「案外よく寝る男だね、タカは」
虹明寮の食堂は、時に新作ゲームお試し会場になる。
サッカーゲームのCMに出演した昴が発売日よりほんの少し早く献品としてもって帰ったため、夕食後はゲーム大会が急遽開催された。
パズル、サッカー、RPG、格闘と、全てのジャンルを制覇して、高山はゲーム大会最下位をぶっちぎる。
新作ゲームで歯がたつわけもなく、早々に相手不足としてコントローラーを譲ってもらえなくなった。
手持ち無沙汰に携帯を弄っていたが、いつの間にか食堂の隅のソファーを占拠して眠っていた。
「雑魚寝とか苦手って言ってたんですけどねー」
すっかり集団生活にも馴染んでしまったらしい。
連勝でコントローラーを握っていた英介も、とうとう若手に王座を奪われたらしい。
相棒の眠るソファーの端に遠慮なく腰掛ける。
「こういう状況を見ると、思い出すねぇ」
「何ですか?」
「英介とタカの馴れ初め」
意地悪く光った昴の表情には気づかず、つい問い返してしまった英介がしまったと顔をしかめるがもう遅い。
数年前のシーズン前合宿でも、こんな風にゲーム大会が開催されて何人かの選手で盛り上がった。
優勝者の言うことを何でも聞くという罰ゲームのある恒例行事で、その年の王者はベテラン選手の坂本だった。
大会の途中で眠りこけてしまったタカにキスをしろというのが、英介に課せられた命令だったのだ。
そこから全て始まってしまったという事実は、忘れようがない。
「あのままいつの間にかくっついちゃったもんなぁ」
「坂本さんに感謝しろよ」
「……してますよ」
「だよなー。坂本さんの結婚記念日にワイン贈っちゃったんだって。律儀だねー」
にやにやと性質の悪い笑みを浮かべて、年長者は実に楽しそうに英介をからかう。
最近ではこういうからかいを向けようものなら、可愛くない相棒がむすっとした顔で掻っ攫っていってしまう。
久々に手中に戻ってきた玩具を突きまわせる嬉しさから発せられるからかいは、英介の頬をどんどん紅潮させる。
「俺のお勧めのラブホはねー…」
からかいが猥談に突入すると英介は耐え切れなったのか、気持ちよく眠っていた高山の頭を突然叩いた。
「……っ、あ? ってぇー。なんだぁ?」
居た堪れないオーラを出しながら、英介はスピードスターの名にふさわしい勢いで食堂を出て行ってしまった。
眠りから引きずり上げられた不愉快さと困惑とで眉を寄せる高山の前では、食えない連中が腹を抱えて笑っている。
「いつかみたいにご機嫌とりに行ってこいよ」
眠っていれば幸せが訪れる男は首を捻りながら、のっそり起き上がる。
わけのわからないまま責められて、それでも穏やかな夜を過ごすのだろう。
2006/09/11
眠り姫タカさん。