Stage of the Ground


足は、切り離された。



「絶対に勝つよー」
「イチ、強いもん」
「うわっ、シュート!」
「あーん、何で入らないの〜?」
 声が、聞えてきた。
 個室のベッドで矢良は、甲高い幾つかの声に起こされた。
 遠く、廊下に子ども達の声が響いている。


「……何?」
「あら、起きた?」
「何? うるさい」
 部屋の中には母親がいて、顔を覗き込んできた。
 薫の問いに困ったような表情をする。
「廊下の先に、テレビを置いてあるんだけど、そこで子どもがテレビ見てるのよ」
 あぁ、サッカーを見てるんだなと、聞えてくる会話から察した。
「……今日、勝たなかったら、駄目な試合か」
 母親は何も言わずに部屋を出た。
 サッカーから、切り離そうとしている。
 周囲のそんな空気を感じる。
 そりゃそうだろう。
 自分はつい数日前に飛び降りて、使い物にならなくなっていた足を切り離したんだから。
 ゲーム中に負傷した足を見て、母親は青ざめていた。
 自分なんかよりもずっと。
 自分はどこかで大丈夫だという自信を持っていたから。
 それが駄目だと知って、涙を流したのは母親だったし、自殺未遂を仕出かしてこれ以上ないほど涙したのも母だった。
 怒ったのは父でもなく、チームメイトの市井だったが。
 医者が止めなければ絶対に殴られていた。
 ぼろぼろ泣きながら、怒声を放って。
 お前に何がわかる。
 そう言って突き放してしまえば簡単な話だったが、薫にはそれができなかった。
 市井は心を離してはいけない友人だと、実感したからだ。
 

 焦燥を感じている自分を認識できないほど、気持ちが溢れすぎていて逆に冷静になってしまっている自分。
 激情は、窓から飛び降りたその瞬間に全て放ってしまったのかもしれない。
 そう言えば、這うようにして窓を開け、外へと体を押し出してから再び目が覚めるまでの記憶は朧だ。
 わけがわからなくなっていたのかもしれないと思う。
 あとはジクジクと痛む自己嫌悪が苛むだけだ。
 

 サッカーが、できない自分がここにいる。
 

 六歳の頃、ボールを蹴り始めた。
 帰ってこいと行ってもずっとグランドでボールを蹴っていたのだと、母が言っていた。
 それからずっと、サッカーを中心に生活してきた。
 小学校の頃はジュニアチーム。
 中学、高校と部活に入った。
 大学にはスポーツ推薦枠で入り、大学サッカーをしていた。
 在学中に、オファーが来た。
 神戸RCに入団し、やっとプロの世界にも馴染んだ。
 ディフェンスラインを統率するセンターバック。
 前線への正確なフィードという武器も認められてきた。
 目指すのは、世界だった。
 

 ピッチの上。
 昇格をかけた大事な一戦だった。
 ヘディングで競り合って、着地に失敗した。
 レガースも真っ二つに割れていた。
 骨の砕ける音も聞いた。
 白いユニフォームがその場で赤く染まるような、そんなあり得ないような怪我だった。
 昇格は、逃れた。
 世界への夢も、零れ落ちた。
 サッカーは、もう出来ない。
 プロの舞台で、ボールを蹴ることは二度と叶わないのだ。
 周囲は自分に気を使い、球団側もまだ何も言ってこない。
 ドクターも特になにを言うわけでもなく、ただ足が駄目になったことを告げ、手術を行った。
 誰も、サッカーの話をしようとしなかった。
 サッカーが禁句だとは思わない。
 サッカーと自分の繋がりはプツリと切れてしまったのだ。
 上手くなれば這い上がることができるという次元ではなくなった。
 

 死ぬことすらできなかった。
 深い深い諦めが、薫の胸を支配していた。
 母も父も、ドクターもチームの連中も、監督も、市井も泣いていた。
 でも、まだ薫自身の目から涙は零れなかった。

 

