いつもと同じ練習場、いつもと同じくハードメニュー。
 練習場のコーナーでは、コーナーキックの練習に高山と内田コーチが励んでいる。
 そんな中、他のメンバーはベンチでこそこそと何やら作業をしていた。
「わかってねぇなぁ」
「毎年なのになぁ」
 などと言いながら、作業は楽しそうにすすめられている。
 手にしているのは小麦粉、風船、生卵。
「っしゃ、タカ、ラスト一本!」
「はい!」
 そんなやり取りの後にボールを打つ音。
 にやり笑いを浮かべたチームメイトの視線の先で高山のコーナーキックは鋭く落ち、ゴールネットを揺らした。
 それを見届けた内田が高山を褒めながら、面々に向かって来いと合図する。
「よっしゃ、いこか」
 富永の一言で、一斉に走り出す。
「タ――カ―――!!!」
 それに気付いた高山がぎょっとした顔をして、すぐに今日が何の日だったかを思い出し、顔を強張らせた。
「ハッピーバースデー!」
 逃げようとした時にはすでに爆弾は投げつけられていた。
 パツン!
 と小気味いい音をたてて、風船は弾けて白い粉を舞い上がらせる。
 それが次々に続くのだ。
 息つく暇なく。
 気が付けば、コーチや監督まで卵を投げつけている。
 全ての風船が弾けて終わるとタイミングよく風が吹き、漂っていた粉を吹き飛ばしていった。
「………………………………………………」
 現れた高山の姿を前に、しばしの沈黙。
 そして、
「ぷっ」
 爆笑。
「ハハハハハ!!なんだ、それ!!」
「見事に白いな、おい!」
 風船と同じく綺麗に弾ける笑い声を浴びながら、高山は、
「あぁあああ!!!」
 悔しそうな声を上げた。
 上げながら、顔についた粉をジャージの裾で拭っていく。
 髪の毛に手を差し入れて少し揺すれば、白い粉がバラバラ落ちてくるしドロリと頬を伝った生卵の感触に鳥肌がたった。
 ブラジル流の誕生日祝いはなかなか強烈だ。
「くっそ、マジで忘れてた……」
 試合でセットプレーを外した時よりも悔しそうな舌打ちに、みんなが爆笑する。
 男前な顔も、小麦粉のおかげで笑えるものになってしまっている。
 ぶるぶると頭を振るが、汗に吸収された小麦粉が肌にべたべたとへばりつく。
「気持ちわりぃー」
「アホだねぇ。毎年同じことやってるし、この前坂本さんの誕生日やったばっかりなのに」
「昨日、今日何日だっけって昴さんに聞いたら、二十一日だって……」
「あはははは! 昴に騙されてやんの」
 指差し笑われても、高山には言い訳ができない。
 あーあと、天を仰いで小麦粉で白くなった芝生の上に転がった。
「よっしゃ、じゃあ今日はあがろうかー」
 そんな監督の声を聞きながら、高山は来年こそはとまた無駄な決意を固めたのだった。
 チームでは恒例となったブラジル流の誕生祝いは強烈ではあるけれど、慣れてしまえばこんな仕打ちで喜べてしまうから不思議だった。


EVEN


 夕飯後には大きなバースデーケーキがデザートが運ばれてきた。
 寮生の誕生日には必ず用意されて、下手くそなバースデーソングが合唱される。
 ケーキには、昴がチョコペンで書いた汚い文字が『タカ、たん生日おめでとう』とある。
 灯された蝋燭は二十二本。
「えっ、お前まだ二十二歳なのっ?」
「マジかよ。若ぇなぁー」
 あちこちで驚きの声があがった。
「英介も今年で二十二歳だろ?」
「えっ、お前もう二十二歳なのっ?」
「「どういう意味ですか?」」
 反応の違いに不服の声。
「まぁ、いいから。はい、蝋燭消してー」
 それを寺井が上手くいなして、高山は盛大にはにかみながら蝋燭を一息に吹き消した。
 食事だけは穏やかな誕生日会だ。
「他人の誕生日は楽しいよな」
 英介は切り分けられたケーキを頬張りながら、素直な感想を漏らした。
「まったくだ」
 高山も自分の席に戻って、ケーキにフォークを刺しながら同意する。
