腹、背中、脚。
そのへんの筋肉を鍛えることには積極的なのに、この友人は表情筋を動かすことは億劫らしい。
ゲラゲラと大口を開けて笑うこともなければ、彼を屋上へ呼び出した女子のために目を細めてやることもできないらしい。
決してノリがいいわけではない
けれど賑やかな男子高校生の輪に寄り添っているのは嫌いではならいらしい。
無口無愛想とっつきにくいが、不思議と高山浩二を嫌う奴は少ない。
ひっそりと生きることを好んでいるような高山が、この国の十七歳以下を代表してサッカーをするようになっても鼻は高くもならず、向けられるたくさんの視線を上手く避けて口を閉ざし続けていた。
その硬そうな口で、男子の憧れの的である女性教諭を愉しませているのか、遊んでもらっているのか。
硬派な印象を抱かせるくせに、時々妙に生々しい噂を纏ってくる。
硬いようで、変なところが緩い。
そんな友人の鋭い形の双眸は、じっと一点に注がれている。
真面目に見るのもアホ臭いB級映画を好む者同士、こうしてテレビを一緒に見ることはあるが、今の高山にはリラックスした様子もない。
「面白いか?」
「ん」
ソファーに背を預け、立てた膝に肘をつき頬杖ついて、動かない。
黙っていると自然と取っ付きにくい雰囲気を醸す男が、実はただぼんやりしているということを知っている。
それが今は、じっと、射るような眼差しをテレビに向けている。
画面は緑。
その中に緑色と黒色のユニホームが散らばっている。
「どっちが勝ちそう?」
「さぁ」
冬の名物、高校サッカーの全国大会決勝。
多くのサッカー少年が憧れる、国立と言う略称を持ったスタジアムは盛り上がっていた。
その盛り上がりを別次元から眺めるように、高山はピクリともせず、声も上げず、ただ見ている。
我が校のサッカー部は、シルバーコレクターと皮肉られる。
県大会で六年連続準優勝。
国立への切符はいつだって目の前でソールドアウト。
OBなどはもう開き直ったもので、自分達の可愛い後輩が今年も漏れなく準優勝を収めたことに記録更新だと喜んでいた。
高校生活最後の年、三つ目のシルバーメダルを首に下げた高山は表彰式が終わったグランドで空を仰いでいた。
普段、淡々として日々を過ごしているから、スポーツの勝敗にもあっさりしているのかと思ったが、そうではなかったらしい。
三年間溜めた悔しさを吐き出すように、高山は首に下げたメダルを閉会式の途中で静かに引きちぎった。
負けず嫌いでなければ、アスリートにはなれない。
辿り着くことのできなかった舞台を見つめる友人の顔は無表情だった。
真剣ではあるが、そこに悔しさも羨望もない。
高山は、かつて憧れて目指して欲しがった舞台を踏み台にしようとしている。
決勝の舞台で走り飛び競う同年代の連中のプレーを盗み超えていく。
欲深い。
欲を満たすための手段を考える顔は真剣。
試合が終わる。
国立にまた感動的なドラマが誕生する。
「面白かったか?」
黙殺した90分とちょっとの穴埋めをするかのように、振り返った高山が尋ねてきた。
「面白かったよ。PK決着とか、泣かせるじゃない?」
思ったことを口にすれば、高山が笑って見せた。
「全然、面白くねぇよ」
あぁ、この男はこういう笑い方もできるのかと、高校生活の終盤になって知る。
「俺がやれば、もっと面白いサッカーになってた」
伸ばした手が、何かを求めるようだった。
走りたいから帰るわと、この後DVDを見る約束だったのをあっさり破って高山は帰途についた。
急かされるように消えた背中を見送り、笑いが溢れる。
高校生活もあと少し。
その時になって、お前の抱える飢えを見れて良かったよ。
安心したよ。
大人気ないままのしあがっていけ。
2009/11/1
情熱を表に出さない男は策士なのか億劫なのか。