国際大会が国内で行われている真っ最中。
テレビでは特番が組まれている。
合宿所に戻ってミーティングついでにその番組は映し出されて、試合のダイジェストと解説者によるコメントを拝見することになる。
なんとか勝利をおさめた今日の試合に対するコメントは上々。
「やっぱ今日のMVPはタカだな」
「フリーキック最高だったもんなー」
「でもちょっと下がりすぎ」
「そりゃボランチが下がった分、俺らも下がったんだ」
「今日のはもっとガツガツ上がっても良かったよな〜」
「かと言って上がりまくりでも困るけど」
「今日はバランスが今一歩だったな」
スクリーンに映像を映すために灯りの落とされた室内では、甘口コメントに満足しない俺達の意見が飛び交う。
課題がなくなることなんて、きっと一生ない。
司会のサッカー好きで知られるコメディアンは、パートナー役のアイドルに話を振っている。
『ミユちゃんの中の、今日の試合のMVPはずばり誰ですか?』
そんな問い掛けが聞こえてきた瞬間、サッカー談義がピタリと途切れた。
『はいっ。私の選ぶこの試合のMVPはぁ……』
思わせぶりな間があって、青年達の視線は熱くスクリーンに向かう。
『芸術的なフリーキックを決めた、高山浩二選手です!』
ひゅぅ、と誰かが口笛を吹いた。
天然具合とAカップで弄られて人気のアイドルは、可愛い口唇にその理由を乗せる。
『かっこいいですよね。軽くないって言うか、ニッポン男児って感じで素敵です』
う・わ・お〜、と妙な歓声が、テレビの向こうとこっちで上がる。
司会は、高山選手がもしもこの番組を見ているのならご連絡くださいね、なんて茶化して笑いを誘う。
ソファーを寄せ集めたミーティングルームの後ろの方に当の本人は座っていて、きっと無表情にちょっと不機嫌を滲ませて冷やかしを受け流しているんだろう。
「おい、英介、いいのかよ。アイドル相手じゃタカ掻っ攫われる日も遠くないぜ?」
当然、俺にもそんな茶化しは向けられる。
知ってるよ、タカがもてることなんて。
今時珍しいくらいの硬派で、彼女の言うとおり日本男児って感じで。
かっこいいし、きりっとしているし、頼りになるし、さり気無いところで優しいし。
自分の感情を伝えるのに消極的過ぎるとか、欠点もたくさんあるけれど、それよりもいいところだっていっぱいある。
そんなイイ奴だから、世のイイ男を見抜く目をもった女性達はタカのことを好きになる。
恋とまではいかなくても、好ましいと甘い気持ちを抱くのだ。
知ってるよ、そんなこと。
「あの子にサッカーができるのかよ」
最前列に座っていた俺は背後を振り向き、やいのやいのと騒ぎ立てるチームメイトを見渡した。
「あの子がめっちゃ上手いストライカーだったら焦ってやるよ」
喧嘩口調になっているのを自覚する。
噂よりも真実が近くにあるから、俺は揺るがないよ。
睨みつけるように見つめたタカは一瞬驚いて目を大きくし、更には赤面しながらぱぁっと破顔した。
珍しいほどの笑顔に困惑を混ぜた不思議な表情を浮かべた顔を覆ってしまう。
「げ、タカがキモイ」
「……るっせ」
「やっぱ英介だなー」
タカがもてることは知ってる。
だけど、タカが俺のどこを好きでいるかって事も、知ってるんだよ。
インターネットの検索サイトで『江口英介』と打ち込んでエンターキーを押してみれば、公式サイトの情報等を覗いても六桁近いヒット数が表示される。
『高山浩二』で検索してもせいぜい四桁に届くかどうかの微妙な数字。
新聞サイトの記事やデータサイトにサッカー批評サイト、個人ファンページに応援同盟、掲示板での話題。
引っ掛かるページは様々だ。
カチカチと適当にアクセスして見ると、練習場で撮られたのだろう、英介の写真が掲載されている。
そう言えば最近は、サイトに載せてもいいですかと尋ねられることが増えた。
自分達の試合のレポート、ちらっとでも発した言葉は大事にサイトに飾られている。
それはいいのだけれど、中傷や嘘八百の噂は気に障る。
プロでスポーツをしている以上仕方のないことなのかもしれないが、それにしても酷い。
誰とでも寝るとか、昔セックスしたことがあるとか、そういう下世話な話題も尽きない。
本人は全く気にしていないのに、周囲はそれに敏感だ。
ストーカーめいたファンレターもないわけじゃない。
心配も募るし、気分が悪い。
英介は常に人の目に晒されていて、いい噂も悪い噂もまるでウィルスのように英介に纏わりつく。
「ターカー」
ターまではドアの外、カーは部屋の中で呼びかけられる。
「この前貸した漫画の続き出たから貸してやろうと思って」
「あー、サンキュ。その辺置いといて」
んーと生返事をしながら、英介は我が物顔でベッドに転がる。
「なにしてんの?」
「ネット」
「エロサイトでも覗いてんの?」
「江口英介の卑猥な噂の数々に呆れてるんだ」
「あー、ネット上の俺は悪い男だからねぇ」
英介は可笑しそうに笑う。
ネット上の英介の性生活への積極性が、本物にも多少なりでも伝染すればいいのにと思わないこともない。
噂する者は知らないんだ。
英介の脚力の恐ろしさを。
五万、それ以上の観衆を歓喜の渦にまとめて蹴っ飛ばす黄金の右足の威力を。
「気になる?」
「なに?」
「そういう、噂みたいなの」
振り向くと、英介は漫画を広げて表情を隠していた。
でも俺にはわかる。
ちょっとだけ、不安そうな目をしているはずだ。
「わざわざ噂に耳を貸さなくても、そこに本人がいるんだから気にならねぇよ」
ごろりと英介が寝返りをうって、壁の方に顔を向けてしまった。
噂なんて、英介の事を知らない者が想像を膨らませて作るもの。
俺は目の前にいる本物の態度や言葉を信じるだけだ。
壁の方を向いてしまった英介の耳が仄かに赤く染まるのを、俺はこの目で見つめている。
2004/12/2
高山浩二の噂の方が上手くできたかなー。W杯の時のダイジェスト番組かなんかで乙○つぁんが言ってたシーンを思い出して。有名人ってサイトで自分の噂とか見たりするのかなー。