「俺の時も気をつけよう」
「お前も毎年忘れてる口だよな」
「どうせ逃げても無駄だけどな」
 それでも止められないのが悪戯だ。
 酷かったのが神尾の誕生日に、小麦粉爆弾に混じってある物体を投げた時だった。
 近所の川辺で牛蛙を見つけたからと、昴が捕獲して神尾の頭に乗せたのだ。
 悲鳴が練習場に響き渡り、神尾にとっては悪夢の誕生日となった。
「真っ白にされてはじめて、歳とったなぁって思うのもなぁ」
「自覚が出てきていいんじゃない?」
 お前にはもうちょっと自覚が必要だと、隣に座っていた神尾が呟いた。



 後ろ手にドアを閉めた英介は、面白くなさそうな表情をつくって高山を見た。
 みんなそれぞれ部屋に引き上げ、自由な時間を過ごしている時間帯。
 高山の部屋をノックするのは英介くらいしかいない。
「昴さんに何か言われたか?」
「べつに」
「恋人の義務とやらは随分重そうだな」
 廊下で昴が英介をからかったのを偶然にも聞いてしまった。
 誕生日というイベントくらいは甘く演出してやれよ、とか。
「知ってんならそういうこと言うな」
「知ってるから言ったんだろ。無理すんな」
「無理するくらいなら来ねぇよ」
 ひどく不機嫌な表情だが、全て照れ隠し。
 ベッドに腰掛けた高山の隣に乱暴に座り、固めた拳をじっと見つめている。
 暫くの沈黙の後、英介は頼りない眼差しを高山に向けた。
「ちゃんとしたプレゼントは後でやるよ」
 そう言うと、床についた膝で高山の脚の間ににじり寄った。
 英介の視線は高山の腹の少し上。
 やろうとしていることは想像できるが、英介の覚悟はなかなか決まらないらしい。
 ぎこちない動きで両方の手が高山の膝に置かれ、それからまたフリーズする。
 どうにも動けなくなったらしい英介は、そのまま高山の胸に額を押し付けた。
「そんな顔しなくても。嫌な事させるつもりねぇし」
 ポン、と胸元に埋まる頭を叩くと、そのままの状態で首を横に振った。
「嫌とかじゃ……、嫌じゃなくて、ただ、その、恥ずかしいし、緊張する」
 真っ赤になった耳が、髪の毛の間から覗いている。
 初めて抱き合ったハワイの夜から数ヶ月。
 シーズンは幕を開け、チーム内には二人の関係がすっかりバレた。
 あれから何度は体を重ねたけれど、英介は相変わらず行為に慣れず、高山も遠慮がちに手を出す程度。
 英介からこんな直接的なお誘いがあったのは、初めてのこと。
 英介らしくないのろのろとした動きで、彼の手は高山のジーパンのホックに掛かった。
 緊張のせいで皇かに動かない指が苦労しながらホックを外し、焦れるような動きでジッパーを下ろしていく。
「無理すんなって」
「無理じゃねぇつってんだろっ。いいから、黙ってろっ」
 売り言葉に買い言葉ではないが、英介の反応は予想通り。
 ムキになれば羞恥心も薄れるらしい。
 英介の動きは強引になり、ジッパーを下ろすと下着の中に手を入れてきた。
「ほんっとに色気ねぇよな、お前」
「オチがついていいだろ」
「そんな上昇思考はいらない」
 まだ反応を示さない高山のものを引きずり出しながら、そんな会話のやり取りを交わす。
 極め付きは口に含む寸前に、いただきますとのたまった。
 目の前で男のものを口にする男は、その逞しい体で女の子を抱く可能性もあっただろう。
 形のいい口唇が開かれる様子を見ながら、高山は胸中で短く謝罪する。
 決して聞かせられない謝罪だ。
 熱い舌が擽るように蠢いて高山を包み込む。
 その現実的な感触に、背筋が震えた。
 急激に昂ぶり始めたものが口内を圧迫するのか、英介は苦しそうに眉を顰めた。
「……んっ」
 高山が過去に経験した巧みな口淫とは違い、ただ咥えるだけの拙い行為。
 だがぎゅっと眉間に皴を寄せ、不安と羞恥と高揚に目の縁を潤ませる英介の姿に煽られる。
 ふと、困ったように英介が高山を見上げた。