「あー!」
「うわっ!」
 廊下に響く声。
 体を起こそうとしたが、自殺未遂の時に新たに骨折した腕や打ちつけた背中が痛んだ。
「母さん」
 少し大きな声を出しただけで胸が痛んだ。
 慌てたように母が戻ってくる。
「どうしたの?」
「テレビ、見たいんだけど」
「え?」
 怪訝な顔。
「神戸の試合、見たいんだけど」
 今日の試合を負けたら、引き分けたら、神戸RCの昇格はほんとうになくなる。
 今日を勝てば神戸は昇格できるのだ。
 自分が関わった最後のシーズン。
「見たいんだ」
 自分の立つべき舞台を。
 自分のいない舞台を。
 自分がもう立てない舞台を。
 自分が、全てをかけてきた舞台を。


 

 

 それは喪章のようにも見えた。

 

 白いユニフォームの袖に縫い付けられた、背番号4。
 先日まで薫が背負っていた背番号だった。
 ピッチを駆けるチームメイトの横顔に笑みは一度として浮かばず、足も重そうに見えた。
 サッカーをするのが楽しくて仕方のない連中が、サッカーなんかしたくなさそうな顔をしているのが、妙におかしかった。

『あーっと、市井倒された! これはPKですね。昇格をかけた試合の膠着の中で神戸がPKのチャンスを得ました』

『矢良選手の一件が神戸にはありますからね。絶対に勝ちたいという思いもあるでしょうが、やはりちょっと怖がってゲームしている様子はありますね』

『怖がっているというのは?』

『当りが弱いんですよ。ディフェンスだけではなくチーム全体の。相手の広島もあの映像は見たでしょうからね。広島の方も怖がっていて、それで膠着してしまうんですね。仕方ないんでしょうが……。とにかくこのPKは入れなきゃ駄目ですよ』

『キッカーは、あぁ、倒された市井ですね。袖に縫いつけた、矢良選手の背番号を握り締めて精神統一。ボールを置きます』
 

 アップで映し出される市井の動作はまるで祈りのための仕草のようだ。
 ボールに額を押し付けて、それからボールをセットする。

『お前、すげぇナルシストのくせにさ、今の自分嫌いだろ。お前性格悪いんだから、お前自身ですら自分を愛してやれなくなったら終わりじゃねぇのかよ!』

 這い上がれと薫に促したのは市井だけだった。

『薫が薫のこと愛せないほど今のお前って、駄目なんじゃねぇのかよ!』
 

 高い身体能力を潜ませる強靭な二本の足でそこに立ち。


『なんか言い返せよ! 言い返して見せろよ! それが薫だろうが』


 ストライカーの獰猛な目を、死んだセンターバックに向ける。
 なんて無神経。
 なんて考えなし。


『俺にお前の気持ちなんかわかんねぇからな! だけど俺はお前のこと一生手放してやらねぇからな! 俺、馬鹿だし、お前の気持ち量れない。だから、伝えろよ。伝えてよ』


 ぐしゃぐしゃの泣き顔で、そう叫んだ。
 心に響かない言葉の羅列だったはずだった。
 だから駆けつけた市井に、一言帰れとだけ伝えた。
 怒りも悲しみも込められなかった言葉に、市井は悔しそうな呻き声を残して去っていった。
 そして今、ピッチに立っている。
 薫の背番号を握り締め、必死の形相で助走のための数歩を後退する。
 傍らで見つめていた母が、悲痛な声をあげた。
 薫の視線はテレビ画面に釘付けになる。

『さぁ、どこを狙うか』

 スタジアムから音が消える。

 市井の呼吸音が、薫の耳に届いた。

 はっきりと。

 止まる呼吸。

 走り出す足。

 ピッチの感触。

 軸足を止める。

 支える。

 ボールの芯を捕える足。

 自分の内側から湧き出た力が、ボールに吸収され体を離れていく。

 一瞬、ふわりと無重力の中に放り出される体を感じる。

 放たれた自分の力を追う視線。

 行き着く場所を確認する。

 途端胸を刺す痛み。

 それが絶望だ。

『バーに嫌われたー! 市井のシュートはバーに嫌われました! 神戸RC決定的チャンスを逃しました!』

 スタジアムは言葉を話す。
 歓声と溜息と悲鳴の三つの言葉。
 ピッピッ、ピー!

