学園祭へ行こう!


 「やだ!」
 舌足らずな子供のような拒否の声が、教室中に響き渡った。
「ぜったいに嫌だからな!」
 窓際最後尾の席に、クラスの視線が集中する。
 体育祭も終わり、制服も合服になった。
 あとは文化祭を目前にした、ロングホームルーム。
「なんで、俺がいない間にそんな話が進んでんだよ!」
「だって、えっちゃん代表で学祭の二日目はいないんでしょ? うちのクラスの劇は二日目だもん。えっちゃんだけ参加できないのは淋しいかなと思って」
しれっとくラス委員は説明する。
「だから大道具手伝うって言ったじゃん! なんでミスコンにエントリーしてんだよ!」
 真っ赤な顔して怒鳴る生徒は学校内でも有名な、ユースのサッカー日本代表選手。
 そんな彼が所属するほどサッカー部が強い学校ではないだけに、彼の存在は際立っている。
 有名人だが誰とでも気さくに話し、後輩からも慕われている。
 まさに学校の看板息子。
「もう学祭パンフにも出場者一覧書いてあるから、撤回はできませぇーん。男らしく腹を括って出てください」
「そうだ、腹を括れ」
「ちょっとじゃん。A組なんて女装男装喫茶だぜ? 一日中女装させられるA組男子の恥ずかしさに比べたら、お前のなんか十分もないじゃん?」
 本人不在のうちに進めておいた江口英介のミスコン参加は、モチロン本人の反対があるとは予想済みだ。
 だが、3−Dにはその反対を説き伏せる自信もあった。
 勝手に提出したエントリシートを、実行委員は嬉しそうに受け取った。
「劇練習しなきゃいけないので、えっちゃんの抗議はこれ以上聞きません。キャストは体育館で練習。スタッフは準備。えっちゃん係りはそっちの打ち合わせをよろしくどーぞー!」
 パンパンと打たれた柏で、みんなが散り散りになっていく。
「待って待って待ってよ! えっちゃん係りって……?」
 自分が加わるはずだった大道具係は男子を中心に輪をつくり、自分の周りには女の子達が寄ってくる。
「……え、マジでなの?」


 秋晴れ。
 学祭日和。
 開会式が行われる体育館には、全校生徒が集合して長い校長の挨拶が終わるのを待っている。
「……なんで代表合宿、今日からじゃないんだろ」
 ぐったりとパイプ椅子に持たれて英介がこっそり呟く。
「なぁなぁ、英介んち、兄貴来るの?」
「仕事だってさ。ざまぁみろ」
「反抗期?」
「ちがう」
 ようやく校長の話が終わり、会場にお祭ムードが沸いてきた。
 去年の学祭は代表に呼ばれて参加できなかった。 
 実に二年ぶりの学園祭の雰囲気は悪くない。
 ただ、
「えっちゃん、そろそろ着替えに行こうか」
 自分の出番がなければの話。
 はい着替えてと差し出されたのは、この学校の女子の制服だった。
「友里ちゃんのだから、ひょっとしたら小さいかも」
「……あぁ、そう」
 いつの間に、という問いは飲み込んだ。
 同じ学校に通っているのだ、不思議じゃない。
 脱いで脱いでと言われるがままに、クラスメートの前でストリップ。
 今時、女の子は男子のパンツ一丁の姿を見ても恥ずかしがることもない。
 ひょっとしたら裸になったって平気かもしれない。
「ウェストどう? 友里ちゃんはいっつもベルトで止めてるって言うから、大きめだと思うんだけど」
「……よゆー」
「うっそ、それはそれで許されないわっ。あんたホントにサッカー少年?」
「しっつれいだな!」
 ごめんごめんと軽くいなされてしまう。
 髪の毛にワックスを塗りたくられ、ビューラーをあてられる。
 小学生までは母親や親戚に友里の服での着せ替え人形にされていたけど、ここ数年それもなかった。
 自分の顔が『カッコイイ』系ではなく、『カワイイ』系に属されることはわかってきた。
 大変、不本意ではあるがわかってきた。
「そんな不機嫌な顔しないで。スマーイル」
 プライドが邪魔してなかなか楽しめないけれど、祭は好きだ。
「……しかたねぇなぁー。俺の笑顔は高いよ?」
 開き直れば楽しめる。
 高校最後の文化祭。
 楽しまなきゃ損だ。


