サポーター達への10のお題
10:歓喜の瞬間

 

列が選手溜まりから前進する。
階段を上がると、視界が開ける。
夜の闇をこの場から遠ざけるための照明と、今日のために整えられた美しい天然芝、そして空気を振るわせる歌声。
襟足に寒気のようなものを感じる。
呼吸が乱れた。
スタジアムの半分は白く塗りつぶされ、そこに虹色のグラデーションで虹を掴めと指令が下る。
今季、観客動員数ナンバーワン。
怖いなぁ。
英介は唇が笑みの形を作るのを抑えられずに思う。
怖い怖い。
このプレッシャーったらないよ。

以前、高山に付き合って観た映画を思い出す。
古代ローマの剣闘士の話だ。
スタジアムはあのコロッセウムに似ている。
違うのは、集う人たちの心持ち。
彼らにとってこれから行われるゲームは、娯楽などではなく我が事なのだ。
勝てば王者の誇り一年分。
負ければ生涯疼くであろう屈辱を。

天秤を託されている。
片方には絶望が。
片方には歓喜が。
ゆらゆら揺れるそれを傾けるのは自分達の頑張りだ。
怖い、けれど頼もしい。
自分のサッカーが彼らを興奮させるのか。
彼らの興奮が自分にサッカーをさせるのか。
何が原因で何が作用しているのかわからなくなる。
それほどに自分と彼らは一つなのだ。
照明を跳ね返し輝く白に鮮やかな虹色。
英介は整列しながら横目でゴール裏を見る。
融けて流れて夜を覆え。
歓喜で震えた心身は夜を打ち負かして眠りをかき消す。

もしかしたら震えは悔しさ故のものになり、最悪の夜になるかもしれない。
何色の一夜になるかは誰にもわからない。
だからボールは転がるのだ。


2010/7/10更新
2010南ア大会の日本活躍中にでもアップすればよかった……と思いながら。
選手入場のファンファーレは何度聴いてもいいよね!興奮をコントロールしながらの儀式だ。

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