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Pool



 透明すぎる空気を纏っていた。
 自分のことを棚に上げて、お前死ぬんじゃねぇぞと言ってやりたくなった。
 人間を水場に例えてみる。
 川中という男はどうだろう。
 海のようでもあり、時に出口のない悲しみを湛えた湖にも思える。
 坂井は海だと思った。
 一刻毎に色を変えていく海。
 お前は、塩素の入ったプールだ。
 澄みきって底すら綺麗に見て取れるけれど、ユラユラとした光を反射して捕えどころがない。
 そう言うと、そうかなと自覚がないと首を傾げて見せた。

一夏の……

 そう言えば、透明すぎる笑みで応えた。


 レナの中は空調がきいていて、外の照りつけるような太陽の生命力も届かない。
 採光のいい店内に光は届く。
 下村と西尾はその光を避けて、店のカウンターに座っていた。
 夏のレナは海水浴客の足もあり、他の季節に比べれば客入りはいいほうだ。
 菜摘もこの時期は忙しく立ち回っている。
 気を遣わせないようにカウンター席の一番端に。
 別にこれと言った用事があるわけではなかった。
 下村が西尾に興味を持ち、西尾が下村に興味を持ったから、少し話さないかという誘いをどちらからともなくして、どちらからともなく受けた。


 会話は少ない。
 ポツリポツリと当り障りのない話をする。
 知的さを感じさせる下村の言葉は嫌味にもならず、付き合うのに苦痛の生じない男だ。
 坂井とは正反対に思えるが、この街に来てから日が浅い西尾にでも坂井と下村が気を許しあっているのだとわかった。
 坂井のことを語る下村の口調には、まるで坂井は自分のものだと言うような響きがあった。
 決して横柄ではなく。 
 確かめるように。
 その時にだけ、人間味が濃く滲む。

 会話が途切れ、下村の視線が店内の降り注ぐ陽光に投じられた。
 太陽に雲がかかったのか、光がゆっくりと絞られていく。

 自分の目に、鮮やかに映るものがある。

 セピアやモノクロや迷彩に霞んで滲む世界の中で、時々はっとするほど鮮やかに目に飛び込んで魅了していく存在がある。

 その存在があるから、世界の色がきちんと見れる。

 下村にも西尾にも、そんな存在がいる。

 ふとした瞬間に自分の存在すら忘れてしまうような自分たちが、たった一人の人間が生きているそのことで色付く。

 自分がひどく弱くなってしまっていることへの実感。

 ほんの少しの苛立ちを混ぜた愛しさが、体の奥で渦巻く感触が好きだ。


「西尾」
 不意に下村が静かに呼んだ。
 坂井の存在があるからこそ、西尾の姿を認める視線に見つめられる。
「こんなこと、俺が言うのは筋違いなのかもしれないけどな。死ぬなよ」
 差し込む光が、また強くなった。
「どうして、俺に?」
 このまま世界が飲み込まれそうなほどの光が差し込んでくる。
 氾濫する光の中で、下村が笑った。
「似てるから」
 ゆっくりと陽光がおちついていく。
「俺と、お前が?」
「似てるだろ? だから、死ぬなよ」
 いろんな含みのあるセリフに、特定の意味を求めるのもどうかと思って西尾は沈黙して、カップに口をつけた。


 死ぬなよと言う下村の言葉に返事をしていなかったことに気が付いたのは、その言葉を裏切ろうとしているまさにその瞬間だった。
 ユラユラと、水面が光を反射して光を氾濫させている。
 塩素の入った四角いプール。
 夏の間にだけ、綺麗な水を湛えて存在する。
 プールサイドに漂う塩素の匂いの混じった夏の匂い。
 夏にだけ嗅ぐあの匂い。
 秋が来れば消えてしまうことがわかっているから、その匂いを感じると切なくなる。
 消えることがわかっているのに、好きだなんて悲しいだけなのに。
 

 夏の間だけの………………


2001/08/14
あきさん、ごめんなさい!私、西尾先生が書ききれないです!
透明なイメージの人で、それは下村と共通するんですが、ぬー!!曖昧で何が言いたいのかわかんないSSになってしまいました(>_<)
綺麗に浄化されてるプールとかイメージしてんですが、それもうまくいかず……あう(TT)記念すべき20000HITを踏んでくださったのに、恩を仇で返してます。ホント、ごめんなさい!見捨てないで―――!!(かなり必死)

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