※注意!!
死んだはずの人がでてきて、ありえない会話が成立しています。
原作に忠実なパロがお好みの方はご注意ください。



2000hitT
君のことを好きな僕はだーれだ?




 自慢のフェラーリでドライブ中に叶が、途方に暮れたような顔をして路肩に座り込む子猫を拾ってしまったのは、水平線に夕陽が沈みかけている時間のこと。
赤い車体とエンジン音に気付いた子猫が、顔を上げて慌てたように立ち上がった。
 路肩にフェラーリを停めて声をかける。
「よう、坂井。家出か?」
 苦い顔を上げた坂井は、違いますと反論してくる。
「じゃあ、こんなところで何してる? そんな無防備な面してると悪い野郎に拉致されちまうぞ」
「無防備でなんかいやしませんよ。バイクがパンクしちまって弱ってただけです」
 憮然として言い返す。
 なるほど、路肩に停めてあるバイクの前輪はへこんでしまっている。
「電話でもすりゃいいだろうが。飛んでくるぜ」
 誰が、とは言わない。
 坂井が顔をしかめた。
「電話、置いてきちまったもんで」
「そりゃ、災難だ。乗るか? 送ってやるぜ?」
 叶が申し出ると、坂井は少し考えてからおねがいしますと言って、フェラーリに乗り込んだ。
 明らかに不機嫌な横顔。
 店では嫌味なくらいの無表情で、叶がどんなにからかってもあまり表情を変えないくせに、一歩店を出ると驚くくらい多彩な表情を見せる。
 本人に自覚はないのだろうが。
「喧嘩したのか?」
 シガリロを銜えると、条件反射のように火を差し出してくる。
 叶も当然のようにその火をもらって、深く煙を吸い込んだ。
「坂井?」
 返事を促すと、そっぽを向いた。
 まるで子供のような反応に、叶はくつくつと押さえようともしない笑いを零す。
「そんな可愛い反応されたら、またキスしたくなっちまうぜ?」
 思わず先日の忘年会でのゲームを思い出してしまい、口にするとぎょっとした顔で警戒心を剥き出しにしてくる。
 突然王様ゲームで指名された坂井は、不本意ながらも叶とキスをしてしまった。
 あれから、なんとなくこの殺し屋を避けていたのだが……
「冗談だ。そう怯えてくれるな」
「怯えてなんかいません」
 ムキになって言い返す坂井の反応に、また笑う。
 坂井は憮然として、視線を窓の外に投げ出した。
 耳には叶の笑い声。
「なんか、今日はやけに絡みますね。宇野さんと喧嘩でもされたんですか?」
 そっぽを向いたまま、坂井の反撃。
 叶の方眉がひょいと上下した。
「喧嘩なんて可愛いものじゃないけどな。あんまりにも素っ気がないんで、距離を置いてみることにした」
 そのへんの事情を、さらりと流せるあたりが大人なのかもしれない。
「お前も、あんまり意固地になってたら離れられちまうぜ?」
 ひょいと手が伸びてきて、坂井の髪の毛をくしゃりと乱していく。
 坂井はむずがって、その手を払う。
「離れてもらった方がありがたいです」
「素直じゃないなぁ。気になって仕方がないくせに。好きなんだろう? 下村のことが」
 叶の言動は、どこか下村のものに似ている。
 時に過剰なデコレーションを施したかと思えば、あからさまなほどストレートでもある。
 坂井が返事をできないような質問を、平気で投げ掛けてくる。
「たまにゃ、甘えてやれよ」
「いやに、下村の肩を持ちますね」
「素直じゃない恋人を持つ者同士なんでね。気持ちは痛いほどよくわかる。今度、飲みに誘おうかと思ってるんだけど、了承してくれるか?」
「……勝手に連れて行ってください」
 疲れたとばかりに、肩を落として溜息を吐き出す。
 そんな坂井を、叶は面白そうに眺めていた。


 送り先はブラディ・ドールでいいと言う坂井を、店の前で降ろした。
 まだ開店までには時間が随分ある。
「新しい酒作ってみたいんで」
 アパートに帰れば下村がいるから。
 そんなことは言えない口。
「ナルホド。そりゃ、楽しみにしてるよ。できたら、飲ませてくれ」
 眼だけで返事をした坂井が踵を返す前に、叶が呼び止め来い来いと手招きする。
 唇に浮かんだ不敵な笑みに警戒しつつ、坂井は運転席の方へ回る。
「なんですか?」
 不自然な距離を気にするようでもなく、叶はにぃっと口角を吊り上げた。
「素直になれない坂井くんに、いいこと教えてやるよ」
「いいコト?」
 不審がる坂井に、叶は片目を閉じて見せた。
 絵になるから憎らしい。
 辟易した顔の弁護士の顔が眼に浮かぶ。
「恋人を喜ばせる、魔法の呪文さ」