 どうすればいいのかと問うような眼差しに、また快感が走った。
「自分がされてる時のことを思い出してみろよ」
 肌を擽る髪の毛を梳くと、ぴくりと体全体が反応した。
 高山を包み込む指先がぎこちない愛撫を始め、そろそろと英介の頭が前後に揺れる。
 熱いと、平常心ではない頭で思う。
 縮こまった舌が無意識に先端を擽るように動き、刺激を与える。
 下手くそなくせして、頭が痺れるような快感がある。
「……は……、ふ」
 濡れた音と英介の苦しげな呼吸と高山の押し殺した呻き声が密やかに響き、二人の体温も静かに上昇していく。
 十分に高ぶった高山のものが、ずるりと英介の口から抜け出る。
 伝った体液を拭って、英介が顔を上げた。
「……ウェ」
「……」
 不味いものを口にした時のように舌を出すと、英介はすくっと立ち上がりユニットバスへと駆けて行った。
 しばらく聞こえていた水音が止むと、英介がバツが悪そうな表情で戻ってきた。
「……ごめ、ん」
 いまだかつてない気まずい空気に、晒されたままの高山が萎えていく。
 料理上手の母を持ちながら、英介は遠征先で出されたどんなに不味い料理も平気で平らげる。
 味覚には無頓着のくせに、なんでここに限って受け付けないかな……。
 なんとも言えない溜め息を長く大きく吐き出して、高山は下着とジーパンを引き上げる。
 ホックを留めようとした手を英介の手が引き止めた。
 ベッドに腰掛けた高山の体を跨いで、片膝をベッドに掛け英介が体を寄せる。
 再び高山のジーパンの中に手を突っ込み、力を失くしかけているものを指先で包んだ。
「……これでも、いい?」
 声は高山の耳へ直に囁かれる。
 首筋を食むように、英介が軽く歯をたてた。
 英介の手の中で、高山の屹立は勢いを取り戻す。
「……っ」
 淫らに動く指がどんどん快感を強めていく。
 高山の首筋に額を押し付けた英介は、高山が声を飲み込むのが感じ取れる。
「声、聞かせろよ」
 普段高山に言われている言葉を意地悪く真似すれば、高山は喉を震わせて笑った。
「すげぇ、気持ちいい」
 言いながら、英介の背中を撫で上げる。
 悪戯を始めた高山の手を気にしながら、英介は愛撫を続けようとする。
 高山は確実に息を上げ、時折声を飲み込む。
 感じているはずなのに、高山の手は英介のジーパンの隙間から際どい腰骨のラインを辿る余裕を見せる。
 自分が施す直接的な愛撫とは違う、もどかしさの募る触れ方に不満の声を上げてしまいそうになるのを何とか堪え、英介は指先の動きをいっそ淫らに激しくする。
 手の中が濡れ、卑猥な水音が響いている。
 自分ならば恥ずかしくて悶死してしまいそうな状況なのに、高山は熱い息をつきながら嬉しそうに細めた目で英介を見る。
 英介の方が恥ずかしくなって、先に視線を外してしまう。
 高山の肩に額を押し付け、とにかく高山が満足するようにと指を蠢かす。
 今日は高山の誕生日で、高山が気持ちよくならなければ自分のプレゼントの意味がない。
 感じている場合じゃないと理性を総動員させても、高山の手が与えてくる愛撫の心地よさには到底敵いそうになかった。
「……んっ。……あ、もう……」
 シャツの下に潜り込んできた高山の指が脇腹を撫で、英介に堪え切れない喘ぎを零させる。
「早くイけよ、馬鹿っ」
 悪態をついて高山の口を自分のそれで封じる。
 塞ぎたかったのは自分の口だけど。
 英介の肌を辿っていた高山の手は、やがて余裕を欠いたように英介の背中と後頭部を抱いた。
 英介の指の間で高山の昂りが弾ける。
 高山の呻きを英介は口付けで飲み込んで、絶頂を迎えた屹立を緩やかに愛撫し、脱力した体を抱きしめた。
 英介の腕に身を委ね、高山は暫く快感の余韻を味わう。
 耳元で英介は乱れた呼吸をどうにか整える。
「……、ハッピーバースデー」
 そうして囁かれた最高の祝辞に、高山は喉を震わせ笑った。
