※注意!!
死んだはずの人がでてきて、ありえない会話が成立しています。
原作に忠実なパロがお好みの方はご注意ください。



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どうやったら君は手に入るだろう



「叶さん」
 決して機嫌がいいとは言えない声が叶を呼び止めた。
 白い手袋がまず眼に入る。
 それから、いつもは感情の読み取れない顔にタキシード。
「どうした、下村? なんか用か? 坂井が部屋で待ってますって言う伝言なら喜んで聞くぞ。妙なちょっかい出すなって忠告ならいらん」
「残念ですが、後者です。フェラーリを餌に坂井を開店ぎりぎりまで連れまわるのやめてもらいたいんですけど」
「この店は従業員のデートにまで制限をいれるのか?」
「デートなら放っておきますがね、従業員の拉致は放っておけませんから」
「拉致って、人を悪人みたいに言うな。坂井も喜んで車に乗ってくるじゃないか」
「餌が有効ですからね。だいたい悪人じゃないって思ってるんですか?」
「悔しいんだろう? 下村」
 トントンと進んでいた会話がそこで途絶えた。
 下村が無言で叶を見る。
 一般人ならわけもなく謝って泣き出してしまいそうに冷え切った視線だが、相手は殺し屋。
 ふふんと鼻で一笑。
 それでもフロマネは涼しい顔を崩さない。
 ただし、胸の中は煮え繰り返っているだろうが。
「坂井にもよく注意しておきますよ。幹部が遅刻したんじゃ、他の従業員にしめしがつかないから」
 叶の眉が上下した。
 無表情なフロマネにシニカルな、あまり人好きするとは思えない笑みがちらりと浮かぶ。
「今日、飲もうって話してるんですよ。うちで」
「……ほう。そりゃ、フロマネとバーテンがいいコンビしてりゃ、川中も安心だもんな」
「どこかの誰かさんは安心できないみたいですけどね」
 再び沈黙。
 しかもずっしりと重い。
「しもむらさーん」
 そこにかるーい声が飛び込んできた。
 危うい間を置いて下村が振り返る。
「なんだ、高岸」
「あ、こんなトコにいたんすか。坂井さんが、そろそろ店閉めようって」
「あぁ、そうだな。じゃあ、叶さん。おやすみなさい。いい夢を」
 勝者の笑みを最後に、下村は意気揚揚と店の中に姿を消した。
「また、いらしてください」
 高岸の邪気のない笑顔に手を上げて答えてから、彼にしては珍しいほど乱暴に赤いフェラーリを発進させたのだった。


 坂井はどうもあのフロアマネージャーに気を許しすぎている。
 まぁ、歳も近いし同僚だしで気兼ねしないのかもしれないが、それにしても面白くない。
 あいつは自分がどんなに可愛いか自覚がないから、余計に悪い。
 更に気を許しているフロマネも坂井を狙っているとなれば放っておけない。
 下村は口がうまいし坂井の扱い方を心得ている。
 厄介。
 自分に牽制もしっかりとかけてくる。
 非常に厄介。


 坂井はどうもあの殺し屋に気を許しすぎている。
 まぁ、憧れの念を抱いているのが大きいのだろうが、それにしても面白くない。
 あいつは自分がどんなに色っぽいか自覚がないから、余計に悪い。
 殺し屋も虎視眈々と坂井を狙っているとなれば放っておけない。
 叶さんは金もあるだろうし、フェラーリは大きい。
 厄介。
 牽制どころか横から掻っ攫っていく。
 非常に厄介。


そんな男達の熱い想いを坂井がまったく感じ取っていない所にも大きな問題はあるのだが。


 その日も坂井は叶に誘われてフェラーリでドライブに行ったらしい。
 下村の忠告を聞いてか、開店準備には余裕で間に合う時間にフェラーリの轟音が店の駐車場に響いた。
「じゃあな、坂井、また後で」
 さり気なさを装い、坂井の髪の毛に触れる。
 迎えに出てきた下村の背負う空気が変化する。
 それを視界の端にとめた叶はこれみよがしに、極々自然な仕草で坂井の額に口付けた。
「叶さん!!」
 たまらず下村が抗議の声をあげて、駆け寄り坂井を奪回する。
「何してるんですか!?」
「何って、しばしのお別れのキスだよ」
「何、下村、怒ってんだよ?」
 きょとんとして尋ねられた坂井の言葉には下村だけでなく、叶も少々驚いた。
 てっきり本当に嫌がられるか、照れるかだと思っていたのに、坂井は当然のような顔をしている。
「何って……お前っ、キスされたんだぞ!?」
「それぐらいわかってる。だって、いつも秋山さんとかにされるし」
 ……………………はい?
「秋山!?」
「秋山さん!?」
「そう、秋山さん」
「「なんで!?」」
 血相を変える二人に多少押されたように、坂井は後退する。
「なんでって……挨拶って……」
「「どこに!?」」
「……どこって……えっと……頬とか髪とか……いろいろ」
 二人の表情をうかがうようになった坂井の声は小さくなる。
「ずるい……」
 ぼそりと低い声で呟いたのは下村だった。
「さっき叶さんもしたのに……秋山さんもしたのに、俺がしてないのは不公平じゃないか。坂井、させろ」
 暗い顔でぽそりぽそりと呟いていたかと思うと、坂井を見据える。
「はぁ!?」
「させろよ、キス」
「何言ってんだ!」
「そうだぞ、下村」
「叶さんはしたじゃないですか」
「そりゃ、気持ちの差だろう」
「挨拶って坂井は言ってるでしょう?」
 普段はクールな二人のやり取りに、坂井はわけがわからず間に挟まれている。
 自分が原因のような気もするが、イマイチ掴みきれない。
「だいたいねぇ、叶さんはフェラーリ餌にして卑怯ですよ」
「卑怯とはなんだ。フェラーリなしでも充分、誘えるさ」
「どうだか」
「お前もなぁ、同僚って立場利用して下心抱いて近付くのやめろよ」
「下心なんて言ったら、あんたの方がよっぽど危ないじゃないですか」
「よく言うぜ、誰よりも欲求に素直な奴が」
「坂井に関しちゃ、自分のことは差し置いてでも大切にできますけどね」
「そりゃ、お互い様だ」
 バチバチと火花を散らす男二人の間から、そろりと体をずらした坂井は何だかよくわからないままに、店の準備があるしと店内に引っ込んだ。
 そろそろ川中も顔を出す時間だ。
 駐車場では、掃除をしようとして外に出た高岸がそこで睨みあう男達のわけのわからない迫力に負けて、オタオタとしていたことはあんまり誰も気に留めなかった。