『神戸RC、昇格をかけた一戦で引き分けです。昇格ならず! 神戸RCの昇格はなりませんでした』

 スンと、鼻をすする母が慌てたようにハンカチを探している。
 廊下からは、溜息。

『試合終了のホイッスルが響いた瞬間、その場に崩れ落ちました神戸イレブン。大きな犠牲を出すことになった今シーズンの昇格は叶いませんでした。誰一人として立ち上がることができません。PKを外した市井が顔を覆っています。監督も、一歩も動けません。神戸側スタンドは静まり返っております』
 
 実況の声だけが、響いていた。
 市井が再びアップになる。
 口唇が震え戦慄き、零れそうになった言葉を押し込めるために引き結ばれる。
 歯を食いしばる。
 いつも冷静な男だった監督が座り込む。
 膝をつき、項垂れていた。
 放心しているサポーター達も映される。

 

「……外すなよなぁ……」
 目に入ってくる映像が、心へと流れ込んでくる。
 ぐらぐらする。
 自分の存在が不安定で、落ちてしまいそうだ。
 眩暈と嘔吐感、頭痛。
 オカシクなる。
「薫……」
 バタバタと、シーツが音をたてた。
 頬を伝うソレに気が付いた。
 バタバタと糊のきいた清潔なシーツの上を転がって、やがて吸い込まれていく水滴。
 まるで雨音のように、それはシーツを叩く。
 情けないと思うのに、止められなかった。
 頬を伝い、顎のラインを滑り落ち、胸へと流れ込んでくる涙は熱い。
 体に力が湧いてくる。
 悔しいという感情や、行き場のない怒りが力となって体を駆け巡る。
 筋肉に伝わったそれは、体を痙攣させて痛みを呼び覚ました。
 呻き声が、食い縛った歯の隙間から漏れていく。
 この呻きは選手達が噛み締めているものと同じだ。
 この涙はサポーターの頬を濡らすものと同じだ。
 この痛みは市井が押し殺しているものと同じだ。
 この、叫びは、誰のものだ?

 この感情は、俺のものだ。


 サッカーがしたい。


 ピッチに立ちたい。


 二度と叶わない?


 何故?


 俺が何をした!?


 ただ走りつづけてきただけじゃないか。


 夢を追い、叶えるための一歩一歩を進んできただけだ。


 イチ。
 お前はいいよ。
 お前は、来年だってあるじゃないか。
 俺にはもうないんだ。
 次のチャンスなんて、もう永遠に巡ってこない。
 手を伸ばすことすらできない。

 

 

 もう、サッカーができない。

 足は切り離され、夢は切り離された。

 

 

 なのに、こんなにも。

 サッカーが、好きだ。


目蓋が重い。


 フィルターがかかったように煙る視界は、窓から差し込んでくる西日のオレンジに染まっていた。
 体が水分を欲している。
「……よぉ」
 徐々に覚醒しようとしていた神経が、その声に一気に呼び覚まされた。
「……イチ」
「おぅ」
 ベッドサイドのスツールに、まるで迷子の子どものような様子で所在無く腰掛けている市井が、乾いた声を出す。
「水、飲む?」
 頷いたわけでも返事をしたわけでもないが、市井はコップ一杯の水を用意して折れていない右手に持たせてくれた。
 口をつける。
 一気に飲み干すと、皹が入っている肋骨に響いた。
「サンキュ」
 空になったコップを受け取った市井の目が赤いことに気が付いた。
 多分、自分もそうなんだろうと思った。
 咽が渇いているのではないかと察したのは、寝顔の目元を見られたのもあるのだろうが、きっと母かドクターが試合を見た時の自分の状況を暴露したからだろう。
 

 