 各クラス一名が絶対条件らしいミスコンには、厳つい体育教師も参加していた。
 可愛そうに、くじで負けたらしい。
 ノリノリの者もいれば、浮かない顔の者もいる。
 無理矢理のってる者もいる。
 なんとか見られるモノもあれば、見るに耐えないでブーイングを受けるものもあり。
 そんなこんなで昨年から儀礼化してしまったらしいミスコンは宴もたけなわ。
『さぁ、いよいよラストバッター! 3年D組代表、江口英介くんでーす』
 わっと体育館が沸いた。
「あははー、英介、人気者―」
 背中を押したのはA組の友人で、彼はふりふりのエプロンのまま喫茶店業務にうつるらしい。
 笑いが自棄気味だ。
 人気アイドルが歌ういかにもなラブソングをBGMに、英介はステージに押し出される。 スポットライトを浴びた英介は、照れたら負けだと自分に言い聞かせてピースサインをつくってみせた。

「……あれは友里ちゃんか?」
「女装コンテストだろ。なんで友里ちゃんが出るんだ。江口英介だっつって、さっき紹介してただろ」
 ステージでは、紺色のスカートにだぼだぼのニットセーター、足下はこれまたダボダボのルーズソックスを着た江口英介の姿がある。
「……そうか」
「違和感ねぇー」

「えーと、特技は、サッカー。なので、リフティングしまぁす」
 何か特技を一つと言うことで、思いつくのはサッカーしかない。
「よっと」
 だぼだぼのルーズソックスが邪魔だが、英介は器用にボールを操る。
 足を大きく上げる度に、おぉっと声が大きくなる。
 ボールの軌道が微妙にずれて、英介が慌てて足を伸ばした。
 その瞬間、短いスカートが大きく捲れた。
 会場がどよめき、次の瞬間安堵と残念さの篭った溜息に変わった。
「びびった……。サポパンはいてるのか」
「用意周到だな」
 しかし派手にスカートは捲れている。
 ぱっと見がまるっきり女の子な分、視覚的な刺激はある。
 ヒューヒューと煽るような口笛まで聞えてくる。
 英介も呼びかけに笑顔で応えた。
「ノリノリだね」
「猿もおだてりゃ木に登る、か」
「俺達が見てるって知ったら怒るんだろうなぁ」
「声かけてみるか。あれで恥ずかしがったらかわいいぞ、きっと」
「なっちゃん、それは鬼畜な発言」
「夏木が鬼畜なのはみんな知ってるから今更だ」
「あいつ怒るぞ、本気で」
「その時は、保護者様が機嫌とってくれるからいいんだ」
「誰が保護者だ」
「誰もタカとは言ってないよ?」
「よぉし、みんなで呼んでみよー」
「せぇのぉ」
『えっちゃ〜ん!』

 一際大きな声に、英介が応えようとする。
 声の方へ顔を向け、笑顔を引き攣らせた。
「げっ!!」
 その声は、スタンドに立ててあったマイクを通して会場中に響いた。
 何事かと生徒達が体育館の後ろを振り向く。
 入口付近。
 一般客用に用意された席に5人の少年達がいた。
 それぞれ違う学校の制服で、傍らには大きなスポーツバッグがある。
 どの制服も、この辺では見ないものばかり。
 それもそのはず。
 バッグの刺繍には、静岡県立だとか県外の有名私立の名前が入っている。
「……K高校って、この前高円宮杯で優勝してたぞ」
「あれ、樋口夏木だぜ」
 ヤングジャパンの面子は、会場の視線を釘付けにした。
「なんでお前等がここにいるんだよ!」
 ゥワンと音声が割れるほどの大声で、英介はその異質な5人組を指す。
 確かに明日からは広島県内での合宿だから、県内にいるのはおかしくないのだが。
「俺らは今日から公欠なのでーす」
 何せ遠方なのでと声が上がる。
「監督に自分とこの学祭に出られないんなら、英介んトコの学祭に行って来たらって提案された」
 さっきまでの笑顔はどこへやら。
 英介は形相を変えて怒鳴り出した。
「見るな、馬鹿! 帰れ!」
「ひどいわっ。さっきまでニコニコしてたのに」
「えっちゃん、スマーイル」
 同じ学校の生徒に見られるのはいいのに、他校の生徒は駄目なのか。
 英介は真っ赤になって、怒鳴っている。
「かぁわいーよー!」
 誰かがふざけて声を上げる。
「おい、あんまりからかってると……」
 見かねた高山が声をかけたが遅すぎた。
「うるさーい!」
 一際大きく怒鳴り声をあげた英介は、転がっていたサッカーボールを爪先で宙に浮かせると、そのまま一閃した。
 その表情が一瞬、本気だったのを高山は見逃さなかった。
 そんなに恥ずかしいのならやめとけばいいのに、と思う間にボールはどんどん近付いてくる。
 きゃあと悲鳴が上がる中、ボールが描く軌道はそれでも手加減が見えるループ気味のシュートだった。
 だが、こちらには、
「あっぶねー」
 余裕で手を伸ばし、ボールをキャッチするプロがいる。
「ファインセーブ」
 ちょいと手を伸ばして軽々英介の怒りのシュートをキャッチしたゴールキーパーにパチパチと拍手が送られる。
 彼はヘラヘラと笑いながら皆に手を振って、愛想を振り撒く。
 ステージ上の英介は、憮然とした顔のまま司会進行役に促されてステージを降りていた。
「ミスコン出場者は以上の皆さんでーす。投票は校内各所に設置された投票箱にお願いします。ミスコンの結果は本日3時頃に校内放送にて発表しまぁす」
 そんなアナウンスを聞いてから、お騒がせな他校生は腰を上げたのだった。


