雑巾を絞るみたいに、誰かが私の胃を力いっぱい捻っている。
そんな錯覚を抱えた友里を取り囲む熱狂は遠く、ナイトゲームの一部始終を照らし出す照明は明るすぎて世界が白くかすんで見える。
「友里」
優しい声に、違う世界に飛んでいた意識が呼び戻された。
上の兄が心配そうな視線を向けてくるのに微笑んでみせる。
「ドキドキするね」
鼓動が早い。
運動したわけでもないのに、自分の心臓がドクドクと脈打っているのがわかる。
プロのサッカー選手になった下の兄の試合を観戦するのは初めてではない。
ホームスタジアムで、レギュラーとして出場する彼の試合を観るのが初めてなのだ。
幾つかの横断幕が掲げられている。
兄の名前があった。
まばゆい白と華やかな虹色に染まるスタンドの中には、兄の名前と背番号の入ったユニホームを着たサポーターが大勢いる。
小さな男の子が、売店で母親にそのユニホームを強請っている場面も目撃した。
その光景を何度も見てきただろう上の兄は、そうだなと静かに同意して肩にかけていたタオルマフラーを手に握らせた。
スタジアムDJが選手入場を告げる。
スタジアムの熱気が更に高まる。
ファンファーレ。
選手の列がピッチに向かう。
見慣れているのに懐かしい背中が続き、正面を向いた。
列の中でも頭一つ下がる、小柄な体。
彼の名があちらこちらからコールされる。
願うように、信じるように、誇るように。
「勲ちゃん」
「ん?」
「かっこいいね。えっちゃん、すごくかっこいい」
「友里は可愛いなぁ」
掲げていたタオルで、上の兄が頬を拭ってくれた。
ピッチに立つ下の兄が、一瞬、こちらを向いて笑った気がした。
緊張から生まれたドキドキが、興奮へとシフトする。
アナタがくれる五分前の高揚を、私は声へと生まれかわらせる。
それがアナタの力になる。
送るエール。
届け君へ。
エール、と言う単語がいい、と思う。叫ぶ形に似ているので。