大人の男の人が泣くのを初めて見た。
地面に膝をついて、手もついて、泣いている。
声を上げて泣いている。
緑色のふかふかする芝生に、パタパタと滴が落ちて吸い込まれていく。
私を囲む大勢の人たち。
学校の朝礼でもこんなに大勢の人は集まらない。
パパの仕事場には、いつもたくさんの数え切れない人が集まって、大きな声を出している。
頑張れって、歌ったり、拍手したり、踊ったりする。
その中でパパはサッカーをする。
サッカーは面白い。
ゴールが入ったらみんなとても喜ぶし、試合に負けたらつまらない。
サッカーは面白いし、パパはとてもカッコいいし、パパと一緒に仕事をする人たちはみんな私に優しい。
パパの仕事が好き。
サッカーが好き。
だけど今は怖い。
だってみんな泣いている。
とても悲しそう。
とても痛そう。
いつもにぎやかな白色の応援団も、みんな泣いている。
でも、反対側の応援団はとても嬉しそう。
選手も、みんな喜んでいる。
勝ったから、嬉しいんだ。
だけどパパ達は、負けたから泣いているの?
時々はパパのチームも負けるけど、みんな泣いていないのに。
「パパ、負けちゃった。あとちょっとだったのにね」
ママも悲しそう。
どうしよう、とても怖い。
だってあんなに強いパパが泣いている。
あんなに元気なパパの仲間の人が泣いている。
どうしたらいいんだろう。
これは、とても怖いことなんだろうか。
「ママー」
怖くてママにしがみつくと、ママは私の背中を抱いてくれた。
「大丈夫よ。パパは今は泣いてるけど、元気になったら前よりももっともっとサッカー上手になるんだから。だからお家にもどったら、光子はおつかれさまーって笑ってあげるのよ? そしたらパパは元気になれるんだから」
そうなの?
そうなら、パパにおつかれさまって言うよ。
負けるのはつまらないから、今度は勝ってねって言う。
パパはコートの中で地面を何度も叩いている。
その姿すら、かっこいいと思えるようになったのは高校を卒業する頃になってから。
パパはスパイクを脱いでいて、敗戦に涙するパパの姿はDVDの中におさまった。
「パパさー、サッカーしてる時はかっこいいけど、インタビューの時のこの服はないんじゃないのー? 製作者側もこういうところちゃんとつめてくれなきゃ、台無しじゃない」
「光子、お前、この試合の後にパパ大丈夫だよ今度は勝てるよって泣きながらパパのこと慰めてくれたの忘れちゃったか……?」
「ほらー、私が可愛かったからパパの思い出は綺麗なまんまでしょ? パパもさー、こんなだっさい服着てるとファンの思い出が綺麗なまんまにならないじゃない。イチはサッカーのセンスはあるのにファッションセンスは無いんだよな、あれはどうにかして欲しいよなって言われちゃってるんだよ、今頃」
「いや、お前が可愛いのは今も昔も変わらないけど、パパへの扱いちょっと変わってきてない?」
「今度の代表戦の解説するんでしょ? どの服着ていこうと思ってるの? ちゃんと私に見せて!」
「……はい。ほんと、光子は俺の最強サポーターだ」
20120/5/26
久々にBSシリーズ更新してみました。お題が中途半端で止まっていたので、ストック放出!