言ノ端七題_ver2【B】
2:噛む男


「血がすげー勢いで流れてる」
 情事のあとの第一声に色気は微塵もないが、誰と何をしたか実感できる発言に聞こえないこともないと、高山は英介にかけていた体重をどける。
 触れ合っていた胸は、心臓が体中に血液を送り出すための収縮をいつもよりも忙しそうに繰り返していた。
 体の構造を他よりも少しだけ詳しく知り、意識することの多い自分たちならではのピロートークとも思える。
 笑みが浮かぶのを自覚しながら、ベッドの下に置いたペットボトルに手を伸ばす。
 ぴりっとした痛みが走って、思わず顔をしかめると英介が原因に気づいた。
 首から二の腕あたりまで、いくつかの歯型が残っているはずだ。
 興奮していれば痛みも感じないが、落ち着いてくるとピリピリ痛むほどには強く噛みつかれている。
 英介はまだ熱い指先を伸ばしてきて、ごめんと消え入りそうな声で呟く。
 元々、ストローのように口に銜えておくものをクタクタになるまで噛みしだく癖のあった英介だが、この歯型の意味はちょっと違う。
 声を必死で抑えるための行為だ。
 確かに痛みはするし痕もしばらくの間残るだろうが、これが声の変わりだと思えばむしろ喜ばしい。
 申し訳なさそうな英介の口に、ベッドが軋んでいる間にすっかり温くなってしまった水を口移しで飲ませると、素直に喉を鳴らす。
 その喉元に触れ、高山は囁く。
「俺も痕つけたから、あいこ」
 耳の下、首筋と触れたところに残る痕。
 困った顔をした英介は、高山の鼻を一齧りで許してくれた。


たまには色っぽく。

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