代表合宿の練習コートの中、スピードに乗って真っ直ぐに突っ込んできた体が、不意に風にあおられた木の葉のような緩やかな動きになった。
ディフェンダーの体が前のめりになり、踏み出した足に体重がかかりきった。
上空へ吹き上げられるかのように見えた英介の体が、再びスピードに乗る。
とん、と蹴り出されたボールと離れた体がディフェンダーをかわし、再びボールと合流する。
フォローにきたセンターバックと向き合う前に、シュート体勢に入った。
そのまま振り抜いてのフィニッシュ。
低い弾道で打ち込まれたボールは、キーパーが横っ飛びで防いだ。
天を仰ぎながら、ペロリと舌を出す。
「うっそ、止めらんねぇ」
抜かれたディフェンダーが悔しそうに首を捻る。
「なんか、ますます緩急の差が激しくなったよな、英介は」
コートの外から夏木が冷静な分析を口にした。
「そう?」
「ブラジルの選手がやるやつがあんじゃん。ジンガ。それともちょい違うか。こう……、車のギアみたい」
「ギア?」
「一速、二速、三速って。お前の場合、一速からいきなりトップ入ったり、トップからいきなり二速に落ちる」
左手でギアをいれるマネをしながら顔はどこか辟易したような、嫌な表情を見せる。
「すっげぇ、むかつくフェイント」
「俺も夏木の力任せのラグビーと勘違いしてんじゃねぇのかこの野郎的なあたりは、むかついてしょうがないよ?」
にっこり微笑んでえげつないことを口にする。
夏木と違って腹が黒いわけではなく悪気がないのが英介だ。
「元が早ぇからこっちは警戒するもんな。それでいきなり失速されても体が折り返せねぇんだよ。アフリカのチームにいるよな、こういうの」
「いるいる。いい練習台だ」
「止めなきゃ意味ねぇじゃん?」
「うるせぇな、止めようとしてんだよ」
「そうだそうだ。守備陣で対英介マニュアル考案中だ」
「楽しみにしてるよ」
「うっしゃ、次、俺が入るよ」
「夏木でも誰でもかかってこいや。俺の今の目標は、あのにっくきアジアの壁の股抜くことだから」
英介が指差すのは、ゴールマウスの中で汗を拭っている池沢明人だった。
一つ年下の彼は、超大型ゴールキーパー。
どうにも相性が悪いのか、蹴ったシュートボールがゴールに入らない。
宣戦布告を受けた池沢は、どうもと頭を掻きながら笑った。
「言っとくけど、アキは俺らとミーティングしてるんだからな」
「アキはアキなの。って言うかアキ、育ちすぎ」
「いや、そう言われましても」
一つ年下ということもあり池沢は低姿勢だ。
「よぉし、もういっちょいくか」
「今度こそ止めてやる」
「今度こそ入れてやる」
「また止めさせていただきます」
切磋琢磨。
高めあい落しあい。
僕等は頭上に輝く冠を欲しがって。
走り、跳び、戦い、笑う。
2004/2/7
04年初の代表戦前夜にこんなのをアップ。キャンプレポートとか新聞やニュースで見たり聞いたりしてると、いいなぁと思って。
これからです。はじまります。フルもヤングもはじまります。落せない試合の続く04年。飛躍を。