 生気のない市井は、俯いてベッドの足下に視線を落としている。
「負けたな」
「……あぁ」
「来年だな」
「……あぁ」
「イチ」
「……悪かったな」
「なにが」
「PK、外した。入れてたら、違ったんだろうけど」
「どうかな」
「大きかったよ。あのチャンスは」
 笑おうとした顔は、そのままぐしゃと崩れた。
「まだ泣けるのかよ。お前は。俺、もう枯れたぞ」
「うるせぇな。悔しいんだよ。すげぇ、悔しい」
「だったら蹴るなよな。お前PK下手くそなのに」
「うるせぇって。蹴りたかったんだよ」
「うん。ありがとう」
 ぼすっと、市井の拳がベッドを打つ。
「ありがとうって、なんだよ。お前っ、切り替え早すぎなんだよ」
「一生切り替わらないよりはずっとマシだと思うぜ?」
「くそっ……、性格、悪っ」
 ガタガタと椅子を引きながら、ベッドに近付き布団に顔を埋めた。
 分かりやすい奴だ。
 

 

 気持ちは不思議なほど晴れ渡っていた。
 気持ちは死んではいなかった。
「俺、足、こんなことになったけど、こんなことにしちまったけどさ。サッカー好きだよ。今日の試合見て、思った。俺、もう二度とプレーヤーとして戻れなくても、サッカーは好きだし関わっていたい。お前のプレーみたいに泥臭くさ、這い上がりたい」
 まるで純愛みたいに。
「サッカーから離れて、普通に生活しててさ、ワールドカップとかチャンピオンシップとかの話題聞いたりしたら、俺絶対に言うと思う。俺、昔Jリーガーだったんだぜって。そんなのなんかやらしいし。なら、フィールドの近くで生きたい」
 

 これから先、胸を焦がす焦燥も苦渋も覚悟だ。
 取り込んでみせる。
 今までの自分を取り込んで、しがみ付いて先に進んでいく。
 負けるものか。
 これは、勝負だ。


「サッカーの近くで、生きたい」
 

 言葉を繋げながら、薫の胸には不安が犇く。
 またいつ砕ける夢とも知れない。
 これからも弱音を吐き出すだろうし、愚痴も口にするだろう。
 僻みも妬みも表に出していくだろう。
 だけどこの情熱だけは、きっと一生消えないだろう。


「俺が叶えられなかった夢はお前が叶えろ。俺は必ず追いついて、お前を支えてやる」
 今交わした約束も、一生消えないだろう。
「だから、お前は俺が追いつくまでピッチに立ってろ」
 顔上げた市井が、この野郎とでも言いたそうな視線を向けてきた。
「勝手な奴」


 最終ラインから前線へと放り込まれるフィード。

 トップスピードでなければ追いつけないロングパス。
 
 走れよ。
 
 そんな風に。
 
 それをミスしたら、セカンドボールを拾うのは薫だった。 
 
 最終ラインの中央から上がって来る。
 
 突如としてリベロに化ける。

 市井のフォローは薫がしてきた。

 ゲームの流れは、薫が変えてきた。


「もう、負けない。逃げないからな」
 差し出したのは拳。
 そこに、市井の涙に濡れた拳がぶつかる。
 骨がぶつかり痛みが生じる。
 這い上がる。
 満身創痍で、かっこ悪い歩みかただっていい。
 つまずいても膝をついても、それでも起き上がる。
 ゴール前に何度も放り込んだパスのように。
 何度枠を外しても、諦めることなく折れることなく突進していたように。
 敗北を重ねてきたこの国のサッカー史のように。
 いつかそれは、ストライカーが生かすパスとなる。
 勝利を呼び込む一点となる。
 いつどの試合で、史上に残る光を得られるともわからない。
 最後まで諦めない。
 何が起こるかわからない。
 何を起こすかわからない。
 それが、今までの薫の人生だった。
 そしてそれはこれからも続くだろう。
 サッカーで得た、熱い魂が胸で燃える限り。

 例えここが絶望の底だとしても。

 必ず。

 

 

 

 

 這い上がってやる!!!!!!!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピッピッ、ピー!

