フッボーで30のお題
空13 : アシスト



 虹明寮の英介の部屋は、けっこう片付いている。
 愛されて育ったからと言って、ただただ甘やかされてきたわけじゃないらしい。
 寮内でもベスト3に入るほどには整頓されている。
 その部屋で、奇妙なものを見つけた。
「なんだコレ?」
 テレビの上にちょこんと置かれていたソレを手にとる。
「あ、それ?」
 洗濯物を干していた英介がベランダから戻ってきた。
 窓の外は綺麗な青空が広がっている。
「もらったんだ」
「ファンに?」
「うん。手作りだって」
 俺の手の平に乗っているのは、キラキラ光る王冠だった。
 白というか、よく見ればしゃぼん玉のように虹色の光を反射させるビーズで、王冠のラインを模っている。
「よくできてるな」
 歌って踊るアイドルが頭に乗っけてそうだ。
「今年こそ得点王になって下さいって」
 洗濯籠を置いて、英介が隣に座った。
 日光を浴びていたのは少しの間なのに、英介からはもう太陽の匂いがする。
 頭のてっぺんに、小さな王冠を乗せてみた。
 留めるものが何もないから、コロリと落ちそうになる。
 バランスをとって何とか天辺に落ち着いた王冠が、外からの光を受けてキラキラ輝く。
「似合う?」
「似合う」
 呆けたような声が出た。
 あまりに似合いすぎていて。
 この甘いルックスのせいか、活躍のせいか、人柄のせいか。
 英介の愛称の一つに“神戸の王子様”なんて言うのがある。
 まぁ、どこのチームにも一人は若くて童顔なのがいて、女性ファンから王子様なんて呼ばれるものだ。
 うちのチームは文句なしに英介だ。
「王子様みたい」
「タカにとっては確かに王子様だね、俺は」
 目を細めて浮かべる、自身満々の笑み。
 こういう表情がいかにも王子様だ。
 心優しく勇気溢れ、通りがかりの国のお姫様の不幸を追い払うような王子様ではなくて、我侭でやんちゃで笑顔一つ涙一つで周囲を動かすパワーを持っているのに無自覚。
 虎視眈々と王座を狙う、野心に溢れた王子様だ。
「じゃあ、何か。俺がお姫様か」
「世界一似合わないキャスティングだな。じゃあねー、執事のじいや」
「じいやかよ」
「傍で黙ぁってるトコロとか、いい感じじゃない?」
「感じじゃねぇよ」
「我侭だなぁ」
 我侭はどっちだ。
 なんだかおかしなやり取りになっているが、英介は楽しそうにケラケラ笑っている。
 投げ出した足のハーフパンツからのぞく膝に、今日はくっきりと縫合の痕が浮かび上がっている。
 日によってはっきり見える日とそうでない日がある。
 いろんな意味で傷物の王子様だ。

 英介は、誰もが目指す優勝のタイトル以外に欲しいものが二つある。
 一つは、もう叶わない高校生王者の称号。
 これは後輩達が引き継いでいるらしい。
 もう一つが、得点王。
 ストライカーならみんな目指すタイトルだろう。
 ストライカーの中で一番の証。
 それを、渇望している。
 他の選手に比べると執着の度合いは強いような気がする。
『存在意義刻むみたいじゃない?』
 一点入れるたびに、必要とされる。
 一番になったら、この国のサッカーは俺を離せなくなるんじゃないかと思って。
 思い込みのまま突っ走りつづけるストライカーは、頭に王冠を乗っけてケラケラと笑いつづけている。
 振動で転がった王冠をキャッチして、もう一度頭に乗っけてやる。
「得点王、獲らしてやるよ」
 手をとった。
 一年ちょっとですっかり傷だらけになってしまった左手薬指の安物の指輪に、気障だなと自覚しながらキスをした。
「お前が得点王になる時は、俺がアシストキングになる時だ」
 驚いた顔で俺の仕草を見ていた英介の顔が、みるみるうちに赤くなっていくのがわかった。
 騎士気取りなんてさすがにクサすぎるかと思ったのに、英介は意外とベタな展開に弱い。
 羞恥が溢れすぎて潤んだ目をそらしている。
「……キザぁ」
「嬉しいくせに」
「だって王様になりたいんだもん」
 頭の上の王冠をとって俺の頭に乗せた。
 似合わない、とぶっきらぼうに言う。
 左手は俺に握られたままで、まだ照れている。
 間抜けに映るんだろう俺の頭の上の王冠を、英介の頭に戻した。
 やっぱりこっちの方が似合う。
「うちは同じチーム内に強力なライバルがいるからなぁ」
「自信ない?」
「ある」
 即答する目は、自信も野心も満タン。
 今からでも走り出しそう。
 飛び出して躍動して、めちゃくちゃに暴れてきそう。
 尊敬するベテラン勢を叩きのめして、王座を食らう。
 それでこそ王冠も似合って見える。
 俺が何時の間にか惹き付けられていた輝きが見える。
「だからアシストよろしく」
 トン、と英介がもたれてきて、額を俺の胸元に押し付けてきた。
 あっさりと、さっきまでのギラギラした獣性を引っ込めて。
 背中に回った手がぎゅっとシャツを掴んだ。
 ライオンが猫になる瞬間はいつも唐突だ。
「俺がタカを王様にしてあげるから」
 感動的な言葉のはずなのに、何故か卑猥に聞こえてしまったのは俺の耳がおかしいせいか。
 頬を撫でた。
 英介が顔をあげる。
 眠そうにも見えるし、うっとりしているようにも見える目。
 ゆっくり屈んで口唇を触れ合わせると、睫毛を下ろす。
 ぱっちりした印象を与える瞳を縁取る睫毛はけっこう長い。
 英介の顔立ちをゴージャスだと表現したコメンテーターがいたっけか。
 下克上を起こす覚悟も決まってしまいそうだ。
 相手は半端なく手強いし、何よりも俺の憧れでもあるのだが。
 うっかり零しかけた溜息は、英介王子の口唇に奪われた。
 白馬の変わりに俺の膝に乗っかってきた体を支えながら目を開くと、転がり落ちた王冠が陽の光を受けてキラキラと輝いていた。
 拾い上げ、キスに没頭してくれる英介の頭上にもう一度戻した。
 甘い顔をした王子様は、もうすぐ、必ず、王者になる。
 そしてその時、隣に立つ俺の頭上にもそれなりに立派で貫禄のある王冠が乗っかっていればいい。


2004/7/3
お気に入りの話です。楽しみながら書きました。こう……キッチュな感じを目指して(え?)
アシストだから、サッカーしてるところにしようかと思ったんだけど、ちょっとのんびりムードで。
英介は王子様がコンセプトです。暴れん坊な王子様で、キラキラな王冠が似合う容姿をイメージして書いてます。女王様なら矢良薫。……タカは……白馬?サッカー以外でもタカが好きな英介を書かないといけない(義務)

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