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I can't Understand




 隣で眠る野郎の体温は、電気代のいらない暖房器具。

 夏にはすることをした後は、暑いからと言って容赦なくベッドから突き落としてやるのだが、冬になると坂井の態度は一転する。
 寒がりの坂井が、この季節になると自分を寛容に受け入れる理由を心得ていても、下村は抱き枕に甘んじて枕を並べる。
 だから坂井が夜更けに目を覚ました時に、下村の顔が目前にあったとしても何の不思議もない。
 すやすやと、気持ちよさそうに眠る男の顔は穏やかで、こうして目を閉じて無防備なままでいれば、勤め人に見えないこともないのかもしれない。

『ブラディ・メアリ』
 最初に聞いた声は、オーダーの声だった。
 血色のカクテルをオーダーする男の、眼。
 あぁ、また何か騒動を持ってきやがった。
 そう、思った。
 宇野が言ったように、昔の俺のようだと。
 また、誰かが死んでいくような、そんな胸糞の悪い予感をこの男から感じたのだ。
 川中に近付いて、妙な動きを見せるこの街への流れ者。
 すぐに死んでしまうか、また流れるかだと思っていた。
 それなら、距離を詰めることなく逝かせるなり行かせるなりすればいい。

 なのに、この様だ。
 逃げられた女を追いかけて来たはずじゃなかったのか。
 その女は、他の男と死んじまったけど。

 なんで、俺なんだ。
 だんだんと覚醒していく体の感覚は鈍く、気だるさが芯に残っている。
 戸惑っている。
 まだ、下村の存在に戸惑っているのかもしれない。
 隣にいる、この男に翻弄され続けている。
 理解不可能。
 何が楽しくて、男の自分に手を出したのか。
 全くもって、不可解。

「坂井?」
 不意に呼ばれる。
「起きたのか」
「起きてた」
 密着した胸元から僅かな振動が伝わる。
 笑っていやがる。
「見惚れられてるのかと思った」
「馬鹿じゃねぇの?」
 背中を抱く腕に力がこめられる。
 この、わけのわからない安堵も不可解。
「穴でも開けられるんじゃないかと思ったぜ」
「言ってろよ。ばぁか」
 これだから、理解不可能。
 坂井の常識の範疇を越えている。
「何、考えてた?」
 坂井の体温を移して人肌程度に温まった義手が、背筋を辿る。 
 柔らかく髪を梳くのは、生身の右手。
 こんな仕草にほだされる自分自身も、理解不可能。
「ブラディ・ドールにやって来て一番最初に、ブラディ・メアリをオーダーした妙な客がいたってことだよ」
 僅かな抵抗。
 そのちぐはぐの両手に封じ込まれるのは、わかっているけれど。
「俺も、お前の熱烈な視線を感じながら、気に食わない客には慇懃無礼な言葉遣いになるバーテンダーのことを思い出してた」
 このままだと、本当に溺れてしまいそうで。
 下村にそんなことを言えば、もう溺れてるだろう? と、自覚したくもない事実を突きつけられそうで。
「離れろよ」
 なんとなく、怖いのだ。
「いやだね」
 この男のペースに飲まれて、
「寒いだろう?」
 この男を愛してしまいそうな自分が。
「寒いけど」
 きっと、下村は、
「だったら、暖まろうぜ」
 いい加減に認めちまえと、笑うのだろうけど。
「下村」
 でも、何より理解できないのは、
「ん?」
 不可解なのは、
「寒い」
 その背中に手を回す、この自分の心の内。
「すぐに、熱くしてやるよ」
 何故だろう。
 ささやかなこの抵抗を
 罵声を
 お前が、押さえ込んで笑って
 求められるのを待ってしまうのは
 ある日突然やってきた、奇妙な男を受け入れているのは

そこにあるのは、「ボクは、ボクがキミを好きだと言うコトを知らない」と言う、婉曲された自覚。


2000/12/20
ユキナ様からのリクエストは、「坂井の下村への初対面の印象を含んだ話(甘め)」でした。
多分………リクエストには答えられていると………思います(自信なさ気)しっかし、うちの坂井は下村に惚れすぎ(笑)下村が坂井に惚れてるのは、当然(何時の間に!?)なんだけど、坂井がここまで下村に惚れてるのは………だいたい、下村のしぶとさ(下手したらストーカーチック)やら、ダメダメ人間ぶりに坂井が折れるのがセオリー(!?)だと思うんですが、うちの坂井は自発的にシモムに惚れてます(笑&哀)こんな下坂、いかがですか?(実に今更)

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