 ホイッスルは、鳴り響いた。
 スタジアムは歓声に包まれた。
 女神は微笑んだ。
 抱き寄せたこの腕の中で。
 大型画面に浮かび上がった文字は『神戸レインボーチャーサー J2優勝、J1昇格』
 白い波がスタジアムで揺れる。
 幾つもの叫びが聞こえてくる。
 色取り取りのテープが飛ぶ。
 打ち振られるフラッグ。
 やがて歓声はコールに変わる。
 ピッチの中で、市井がユニフォームを脱ぎ捨てた。
 その下にまたユニフォームが現れる。

 ナンバー、フォー。


 レギュラーディフェンスに与えられる背番号だった。
 デザインは古く、今はもうないスポンサー名が入っていた。
 プレーヤー名は入っていないが、そのユニフォームを見て古くからチームを見つづけたサポーターの何人かは気が付いた。
 矢良薫のユニフォームだった。


 

 抱き合う選手達。
 監督、スタッフ。
 自然と始まったウィニングランの途中で、市井は足を止めた。
 見開かれた目が、やがて嬉しさを隠した悔しそうな顔になる。
「降りて来いよ」
 歓声に掻き消されそうになる声。
「まだ中間地点だよ」
 馬鹿にしたような笑みを浮かべて、危なっかしい足取りで薫はスタンドを降りていく。
 ゆっくりと階段を降りきって、柵から手を伸ばした。
 固められた拳に、市井の拳がぶつかる。
「来年のJ1から、よろしく」


 なんだってできた。
 大学に入りなおして、矢良薫はスポーツドクターになった。
 義足のスポーツドクターは、サッカーへの情熱を全て勉強に注いでみせた。
 そして、再びその目にフィールドを映す。
 来年は、その足でフィールドに立つのだ。
 数年前は選手としてラインの向こうで神戸の最終ラインを統率していた男が。


「J1昇格、おめでとう」
「J1昇格、おめでとう」
 お前だって、このチームの一部だと市井は言う。
「古い話で悪いんだけど、俺、お前が死ななくてマジでよかったわ」
「古いんだよ」
「お前があの時ほんとうに死んでたら、俺サッカー辞めてたもん。でも今サッカーしてて、すっげぇ幸せっスよ」
 伸ばした手で、市井の頭を思い切り叩いた。
「ファンにちゃんと礼を言えよ。俺はこれから先、相手はいくらでもしてやれる」
 痛がりながらも笑って、市井はユニフォームを脱いだ。
「返すよ」
 汗で濡れたユニフォームを薫は受け取った。
「うっしゃー! 最強タッグの再結成や! いくでいくで〜!」
「カオルー! 今度は優勝や! お前も一緒や! 最高やん!」
 市井の背後から、チームメイトが押し寄せてくる。
「いくぞー、神戸アールシー!」
「おー!」
 たくさんの声が重なる。
 サポーターの声も重なった。
「J1かき回して優勝やぁ!」
「待ってろJ1!」
「でも今日は飲むぞー!」


 蘇ってくる興奮が、素っ気無い自分を装うとした薫の思惑をぶち壊す。
 汗で濡れたユニフォーム。
 サポーターの声。
 そしてこの喜び。


「いいねぇ」


 戻ってきた。

 這い上がった。
 
 次は、J1だ。
 
 待ってろと、神戸の虹追い人達は拳を突き上げる。
 夢を叶えるためのツールだった武器が切り離された数年前。
 切り離すことができなかったのはサッカーへの情熱。
 形を変えた夢を手に入れた。
 再びスタンドを巡る選手達を見送って、薫は空を仰いだ。
 口許がゆるんでしまう。
 わけもなく、笑えてしまう。
 ゾクゾクする。
 だって、


「あぁ、やっべぇなぁ。サッカー、好きだわ」


 こんなにも、サッカーが好きだ。

 

 



にゃんと長らくリンクミスをしていて、幻の話と化していました。
薫先生のお話です。重い話になってしまいました。
タイトルはBUMPの曲から。

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