。
 だから、タカにだけキスを許す。
 タカとだけセックスする。
 あなたが好きだという証拠。
 顔を上げると、タカも下を向いて視線を合わせる。
 口唇を合わせると同時に腹が鳴った。
「腹減った」
 言いながら、お互いの口唇を噛み合って身支度を終える。
「今日の朝ごはんは何かなー」
 狭いユニットを出て、本格始動。
 目覚めは君と過ごす一日が重なっていく証拠。
 幸せな朝に見る、幸せな景色。



2007/3/21
たまには甘い日常。

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