タカの肩に、小さな傷がある。
古い古い傷。
そんなのはお互いの体のあちこちに散らばっているけど、そこは丁度ベッドの上で交じり合っている時に俺がつい噛み付いてしまう場所だった。
「……ん、……っん、な、ぁ」
「ん……、なに?」
重なり合って、俺が落ち着くのを待つまで静かにしていたタカが我慢の滲む返事を寄越す。
俺を覆う厚い体が伝える熱は冷めそうもないのに、俺の問いかけに律儀に答えてくれる。
「ここ、どうした?」
「あ? なに?」
「だから……、ここに、傷の痕がある」
指で傷跡を撫でるとタカは少し考え、ややあって思い出したらしい。
「ガキの頃住んでた所の近くに廃墟があって、そこのフェンスをよじ登ったんだ」
「へぇ」
「それで、落ちた」
「はぁ?」
「フェンスが剥がれたんだ。俺が張り付いている時に、ベリベリーって。落ちた所にあったコンクリートの欠片のとがったところでやった」
通りかかった近所の住人が流血を見て救急車を呼んで、ちょっとした騒ぎになったのだとタカは言う。
「案外、やんちゃだったんだ」
「やんちゃって言うかな。雰囲気ある建物だなぁと思って行ってみただけ」
「小さい頃からその感性だったわけか」
ちょっとずれた美的感覚を持って、まるで吸い寄せられるようにそっちに向いていくのは小さい頃からの特性らしい。
「お前の、ここは?」
ちょいちょいと指先で触れられた肩に傷があると言う。
それなら記憶にある。
「角材で殴られた時の、かな」
「どういう状況だよ、それは」
ぎょっとしたような呆れたような顔をして、肩に残る傷を凝視する。
「高校の時、不良なんだけど、中学の頃まではいい線いってた中盤選手がいてさ、そいつに入部して欲しかったんだ。勧誘してたらしつこいって怒られて、不良仲間連れて囲まれて大喧嘩。角材がたまたま落ちてて、それでがつーんって。その先に釘が刺さったままだったらしくて」
「なんだよ、それ」
今度はむっとしたような、呆れたような。
「笹岡達が助けに来てくれて、結局はあっちが折れて入部してくれ……っ、ぅあっ」
「あー、聞くんじゃなかった」
「ふあっ、あ、あっ、そんな……っ、急に……!」
傷の後や脇腹をくすぐるように動いていた手の平にがっしり腰を掴まれたと思うと、ずるりと体が離れるギリギリまで楔を抜かれ、一気に押し込まれる。
一旦落ち着いていた体に一気に火が灯った。
そのまま思考は淫らに汚されて、俺はただ声もなく身悶える。
動物めいた唸り声を零しながら、タカが俺の肩に食いつく。
痛いのも刺激になって気持ちいいと泣いて、厚い肩に縋る。
快楽に壊れそうになって怯えて竦んだ体をしっかり抱きしめられて、怖いのか安心しているのかもわからない。
幼い頃に挑んだ冒険がつけた傷跡を、俺以外の誰かも気付いただろうかと想像して痛んだ胸の奥。
灯った嫉妬の炎はタカの胸にも飛び火したらしい。
犬がご飯を食べる時にたてる音と似た呼吸音が首筋の方から聞こえてくる。
歯形かキスマークだか、何かしらの痕を残されている。
一方的なのは望むところではないので、俺も指先に力を込める。
その背中に、爪跡を。
愛の証を。
ともに過ごす一時一秒愛の証。
2007/5/22
裏かなーと思いつつ、短いので。