 一般客も多く入っているこの学祭は賑わいがあっていい。
 五人の代表選手達も、自分の学校では味わえなかった学祭の雰囲気を体感する。
 やはり学祭のような大きな学校行事に参加できないのは淋しいことで、合宿参加も憂鬱だったのだが監督の提案は見事に気持ちをリフレッシュさせてくれた。
 参加できるわけではないが、空気を感じるだけでも嬉しかった。
「この学校ってでかいけど、サッカー部は有名じゃないよな?」
「うん。確か地区大会も一回戦負けばっからしいけど」
「なんでエースケ、ココなの?」
 実に素朴な疑問。
「あいつ14の時に怪我したろ? リハと本調子取り戻すのに長引いて、ユースのテストも有名校の推薦も間に合わなかったんだってさ。願書をギリギリに出したのが、一般入試でも入れるココだったわけ」
 応えた夏木は、全国大会決勝進出の常連高に進学している。
「へぇ〜。でもそれで代表呼ばれてるのって、かなり凄いよな。俺、最初見た時、超びびったもん。誰だよ、あの足が早いのって」
「あれだろ? 一年の時に広島の強豪チームとの練習試合で、一人で6得点かましたって噂から注目されるようになったんだよな?」
「そうそう、俺もその話聞いた。一人で6だぜ? 相手のディフェンスには全国レベルもいたけど、それをあの足で交わしての6得点! かぁっこいぃ〜」
 かわいい見かけからは想像もできないアグレッシブさを、英介は秘めている。
 それを再認識してしまった。
「あ、英介」
 教室の展示を見ていると、見慣れた姿の英介が視界に入った。
「着替えちゃったのか。勿体無い」
「おーい、エースケェ〜」
 手を振ると、英介は気が付いて顔を上げた。
 だが、表情がどうも違う。
 はにかみ笑いを浮かべて控えめに手を振った。
「……あれ、友里ちゃんだろ」
「えぇっ?」
 言われてみれば手を振る仕草は女の子のもので、失礼ながらよくよく見れば胸もある。
 髪の毛も、英介よりは長めだった。
「友里!」
 愕然としていると、背後からその友里を呼ぶ英介の声が上がった。
 振り向くと、女子高校生姿のままの英介が立っていた。
 自分達に気が付いてぎょっとしている顔は羞恥で真っ赤に染まっている。
「やっば〜い」
 妙な再会の間に、友里は呑気な声を上げる。
「制服返せ! 逃げるなぁ!」 
 どうやら交換した制服が、元に戻らないままらしい。
 友里はペロリと舌を出すと、脱兎のごとく逃げ出した。
 それを追おうと英介が突進してくる。
「よし、捕獲してみよう」
 夏木が言った。
 どうしても目立つ五人組の集団を無視をして傍を走り抜けようとした英介は、脅威のディフェンダー・樋口夏木の腕に捕獲されてしまった。