 可愛気もいいけど、男気も自分達の恋愛には必要要素らしい。

 服を脱ぐという行為について、英介は羞恥心をあまりもたない。
 性別のせいか、職業柄のせいか知らないが、躊躇いがあまりない。
 高山に促されるままにベッドに横になったまま万歳をして、服を脱がされていく合間に英介が言葉を繋ぐ。
「なんかさ」
「ん?」
「さっきの」
「うん」
「ちょっとは気持ちよかった?」
「なんで?」
「なんか」
「うん」
「いっつも俺ばっかり気持ちいいのかなって。さっきのちゃんとプレゼントになった?」
 失敗したっぽいんだけど、と高山の体の下で首を傾げるのが可笑しくてつい笑い声を上げてしまう。
「俺がお前にする時は気持ちよくない?」
「……」
「同じだろ」
「……」
「安心した?」
「……その自信を普段から持てよ」
 甘い言葉に気をよくしていれば、とんだカウンターアタックを食らう羽目になる。
 痛い話題から逃げなければと、高山は腕に引っ掛かっていた英介のシャツを剥ぎ取って裸に剥く。
「もうっ、シャツ伸びる! 勝手な奴だな、お前はっ」
「誕生日くらい勝手にさせろ。だいたい、お前、プレゼントなんだろ」
「調子に乗んなよ」
「自信持てって言ったじゃねぇか」
「都合のいい解釈すんな!」
「うるさい」
 悪態をつくのは、恥ずかしいせいだ。
 ――お前、プレゼントなんだろ。
 言われて初めて気付いたけれど、自分がさっきした行為はかなり恥ずかしいコトなんじゃないか。
 自分の首にリボン結んで、プレゼントは私よ、なんて言う馬鹿な男が夢に描いていそうなシチュエーションを体言してしまったも同然なのだ。
 改めて考え直すと、たまらなく恥ずかしかった。
 最後の一枚をベッドの下に放る。
 高山の眼下に晒された英介の欲望は、興奮の兆しを見せていた。
 横たわる英介の体を四つん這いで跨いだ高山が、片肘をベッドについて顔を近付けた。
 頬へキスを一つ、鼻筋、目元と辿って、顎先をペロリと舐める。
 薄く開いた英介の口唇の端を舐めると、追うように英介も舌を出す。
「……は、ぁ」
 吐息が甘さを増し、もどかしさを訴えるように英介の腕がシーツの上を滑る。
 引き締まった二の腕の内側に口唇を寄せられ、強く吸い上げられる。
 見えるところに痕を残すなと、いつもなら文句を言うところだが今日の英介は黙って高山を見上げるに留めた。
 誕生日と言うのは、ここまで有効に使えるものらしい。
「ちゃんと……、キス……」
 語尾の消えた懇願に、高山が顔を綻ばせる。
 日常の、言わば素面の状態でキスをしたがるのは高山の方。
 半ば理性を飛ばした状態でしたがるのは英介の方だ。
 それはそれで、なんだかお互いにお互いらしくていいかなと思っている。
 高山の大きな手に後頭部を抱かれ、英介は潤んだ目をうっとりと閉じた。
 高山はじっと英介を見つめたまま、英介の下唇を緩く噛む。
 口唇の表面だけに施すキスや愛撫に英介は弱く、あっと言う間に追い詰められる。
 高山の口唇を追いかけるように顎を逸らしても、高山は悠々と体を引いて英介の欲しがるキスを与えてくれない。
 焦れて瞳を開いた英介は、一番見たくないものを見てしまった。
 獣じみた目つきで自分を見下ろし、舌なめずりするように乾いた口唇を時折潤すその仕草。
(……かっこいー……)
 気兼ねしない安らぎの時間やピッチ上の喜び。
 高山に貰うものは多いけれど、まさかこんなトキメキを与えられるなんて思ってもいなかった。
 高山なんかを相手にドキドキする自分も、格好いい高山も柄じゃないと思うのに、自分を見つめる鋭い形の双眸から目が逸らせない。
 熱い呼吸が頬を擽り、口唇が合わさる。
 歯列を辿り角度を変えて深くなるキスが、いつの間にか英介にとって“ちゃんとしたキス”になってしまった。
