「富永さん、蹴らせてもらっていいっスか?」
ボールを置いたところで、高山から声がかけられた。
「自信は?」
なければ、この寡黙で自己主張の少ない選手が自らキッカーを名乗り出るわけがない。
答えるわけでもなくゴールだけを見つめている後輩に小さく耳打ちすると、表情を変えずに頷いた。
俺がセットしたボールを自分で直すことなく、数歩ずつ下がる。
ゴール前では昴をはじめとする攻撃陣だけでなく、高い打点を誇る守備陣も数人攻めあがっている。
壁の中での激しい競り合いが繰り広げられている。
ホイッスルが響く。
俺がボールに向かって走り出し、ボールを跨いだ次の瞬間。
背後を高山が駆け抜ける。
顔を向けた先。
高山が蹴り込んだボールが壁の間をすり抜けてゴールキーパーに一歩も動くことを許さずに、ゴールネットを揺らしていた。
大砲だとかキャノン砲だとかバズーカだとか。
そういう比喩がぴったりの威力あるミドルシュートは見事なばかり。
どっとスタジアムが興奮に包まれた。
ふわりと綺麗な放物線を描くようなパスを得意とする高山の真骨頂を見せ付けられた。
相手を嘲笑うかのようなループでもなく、味方でさえもうっとりさせる正確で柔らかなアシストでもない。
あれには当りたくないと思うような、威力あるミドルシュート。
誰よりも遅く残って行っていたシュート練習の成果がしっかりと現われた。
よっしゃと拳を固め、抱きついてくるチームメイト達を受け止める。
快心の笑み。
頼もしい後輩は、チームメイトともつれ合いながらセンターラインに向かう。
「タカ!」
ようやく解放された高山の頭を叩くようにして撫でてやると、俯きながら照れ笑いを見せた。
俺に憧れてこのチームを選んだ可愛い後輩が、はにかみながら俺のポジションを脅かす。
嬉しくて、そして恐ろしい成長。
ピリピリするような感触が、俺をまだまだ成長させる。
さぁ、もっと
もっと強くなれ
もっと上手くなれ
もっとヒヤヒヤさせろ
キッカーの役目を簡単に譲ることすら躊躇うような存在に
俺の最後の仕事は、お前の踏み台になることだ
その時を一瞬でも先延ばしにするために、俺は走り続けるから
2004/9/9
珍しく神戸の師弟コンビで書いてみました。キッカーを譲る譲らないっていうのも、実は物凄く激しいポジション争いだと思います。本当は口じゃんけんネタとどっちにしようか迷ったんですが、富永とタカで口じゃんけんとか……かけない(笑)