ウィンドウに飾られた可愛らしいワンピースに目がいく。
「友里ちゃんに?」
同伴者が尋ねてくるので、どう思いますかと意見を求めた。
「英介くんのセンスがいいって本当ね」
眼鏡の奥の瞳が悪戯っぽく微笑んだ。
「女の子の買い物にちゃんと付き合ってくれる男性って貴重よ」
「や、俺もすぐに飽きますよ。友里と買い物するとすぐに飽きたって言うから怒られる。似合いそうだなとか思ったらこれ着ろよって送りつけるだけ」
今度は声を上げて笑う。
いつもはおろしている緩いウェーブのかかった長い髪。
今日は綺麗に纏め上げられている。
赤色のフレームの眼鏡が若々しい。
逢沢瑠璃子と江口英介のツーショットは、変装らしい変装をしなくても案外目立たないらしい。
「で、友達には呆れられる。平気で女物の店とか入っていくから」
「浩二も?」
「え?」
「浩二も呆れてる?」
俺が友里や母さんのための買い物をしている時、タカはいつも居心地悪そうに俺の半歩後ろで待っているっけ。
その時の表情を思い出しながら頷くと、また瑠璃子さんは笑った。
「アレ、友里ちゃんに買う?」
「もうすぐアイツの誕生日だし、見てもいいですか?」
「もちろん」
強力なアドバイザーと一緒に店に入ると、さすがに接客に来てくれた店員には正体がばれてしまう。
それはそれで好都合で、何かと融通を利かせてくれるから気にはしない。
どうせ俺は買うと決めた店にしか入らないし。
ウィンドウに飾ってあったワンピースは近くで見るとやっぱり友里に似合う気がしたし、瑠璃子さんも同意してくれた。
サイズを問われ、網羅している妹の体型を伝える。
「俺があいつのスリーサイズとか知ってて勝手に服とか送るでしょ? 太れないって怒るんスよ」
「嬉しいのよ」
ワンピースは実家の方に送ってもらうことにして、付き合ってくれた瑠璃子さんにお礼を言おうと振り向くと、瑠璃子さんはキラキラしたミュールを手にしていた。
「友里ちゃん、靴のサイズなんセンチ?」
数日後には、友里が申し訳なさと嬉しさを半分半分にした声で電話を寄越すだろう。
そういう算段をしてカフェに入って一息ついている間も、瑠璃子さんはニコニコしていて、ただでさえ美人なのに機嫌良く微笑まれるとたまらないものがあって、俺は視線が合わせ辛い。
この人がタカのお母さんだと意識すると、余計に恥ずかしいような照れ臭いような。
実は今日、彼女に伝えようと思って持ってきた言葉があるのだが、それが引っ込んでしまいそうになる。
いやいや、言おうと決めたのだから。
コーヒーを一口。
息とタイミングを整えて口を開く。
「瑠璃子さん」
改まった声に、ティーカップに伸びていた瑠璃子さんの手が止まった。
「はい?」
自分の母と共通するような、柔らかい表情。
葛藤しながら自分の夢を追い、そして夫と息子の手を放すこともしなかった人だ。
その人から、俺は奪おうとしている。
この罪悪感を、タカも感じていただろうか。
俺の家族の前で頭を下げた姿が俺を後押しする。
「今更、なんスけど……。えっと……、タカを、もらってもいいですか?」
頬が熱い。
だけど顔を伏せるのは男らしくないと思うので、真っ赤になっているであろう顔を恥ずかしいと思いながら、瑠璃子さんを見た。
大女優は満開の笑顔を熨斗代わりにしてくれた。
息子さんを僕にください英介Ver.