ゴールネットが柔らかく波打つ。
それを見届けた英介の拳が、ぐっと固められた。
誇らしく掲げるようなガッツポーズではなく、自分が得たゴールの感触を認めるような低めの位置で小さく上下する俯いたガッツポーズだ 。
それから歓喜するサポーターに向けてその拳を向ける。
サポーターはそうして知るのだ。
江口英介の調子の具合を。
サポーターは、英介の小さなガッツポーズを見るのが好きだ。
そしてイレブンは、英介がセンターサークルから振り返るその顔を好ましいと思っている。
キックオフの笛を待ちながら、英介がボールに片足をかける。
自分が突っ込んでいくゴールをしばらく見据えた後、何気ない仕草で振り返るのだ。
自分とともに戦う選手の顔をぐるりと見渡し、スタジアム上空を一瞬見上げる。
目を閉じ祈るような仕草を見せる時、これから試合が始まることを忘れさせるような穏やかな横顔になる。
それも一瞬のこと。
目を開き、自分の胸のエンブレムを拳で叩けば臨戦態勢は整った。
ピッチ上の英介の仕草の全てが、観衆の喜怒哀楽を支配する。
もうすぐ、キックオフを告げる笛が鳴り響く。
観衆の心は、英介に、俺たちに、縛られる。
すいと伸びる腕が指す方向。
ゴールへと続く道は、いつもタカのその腕が描く。
走れ。
俺の指差す方向へ。
普段の自信の無さが嘘のように、その手は明確な意思をピッチに描く。
タカの仕草の中で、たぶん一番堂々と、自信に溢れたアクション。
タカの腕が前方へと伸び、指がゴールを向いた時、俺はチャンスを信じて走り出せる。
あの仕草が一番好きだなと思う。
タカにそれを言ったら、なんだか複雑な表情になった。
「……こう、なんつーか、サッカーと私生活を切り離して考えて?」
「なんでだよ」
「サッカー以外のところを褒めてくれたら、俺も自信になる」
「贅沢な奴だな。サッカー褒められた事を自信に結び付けろよ」
「っつーか、お前がサッカーの事しか褒めてくれないから」
無意識にそっぽを向く子どものような動作も好きだけど、それはやっぱりピッチの上での自信を秘めた彼あってこそ。
「自信が欲しくて褒められたいのか。自信があるプレーで魅せるから褒められるってパターンもありってことを考えろ」
はい、と神妙な返事がおかしかった。
ピッチを降りたタカの仕草は褒めるようなもんじゃなくて、見惚れるもので酔うもので安堵するもの。
サッカー以外のお前をかっこいいね、なんて言ってやんねぇよ。
男としてのプライドが許さないからな。
2005/03/06
試合中、パサーが伸ばす腕のラインが好きです。