 何も変わらないと思っていたのに、少しずつ変わっていくものも確かにあって、でもそれは不安な変化じゃない。
 戸惑いはあるけれど、心地よい変化。
 大きな体に腕を回し、舌を絡め、いっそ心まで複雑に結びつけて解けないようにしてしまいたい。
 でもそれじゃ早く走れないし、正確なパスも出せないので、自分達の心は出来る限り身軽であるよう切り離していく。
 自分達の武器である足に、想いが枷となって纏わり付かないように。
 ベッドから起き上がる時には、心は各々が抱えていく。
 だから今だけは、身も心も一つになる錯覚を味あわせて。

 痛みとまでは言わないが、強烈な圧迫感を快楽とはまだ呼べない。
 息が詰まり、体には自然と力が入るのは仕方のないことだった。
 宥めるように高山の大きな手が英介の頬を撫でる。
 そうして英介の気を逸らしては、じわじわと高ぶりを深く沈めていく。
「ぅんっ……、はっ、あ」
 大きく左右に開かせた足が時々、ピクリと跳ね上がる。
 反応した箇所を擦り上げるように腰を動かすと、甘えるような声を上げて英介が身を捩った。
「ここ?」
「んん……っ。やっ、そこ、……ぁ、や」
 逃げを打つ体を押さえ込み、嫌がる箇所をしつこく刺激し続けると、嫌がっているようには思えない喘ぎが聞こえ始める。
 頬は上気し、震える睫毛の下から覗いた瞳は涙の膜を張っている。
「嫌? 嫌なら……、やめる?」
 英介は咎めるような眼差しを一瞬向けたが、意地悪で言ったわけではない。
 間違っても英介の気持ちを取り違えることのないように。
 痛みを感じているならすぐにでも改めるし、気持ちがいいと感じているならもっと。
「何を思ってるか、教えて」
 そうでなければ、高山自身も興奮に身を任せつつある状況で、英介の気持ちを読み取ることが難しいから。
 間違えたくないから教えてと、残酷な優しい声が囁く。
 高山が答えを乞う理由に気付いて、英介は恥ずかしそうに目を伏せる。
「いや……、じゃない。気持ち、良すぎて苦し……っ」
 伏せた目から、ポロリと雫が零れ落ちた。
 高山の中で、じりじりと音を立てて理性が焦げる。
「……もう、イく?」
 ん、と喉を鳴らして頷いたのを見届け、高山はずり上がろうとする英介の肩を掴んで自分の方へと引き寄せる。
 ゆっくりと律動を始めると、英介が喘ぎを必死で噛み殺そうとする。
 そうやって流されまいと最後の抵抗を試みているのに、英介の手は縋るように高山の腕を掴んでいる。
 なんだかそういうところが、いじらしくてたまらなく可愛い。
 英介を翻弄しながら高山は首を伸ばして、噛み締められた口唇を舐めた。
「ふぁっ……、はっ……、あ、ぁあっ」
 解かれたそこからは、甘い声が惜しげなく溢れ出し高山の耳を悦ばせる。
 与えられる快感をどうにかしたくて、英介はしきりに喉を逸らせ、顔を左右に緩く振る。
 身を捩りながら、高山の腕を何度も掴みなおす。
「ん……っ、あ、タカ……っ」
 何度も喘ぎに混じって愛称が呼ばれる。
 情事の間、英介がキスをすることで安心するように、高山は名前を呼ばれ安堵を覚える。
 高山自身も最近気付いた癖だ。
 荒くなる呼吸の合間、キスと呼びかけを繰り返す。
 息苦しさすら快感と繋がる。
 奥まった蕾を押し開かれ、男の剛直を受け入れ抽挿を激しくされることへの肉感的な快感は強烈で、英介は理性を手放し高山の首にしがみ付く。
 高山も呼吸を乱しながら、激しく腰を打ちつけた。
 高山の腰が英介の双丘にぶつかる度、溢れ出た体液とローションが粘着質な音をたてて二人を煽った。
「……やっ、も、やだっ。や、あぁ……っ、いく……っ」
 高山が強く抱きしめた英介の体が幾度か大きく震え、二人の体の間に熱い体液を放出する。
 快楽の極みへと上り詰めた英介の体は内部も痙攣を繰り返し、深い場所でつながっていた高山を包み込み欲望の解放を促す。
「……っ、はっ、英介……っ」
