言ノ端七題_ver2【G】
4:シャンプー



 二日酔いというのは、刑罰のような症状だと思う。
 飲みすぎたせいよと、自分が自分に与えた罰なのだ。
 こういう時、心と体は別々のものなのかなぁなんて思ったり。
 でも昨日は仕方ない。
 タイトルを獲ってしまったのだから。
 掛けたのか飲んだのかわからないほどアルコールにまみれて、飲ませ魔は絶好調で。
 大逆転の末のタイトルに興奮しっぱなしの体は底なしのように笑いとアルコールを吸い込んで、飽和状態のそれらが頭痛と吐き気になって滲み出てきたのは日付が変わってのこと。
 これを二日酔いと言う。
 でも、楽しかった。
 記憶こそあやふやだが、楽しくて仕方なかったのは覚えている。
 途切れ途切れの記憶を辿るが、自分の足でこのふかふかした清潔なシーツに包まったわけではないことは確かだ。
「……タ、カ?」
 寝かされているのは祝勝会会場となったホテルの一室。
 自分を介抱してくれたのは高山だろうが、返事がない。
 起き上がるのも怖い気がして、もう一度昨日の記憶を掘り返す。
 酒の席でのことはたいがい水に流れていくチームではあるが、自分の失態は把握しておきたいところ。
 蘇ってくるのは、ふわふわとした気持ちよさと弾けるような楽しさだけだ。
 失敗はなさそうだと安堵しかけた時、ドアが開いて予想通りの顔がのぞいた。
 目が合うと、呆れたような溜息を一つつかれた。
 何も言わずとも冷えたスポーツドリンクを渡され、ゆっくり起き上がってみるが頭痛からは逃れられなかった。
「ホテルが二日酔い患者の巣みたいだ」
 壁の向こうから悲壮な唸り声が聞こえてきそうだ。
「タカは二日酔い免除かよ」
「絶好調ではないけどな」
 言いながら伸ばしてきた手が額に触れて、こめかみから髪の毛を梳く。
 そうされて、内側で渦巻く不快さに比べると体はさっぱりしていることに気づく。
「風呂、入れてくれた?」
「ビールまみれだったからな」
「……すみません……」
 自分の体をまとう柑橘系の匂いに癒されるような気がする。
 スポーツドリンクを一口飲んで一息つくと、むくむくと記憶の一片が膨らんできた。
 昨夜、連れて行かれたバスルームで、逆上せないようにと温めのお湯を浴びせられながら嗅いだ匂いが何故かエロティックに感じられて、別の意味で酔ったことを。
 理性も意識も遠くの彼方にあった自分は真っ裸で、そこにそういう意味はないにしろ気持ちよさを与えられて。
「……ぅ、わ、ぁ、ああああ」
 頬が痛いくらいの熱を持つ。
 二日酔いの頭痛や吐き気など吹っ飛んでしまった。
「あれ? 記憶に残ったか?」
 皿を洗うのと同じ顔で俺を洗うタカに対して、愚かな酔っ払いは欲情したのだ。
 あの手をとって、触って欲しいところに導いて、したいことをしてもらって。
 アルコールの次は羞恥にまみれてもんどり打つ俺の前で、タカは余裕の溜め息。
「言っとくけど未遂だからな。酔っ払いにはさすがに手を出せなかった」
 気持ちよくなったのはお前だけだよと言いながら、タカはポケットからルームキーを取り出してサイドテーブルに放り投げた。
「宿泊手続きをしてきた。チェックアウトは明日の朝だ」
 白い歯の間から、飢えた舌がちらりと覗いた。
 その舌に絡めとられた俺は、数日後にまた恥ずかしさに悶死しかける。
 俺宛てに届いた小包には、そのホテルで使用されていたのと同じシャンプーとコンディショナー。
 酒にまつわる失敗談は多々あるが、これだけは誰にも暴露できない大失態となった。


送り狼にもなれない男です。

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