 どっかりと机の上に腰かけて、英介はホットドッグを大口開けて頬張った。
「いいかげん、機嫌直したら?」 
 嗜めの声には彼らしくないほど鋭い視線を投げつけて、わざといつもより荒っぽい動作で自分の機嫌の悪さをアピールしている。
「その恰好で大股開きはヤメロ。 ヤバイ」
 正面に座っていた奴が困ったように忠告しても聞く耳もたず。
 みんながご機嫌とりに買ってきた昼食を、黙って押し込んでいる。
「なんで俺らが見たらそんなに不機嫌になるのさ。傷付くなぁ」
「うるさい」
「可愛いのに。なぁ、タカ?」
 俺にふるなと胸中思いつつ、高山は考える。
 ここでなんと言えばフォローになるだろう。
 英介は睨むような、救いの一言を求めるような複雑な視線を向けてくるし、他の連中は自分からどんな一言が飛び出るのか待っている。
「……に、似合ってる、けど?」
 飛んできたのはスニーカーだった。
「ごめん」
 どかっと背後の黒板に当って落ちたスニーカーを拾って、足下に戻してやるとフンっと鼻を鳴らした。
 お姫様のご機嫌取りは難しい。
「えっちゃーん」
 そこへひょこりと逃亡中の友里が顔を出した。
「友里! 服返せ!」
「うん。交換しよ。私もそろそろ着替えたい。えっちゃんと間違えられまくってさぁ、なんか抱き疲れそうになったりして困っちゃったよ。蹴り倒して来たけど」
 大変だったよ、と友里は自分のペースで着替えを申し出る。
 英介も妹には弱いのか、怒るに怒れないらしい。
 がっくり肩を落した。
「しかしこうして見ると、ほんとそっくり」
 背丈はさすがに友里の方が低いが、顔はよく似ている。
 ぱっとした顔立ちに、意志の強さに輝く双眸。
「友里ちゃんの方がお姉ちゃんに見えるね」
「でしょ? よく間違えられます」
 その言い方もクールでドライ。
 可愛い顔立ちには少しアンバランスな性格を友里はしている。
「いいから、お前等前向いてろよ、着替えるから。振り返った奴は殴るからな」
「お前一人着替えるんなら振り返るけど、友里ちゃんがいるんならシャレにならんだろ」
 ぶつくさ言いながらどことなく気まずい思いで前を向く。
「別に見ててもいーんだけどねぇー」
「駄目! お兄ちゃんが許しませんっ」
 背後の兄妹喧嘩に笑いを噛み殺す。
 妹にえっちゃん呼ばわりされても、英介はちゃんと一つ上の『お兄ちゃん』なのだ。
 年子にしては仲のいい兄弟だ。
「英介も勲さんみたいなこと言うんだな」
「そうなんですよー。勲ちゃんほどじゃないけど」
 ごそごそと衣擦れの音と一緒に、背後から友里の返事。
「簡単にはお嫁に行けないね」
「でもね、やっぱりえっちゃんの方が心配。悪い女に引っ掛からないかとか。男相手でも心配しちゃう」
「なんだよ、それ」
「えっちゃんは、見た目が可愛くて中身は馬鹿だから、引っ掛けやすいのよ」
「……友里……」
 兄弟愛には違いないだろうが、兄の威厳はないらしい。
「勲さん、俺達のことも警戒してるんだろうなぁ」
「してますよ〜。あ、着替え終わりました」
 振り向くと、今度はきちっと男子制服の英介と女子制服の友里がいた。
 ようやく落ち着く服装に戻って、英介は溜息を吐き出す。
 手櫛でいつもの無造作なヘアスタイルに戻して、シャツのボタンを適当に外す。
 そうしてどっかり机に腰掛ける姿は、確かに男の子だ。
「賑やかで、いい学校だね」
「うー? うーん。そうだね、うん」
 首を傾げていた英介だが、やがてこくりと頷いた。
 思うところは、いろいろあるだろう。
 高校のサッカー部では、なかなか成績を伸ばせない。
 部の仲間が、英介のレベルに自分達の実力が釣り合わないことを申し訳ないと思っているのを感じる。
 それに苛立つこともあったし、このまま自分は終わるのかもしれないと焦った時期もあった。
 今、名門に所属する夏木達と肩を並べられるようになってからは、この学校に来てよかったと思える。
 まだ不安な足を抱えたままで強豪校にでも入っていたら、たぶん自分は埋もれてしまっただろうから。
「そういや、英介はどうすんの?」
「どーするって?」
「卒業後の、進路」
 高校三年の秋。
 既に特別推薦で大学進学を決めているサッカー仲間もいる。
「え、大学は行かないと思うけど?」
「ふぅん。俺も、推薦蹴ったしなぁ。ちょっと後悔」
「タカは?」
「大学は、行かないだろうな。推薦の話もあったけど、これ以上勉強したくねぇし」
「ま、オファー次第だよねー」
「でもよ、英介は遠くへは行けないんじゃないのぉ?」
「なんで?」
「あの、兄貴がいるんだぜ?」
 そこでようやく英介も自分の置かれている状況に気が付いたらしい。
 そうだった、と肩を落した。
「そのへんは大丈夫でしょ」
 英介のぴんと跳ねてしまっていた襟足の髪を手櫛で直して友里が、言う。
「えっちゃんは自分の行きたいところへ行けばいいの。勲ちゃんが付いていくだけのことだから。地の果てまでね」
 なるほど、あの兄は英介の自由を狭めたりはしないだろう。
 その変わり、必ず見守ることができる距離にいたがる。
「あの人、外面はいいから、どこででもやっていけるしね」
「よかったな。英介。心置きなくどこへでもいける」
「……嬉しいんだか、悲しいんだか」
 妹に頭を撫でられるのも抵抗せずに、英介は小さな溜息をつく。
「そっかぁ、そろそろ卒業だもんなぁ。もうチーム決まってる奴もいるもんね」
 さっきまでの不機嫌も、元の恰好に戻れたことで復活したらしい。
「あー、不安だ!」
「なぁに言ってんの。名刺もらってるだろ、英介は」
 ほんの少しの余裕を持ったヤングジャパンの面子だからできるからかい合い。
「誰と誰が一緒のチームになるのかなぁ」
 不安もあるけれど、期待も大きい。
 まだ学生でいたいけど、でも早く大きな舞台を経験したい。
「楽しみだ」
 うずうずと、闘争本能が疼く。
 いつ蹴落とされるかわからないギリギリ感も確かにあるけれど、やってやろうという気持ちの方がでっかい。
 何せ僕らは若いので。
 不敵な笑みをかわしあったところで、校内放送のチャイムが鳴った。
「おっ、ミスコンの結果発表じゃないの?」
「もー、いいよ。聞きたくねぇ」
『午前中に行われた女装コンテストの結果発表をお知らせしまぁす』


