言ノ端七題_ver2【B】
3:拾う男


 その年の新加入選手は全部で六人。
 内四人は移籍選手で、いずれも五年以上のプロ生活を歩んできている。
 残り二人が高卒ルーキーで、ユース経験はあるものの、高校生になって突然開花し始めた実力未知数の種二粒だった。
 ストーブリーグが収束し始めた頃の評判では、レインボーチャーサーの補強には若干の不安があるとのこと。
 司令塔の富永真吾、ストライカーの片岡昴。
 この二本柱がチームの要だが、代表常連でもある二人が使えない時にどうするのか、つまりは選手層の薄さと世代交代の遅れを指摘されている。

 四人の経験選手はゆっくりとチームに融合しつつある。
 あとはルーキーがこのチームの第二の層となり、主軸を脅かす存在になるのか。
 補強に関して高卒ルーキー二人の獲得に最も乗り気だった内田は、まだ手応えを感じていない。
 入寮に新人研修。
 高校から初めて、多少特殊とは言え社会に出たばかりの二人には覚えることが山ほどあるし、挨拶をして回らなければならないところも多々ある。
 新しい環境に馴染むのには、もう少し落ち着かないと難しい。
「早く弄り回したい」
 抑えてきた本音が、彼らのメディカルチェックの結果を受けて零れてしまった。
 どちらもコンディションは良好。
 公式データとなる体格についてはフォワードの方に物足りなさを感じるが、彼の場合は足の速さが売りだ。
 このくらい軽い方が良いのだろうと思いつつ、一センチ追加させて資料を送る。
「江口と高山をセットで獲ったのは、ウッチーの策略?」
 取材で出身母体である神戸を訪れた市井が、他のどのチームよりも詳細な情報を眺めながら尋ねてくる。
「策略に見えたか」
「ユースでも仲がいいって有名な二人だったから」
「まぁ、そうだな。策略だな。聞き齧った情報から二人の性格考えて、セットなら新生活にも上手く馴染めると思ったし。富永と昴のラインを継ぐなり奪うなりしてくれれば面白くなるだろうし。経験と実力ある選手同士で組ませるよりは、真っ白い状態のを育てていった方が噛み合いそうだとも思ったし」
「他のチームの新人に比べると、よく馴染んでると思うよ」
 各チームの取材やら企画やらに奔走しているサッカー解説者が言うのだから、間違いなさそうだ。
「江口の方が物怖じしないからな。それで失敗すれば、高山がフォローしてやってる。礼儀も、完璧とは言わないけどちゃんとしなくちゃなって意識はあるから気持ちいいもんだ」
「そのうちふてぶてしくなるぞ。話かけても、何スかって睨んでくるんだ」
「お前が作った伝統が引き継がれてるってことだ」
「お前もだろ」
「さー、記憶にないねー」
 とぼけながら散らかした資料を束ね、偉大なOBをグラウンドに促す。
 練習場では高山がコーナーキックを蹴っていた。
 ヘディングの準備をしていた昴の頭上を大きく越えたそれがファーに落ちる。
 ぽっかりと空いた空間に、センターからぐるりと迂回した江口が走りこむ。
 ボールを受け体勢を整えてのシュートはディフェンスの体に当たって弾かれたが、楽しい未来を想像させてくれる。

 新しく形を変えたチームが融合していく。
 シーズンインを直前に、何かが芽吹く気配を感じる。
 それは内田を安堵させ、市井を楽しませる。
「これから内田ファイルが分厚くなるんだろうな」
「おうよ、拾っていくぜ。どんな些細なデータでも。覆される日を待ちながらな」
 スパイクを脱いだ彼らは未来を裏切られる日を想像し、胸高鳴らせる。


2006/11/24
データマン内田を書きたかったのです。

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