彼の事をきかせて10題
10:寝起き



高山浩二の寝起き



 取材を終えて寮に戻ると、俺の部屋にタカが寝ていた。
 スポーツ選手に合うようにと一般の物よりも長めに作られている寮のベッドは俺には少し長すぎるのに、タカにはぴったりサイズらしい。
 気持ちよさそうに寝そべっている。
 俺の部屋とタカの部屋と、頻繁に行き来しすぎてどっちがどっちの部屋だかわからなくなるほどだから、タカが俺の留守中に入り込んでいるなんて珍しくもないことだけど、眠ってしまっているのは珍しいかもしれない。
 俺の毛布を抱き枕のようにして、半分うつ伏せの状態で眠りこけている。
 間抜けな寝顔を見下ろしながら、着ていた上着を脱いで放る。
 春の日差しにほどよく温もった部屋での昼寝は気持ちよさそうだ。
 昨日は一緒に眠って……眠るだけじゃなかったけど、朝はタカが起きないうちに出て行ったから、この光景は出て行った時とまったく同 じ光景だ。 
 まだ昼前だけど。
 寝顔はあどけないのに寝そべる体は逞しく、脱力しきって横たわっていても力強さを醸し出す。
 晒された首筋や、薄いロンTに浮かび上がる体のラインを目で辿って、触りたいと思う。
男らしい肉体ならば自分だってそれなりのものは持っているし、同僚たちの体だって毎日のように見ているけれど、こうして触りたいと思うのはタカだけだ。
 硬い髪の毛に触れ、広い肩に手をかけ首筋に鼻先を寄せる。
 煙草も吸わず香水をつける習慣もないタカから香るのは、太陽の匂い。
 食べたら美味しそうだなと思った時には、タカの首筋を舐めていた。
 考えがまとまる前に体が動くのは、自分でも悪い癖だと思っているんだけどしょうがない。
 たまには人間、欲望に忠実に生きなければ。
 タカが唸りながら体を伸ばした。
 長い腕が伸びてきて、俺の首裏を包み込む。
「起きてたろ、お前」
 俺の言葉にタカの目がパチリと開いた。
 昼寝で熟睡することがなく、寝起きもばっちりなタカだから、俺が触ったあたりで起きているはずだ。
 タカは答えず低い声で笑いながら、俺の体を易々とベッドの上に引きずり上げる。
「朝、起きたらお前いないから、ちょっと心配だった」
「愛想尽かして出て行ったと思った?」
「そういう心配は今のところない。心配したのは体調の方」
 寝起きとは思えない腕力としっかりした声。
 確かにちょっと体が重くて熱っぽいと自覚はしてたけど、セックスの翌日いつもそうなるわけじゃないから、タカは気付かないのかと思ってた。
「もうちょい眠りたいから付き合って」
 ぽすんと手の平が柔らかく後頭部に触れる。
 タカの優しい嘘と一定のリズムで触れられる手の心地よさに甘えて、俺は眠りに身を委ねる。
 眠っていても目を覚ましていても、彼のことが愛しいと思うのです。



江口英介の寝起き



 だんだんと意識は浮上してきているのだろう、もぞもぞと頻繁に身じろぎを始める。
 動きは活発になってきてるのに、目は閉じられたまま穏やかな寝息をたてている。
 英介の寝起きは悪いと言うか、緩やかだ。
 何度も寝返りをうち、手足を伸ばす。
 今にも起きだしそうなのに、時間がかかる。
 まぁ、今日はオフだし、昨日は寝る直前に運動したし、いいか。
 よく喋り、よく跳ね回る存在が黙って寝そべっているというのは寂しいけど、気持ちよさそうな寝顔を見ていると起こす気も失せる。
「んー」
 唸った英介がまた寝返りを打ち、ベッドに腰掛けた俺の方を向く。
 抱き枕にしようと毛布を手繰り寄せ、体を丸める。
 露わになった肩はしなやかな筋肉の陰影を描き出している。
 英介の体はしなやかだ。
 チーターのような猫科の動物を連想させる。
 しなやかなラインを留める皮膚の下には、しっかりした骨格と力強い筋肉が潜んでいる。
 眠れる獣の肌には、俺が付けたキスマークが一つ二つ、付けた本人でなければ確かめられないほど薄く残っていた。
 朝日を浴びてチョコレート色に染まる髪の毛を指先で掬い上げると、サラサラとした感触を残して逃げていく。
 冷たい耳朶に触れ、その裏や首筋をマッサージするように摩っていると、ふあっと欠伸が聞こえてきた。
 背中がぐっと丸まって、次には弓のように反り返る。
 あーとかうーとか意味不明の声を発しながら、英介は重たそうな目蓋を持ち上げた。
 ぼんやりした眼差しが俺に向けられ、数分の時間をかけて焦点が絞られていく。
 まだ目覚めきらない英介の頬に触れていると、俺の手から逃れるように顔面をベッドに埋める。
 恥ずかしかったのだろうかと思っていると、
「あー、ねむ……」
 眠り足りなかったらしい。
「っつーか、体、だるい」
 目をこすり大きな溜め息をつきながら、また俺の方を恨めしげな目つきで見上げる。
 ごめんと一言謝って、頭を撫でてやる。
 猫が喉を撫でてもらっている時のように、手に擦り寄るような仕草を見せて英介は目を細めた。
「タカ、今日何か用事ある?」
「特にないけど?」
「……ん。じゃあ、傍でゴロゴロしてていい?」
 返事のかわりに髪の毛をくしゃりと乱すと、英介は甘い笑顔を浮かべる。
 寝起きの彼はいつもより少し素直で大人しく、俺はそれを少しだけ物足りないと思いながら、すいっと眠りに潜り込んだ英介を見守るのだ。


2005/05/21
寝起きの描写って、けっこう書いてるのかな。ネタ切れ感満載です(^^;何はともあれ、これで「彼のことを聞かせて10題」制覇でございます!!現在、BSシリーズでは「モノカキさんに30のお題」「フッボーで15のお題」に挑戦中。こちらの10題は初のお題達成となりましたv

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