 ブラディ・ドールの夜は、いつもと同じように更けていった。
 下村は出勤してくるなり坂井にごめんと謝ってきたが坂井が何か言う前に、高岸が姿を見せてその場は有耶無耶になってしまった。
 途中叶がやってきて、坂井に意味ありげな視線を寄越した。
 フロアマネージャーが立つ位置に背を向けているカウンター席からの視線は、幸いにも下村には見られなかったが。
 坂井は、先刻のフェラーリの車内とはうってかわった無表情を装う。
 叶は普段通りに、ジン・トニックを飲み干して席を立った。
 その直後、坂井は下村に視線を投げた。
 受けた下村がちょっと眼を見開く。
 すぐに反らされた視線が、心もとなく見えてしまったからだ。
 まるで、捨てられた子猫のような眼。
 プライベートでは極々稀に見る眼だが、店で見たのは初めてだ。
 思わず呆けた下村の脇腹に、軽いパンチが入る。
「ぼーっとしてるなよ。下村」
 藤木の注意に、はっとして下村は店内に注意を向ける。
「すみません」
「若いな」
 揶揄するような羨望するような藤木の呟きを耳に入れつつ、下村は心の中で苦笑した。


 閉店後のブラディ・ドールで片付けをしていると、藤木が今日は社長と飲むから先に帰れと言ってきた。
 邪魔者はさっさと帰るかと、下村が坂井に視線を寄越す。
「バイクは?」
「……修理屋」
「じゃ、帰ろうぜ」
 当然のように下村が促すと、坂井はこくりと頷いた。
 何か言いたそうな表情。
 店を出て、車に乗り込んでから切り出した。
「まだ、怒ってるか?」
 助手席の坂井に問うと、ふるふると首を横に振る。
 では、何が原因だ?
 坂井が今にも襲ってくれと言わんばかりの眼をしているのは。
 何か言い出したくて、でも言いにくくて困り果てている表情をしているのは。
「坂井?」
「……なぁ、下村」
 意を決したとは言い難い調子で坂井が口を開いた。
「ん?」
 促すと、困惑は深くなる。
 あまりに渋々と言った口調だが、坂井は続けた。
「問題です」
「?」
「お前のことを好きな俺はだーれだ?」
 時間が止まったというのはこう言う時のことを言うのかと、下村は体感した。
 一瞬頭が真っ白になったかと思った。
 それから、様々な考えが浮かんでは消えた。
 結論→これは、ひょっとして、誘われてる!?
「簡単すぎるぜ。坂井」
「は?」
「そんなの、俺の目の前の天使様に決まってるじゃねぇーかっ」
 がばぁっと、下村が坂井に襲い掛かる。
 襲い掛かられた坂井はと言えば、叶が去り際に「魔法の呪文」と称し、言ってみと言われて試しただけのこと。
『さりげなーい、告白さ。それとはわからないから、照れずに言えるだろう?』
 ……さり気無いはずの告白に、何故こうも過激な反応が返ってくるのだ。
 言った本人は納得してないが、言われた下村は意気揚揚。
 尾と耳の幻影が見えそうな勢いで、坂井にじゃれてくる。
 嬉しげに口付けられた坂井は、釈然としない思いを抱えつつも、「ま、いっか」と下村の首に腕を回した。
 嫌いじゃないし。
 そんな言葉は、胸の中で吐き出した。


「キドニー」
 合鍵を渡したつもりはないのだが、何故か当然のような顔をして不法侵入してくる不逞の輩を、宇野は完全に無視した。
「宇野センセー」
 昼間、坂井には距離を置くと言ったものの、実際に置いた時間は半日程度。
 坂井と下村に中てられた。
「なぁ、キドニー」
 しつこく呼ぶと、宇野は不機嫌極まりない顔をやっと向けてくれた。
 どうせ、まともに呼び鈴を鳴らしたのでは会ってくれないと踏んだから、不法侵入に踏み切ったのだが、今日はどうやらまずい選択だったらしい。
 昼間、公判の資料整理をしていたところを散々邪魔したのだ。
 当然と言えば、当然の対応。
「悪かった。すぐに帰る。けど、これだけ答えてくれよ」
 しおらしい言葉に情状酌量の余地を認めたのか、眉間に皺を刻んだまま言ってみろと言われる。
「お前を愛して病まない俺は誰でしょう?」
「知らん。さぁ、帰れ」
 即答。
 コンマ数秒の間もなし。
 判決→即刻帰宅。
 ぴしりと細い指で示されたドアに向かって、叶はすごすごと足を運んだのだった。


名告白、「君のことを好きな僕はだーれだ」の使用上の注意
自分の立場をわきまえて使用しましょう。
受・攻で、表れる効果は異なりますのでご注意ください。



正しい使用例

「さっき、叶に面白い話を聞いたんだ」
 川中の無邪気な声を無言の相槌で促すと、白い歯が覗いた。
「お前のことを好きな俺は誰でしょう」
 一瞬、返事に窮した藤木だが、柔らかい笑みを浮かべると、シェイクしたドライ・マティニィを差し出した。
「この酒を、美味そうに飲んでくれる川中良一氏です」
 答えと酒に満足した川中は、くっとカクテルグラスを傾けた。


2001/01/18
2000HITは月子様からのリクエストで「叶さんの手のひらの上の坂井」でした。
下村・宇野さんが一緒でもOKで、下坂・叶キドでもOKと言う、ありがたいお言葉に大いに甘えさせていただきました(笑)
「君のことが好きな僕はだーれだ?」と言うのは、某アーティストのメンバーが某ラジオに登場していた時の会話です。
きっと、ご存知の方も多いはず。 使わさせていただきました(笑)
リクエストに答えられているかが、不安です。
「叶さんの手の平の上の坂井」で、更に「宇野さんの手の平の上の叶さん」という気がしないこともないですが(笑)
しかも、書かんでよいのに藤木さんと社長まで……(爆)誰が哀れって、叶さんだし……(T_T)

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