 最後の坂を上りきるように、高山は脱力した英介の体に自身を激しく打ちつけた。
「ぁ、ふ、あっ。ん、く……っ。タカ……、あぁっ……、タカぁっ」
 その激しさに、達したばかりの英介が悩ましげな声を上げる。
 英介の体の上に汗を滴らせながら、高山も低い獣のような唸り声を上げて達する。
 同時に英介が、僅かな白濁の体液を零した。
 連続して訪れた快楽の淵に翻弄され、英介はぐったりとシーツに沈みこんだ。
 体は重く起き上がれないほどなのに、気持ちはふわふわと心地よさを感じている。
 脱力した高山を受け止めながら、熱い呼吸も体も伝わってくる鼓動も、自分のものだと英介は思った。


「キツかった?」
「なんで?」
「なんか、だるそう」
 いつもなら情事後は恥ずかしいからと背を向けてしまう英介が、今日は高山の方を向いて口下手な彼がピロートーク替わりに髪の毛を梳くのを受け入れていた。
「……少し」
 頬を大きな手で撫でられて、正直な告白が口をついた。
「でもなんか……気持ちいい」
 体がトロリと甘い蜜のようで、確かに重さは感じるけれど不快な倦怠感じゃない。
 言葉の通り、心地よさそうな吐息を零して英介は高山に体を摺り寄せる。
 小柄なことをコンプレックスだと思っている英介は、普段から体格差を感じさせるような状況を嫌がる。
 高い所にある荷物を高山が平然と取ってやったり、体格を利用してベッドに押さえつけたりと言うような状況を。
 それなのに今は自分よりも広い高山の胸に心地よさげに頬を摺り寄せ、逞しい腕に抱かれたがる。
 愛故かな、なんて勝手に解釈して高山は英介の背中を緩やかに摩り、英介に満足そうな笑みを浮かばせることに至福を覚える。
「あー」
「なに?」
「誕生日プレゼント、ちゃんとしたの用意してたんだ。ベッドの下に小さい紙袋置いてあるの、取って」
 言われるままにベッドの下を探ると、小さな紙袋が出てきた。
 開けてもいいかと問うと、細い顎を上下させる。
 ベッドに寝そべったまま袋を開けると、中からは僅かな重みを持った銀色の塊が滑り落ちてきた。
 シルバーの王冠と黒い皮のストラップ。
「タカの携帯ストラップ、千切れたって言ってたから」
「おそろい?」
「……そう。もう一個くらい、そういうのあってもいいかなって」
 プレゼントのストラップには見覚えがあった。
 英介の携帯電話に引っ付いていたものと同じだ。
 これで二人が共有するおそろいは二つ。
 一つは、それぞれの左手薬指にあるシルバーの指輪だ。
「サンキュ」
 早速自分の携帯電話に取り付けると、英介は照れくさそうに笑う。
「なんか、タカが喜んでくれるとほっとする」
「なんで?」
「俺ばっかり喜ばせてもらってるんじゃないかって、時々心配になる」
 ただでさえ少ない言葉を、高山は更に失ってしまう。
 言葉少なく戸惑う時は、行動で示せばいいのだと教えてくれたのは英介だ。
 この喜びを伝えるために、英介に手を伸ばす。
 そんなの、俺の方が心配してる。
 いつもいつもお前の言動にあたためられて、たくさんの力をもらってる。
 考えてることは一緒なんだよ。
 溢れる想いを腕の力に変えて抱きしめる。
 一つ年齢を重ねる。
 君と過ごす時間の積み重ねが増えていく。
 その幸福を噛み締める。
 一年に一度、大勢の人から祝福を受ける日に、自分が愛されていることを教えられる。
 君に愛されていることを、教えられる。
 生まれてきた幸福を噛み締める、ハッピーバースデー。


2005/07/27
いつ、とは決めていませんが、タカさんの二十二歳の誕生日話です。季節的にはシーズン中の、夏だとか秋だとか、そのへんで(いい加減)
フェラにウエェってなる英介が書きたかったのです。
ブラジル流の誕生祝はけっこう色んなチームでされてますね。生卵にまみれる選手は可愛いのです。

NOVEL TOP   BACK