 翌日、練習場。
 続々と集まるヤングジャパン候補選手達は一同にニヤニヤと携帯電話を眺めていた。
「おっはよーございまーす」
 英介が顔を出した途端、その視線が集まる。
 「お、きたぞ。美少女が」
 誰かが迂闊に呟いたその一言で、笑顔が固まる。
「……お前、携帯電話寄越せ」
 美少女には似つかわしくないドスの効いた声と睨みで、携帯電話を奪い取ると待ち受け画面を見て、眉間にざっくり皺を刻んだ。
 そこにはミニスカートにルーズソックス、大股開きでホットドックを頬張る自分の姿。
 ミスコン優勝者!の文字も躍っている。
「お、英介。学祭、楽しんだみたいだなぁ。見たぞ、写真。可愛かったなぁ」
 ひょこりと顔を出した監督やコーチも相好を崩す。
 ぴっぴと英介の指先が素早く動き、その待ち受けを消去した。
「あー! 何するんだよー!」
「うっさい! 俺にも肖像権があるんじゃー!」
「俺、プリントアウトしちゃったよ」
「馬鹿―!」
 何はともあれ、一生忘れられない学園祭は幕を閉じたのだった。


時は過ぎ……

「コレ、何?」
 付き合っている彼女にエロ本を発見されて突きつけられた男の気持ちを、今まさに高山浩二は味わっていた。
「………………」
「コレって、あの時の、アレだよな」
「………………」
「タカに借りてた本の間から出て来たんだけど」
「………………」
「なんでこんなん持ってるんだよ」
 仁王立ちする英介の前で、高山は考える。
 謝罪か、言い訳か。
 最善の選択はどっちだ!?
 英介が突きつけたのは、数年前に撮られてばら撒かれた女装中の英介の写真。
 プリント加工されたそれは、劣化も見せずに新品同様。
「タカはこんなの貰わないって思ってたのに!」
 ニヤニヤ笑いながら首謀者・樋口夏木が差し出すそれを、そっと貰い受けていた。
 当時、今のような恋心はなかったが、それを手放すのも惜しいような気持ちで仕舞い込んでいた。
 オカズにしたなんてことは誓ってありませんが、時に取り出して頬を緩めていたのは確かです。
「豆腐の角に頭ぶつけて死ね! 死んじゃやだけどっ」
 謝罪と言い訳の二択すら決定することができないでいるうちに、そう叫んだ英介は部屋を出て行ってしまった。
「英介っ、ごめん!」
 慌てて後を追うと同時に自然と口をついたのは、『これには理由が!』ではなく素直な謝罪の言葉だった。
「マジでごめん! ごめんって、英介!」
 高山の情けない声と、
「うるせぇ! 来るんじゃねぇ! マジで許さねぇ!」
 英介の怒声が響く虹明寮の廊下。
 またやってるよと擦れ違ったスバルが高山の部屋の前で拾った写真は、再びチーム内にばら撒かれたのだった。


学祭です。高校生です。女装ネタです。定番で王道です。BLの王道ネタは大好きだ。学祭と言えば女装だ!
作者としてはオチが気に入ってます。どうでしょう。

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