 翌日の昼、坂井は叶に誘われてキーラーゴのレストランのステーキセットをたらふく平らげた。
 その夜は下村と赤提灯で豚足を飽きるほどに食った。
 どちらも、叶と下村のおごり。
 とある日には、叶は坂井にフェラーリを一日預けた。
 その翌日には、下村は洗車を引き受けた。
 またある日には、叶は東京からの土産だと言って、有名店舗のケーキを二時間並んだ末に購入し持ってきた。
 また次の日には、下村は夜中に坂井が食いたいとぽそりと言ったアイスクリームを買いに夜中のコンビニに走った。
 さらにある日には…………エンドレス。
 と、まぁ、坂井直司争奪戦は日々繰り広げられたのだが…………


「「坂井」」
「はい?」
 煮詰まった顔の叶と下村がレナのテーブルに並んで、正面の坂井に声をかけた。
「下村か」
「叶さんか」
「「どっちかにしてくれないか!?」」
 テラスから、うららかな春の光がコーヒーの芳しい匂いの漂う店内に差し込んでいる。
 並んだ男二人の大マジメな眼差しの先で温かそうな光を半身にたっぷり浴び、危うく屈強な男達を秒速で悩殺するほどの愛らしさで、坂井がカクンと首を傾げた。
「どっちって?」
 困惑したような声に、がくりと二対の肩が落ちる。
 その様子に更に困った坂井は、助けを求めるようにカウンターの菜摘と宇野を見た。
 菜摘は肩を震わせて申し訳なさそうに笑っているし、宇野は宇野でカウンターに突っ伏していた。
「ふはははっ、坂井っ、お前は天性の性悪男だな」
「宇野さん、坂井くん、自覚がないんだからそんなこと言っちゃ悪いですよ」
 そんなやりとりをして、また耐えられなくなったように笑い出す。
「なんなんですかっ」
 一人事情のわからない坂井のどこか悲痛な問いに、宇野は必死で笑いを殺しながら答えてやることにした。
「そこの王子様二人はな、お前と真剣なお付き合いがしたいんだとさ」
「は?」
「だからね、叶さんと下村くんは、坂井くんのことが好きなのよ」
「……俺だって好きですよ? 叶さんも下村も、宇野さんや菜摘さんだって」
 ばしばしと宇野の手がカウンターを叩いた。
 菜摘は目尻に涙を浮かべている。
「宇野さんっ、笑いすぎですよ!!」
「そうだ! こっちは真剣なんだぞ」
 すまんとも声に出して言えない宇野は、片手を上げて謝罪に変える。
「いいか、坂井。俺達は、そういう友人としてとかの好きじゃなくて、本気で好きなんだよ。意味がわかるか?」
「つまりな、あー、秋山が菜摘さんのことを好きって次元の好きなんだ。わかったか?」
 男達の必死な解説にやっと納得したのか、あぁと喉につっかえた小骨がとれたような顔をして、次の瞬間にはかぁと赤くなる。
 苦労が報われたのと可愛いのとで、男二人の眦が下がる。
 いい男が実に台無し。
「で、だな、俺と下村のどっちかをいい加減選んでほしいんだが……」
 さっきまでどこか一致した息のあった様子を見せていた二人が、いきなり火花を散らした。
 その様子に坂井は全てを納得する。
 最近、叶と下村の仲がやたらと険悪だったこと。
 二人が裏があるんじゃないかと思うくらいに自分に尽くしてくれたことに。
「坂井、どっちだ? 正直に答えていいからな」
「俺、だろう?」
「叶さんっ」
「勝目はないぞ、下村」
「そんなこと勝手に決めないでください」
 そんなやり取りをしたあとに、きっと坂井に向き直る。
「「坂井!」」
「うあっ、はいっ」
 迫力に押されて坂井も硬直してしまう。
「「どっちなんだ!?」」
 その二重音声に、カランという涼やかなドアベルの音が花を添えた。
「いらっしゃいませ、あらっ」
 菜摘の柔らかな対応のあとに続いた言葉と、眼前の坂井の顔に客が誰なのか粗方予想がついた叶と下村は、悪い予感にまた肩を落とした。
「なんだ、みんな来てたのか」
「社長!」
 ガタンとテーブル席を立つと、尻尾があればぶんぶんと振られているであろう嬉々とした様子で、坂井はカウンターに座った川中の隣に腰を降ろす。
 まるで、そこが一番居心地がいいと言わんばかり。
「おい、坂井。キドニーも菜摘さんもどうしたんだ? なにか面白いことでもあったのか?」
 カウンターの向こうと隣で、笑死しそうな宇野と菜摘は震える手でテーブル席を指差した。
「……どうしたんだ? あの二人」
 テーブルにはがっくりと項垂れる下村と、殺気さえ混ぜて睨んでくる叶の姿。
「俺がいない間に何、面白いことしてるんだ?」
「知りません、俺」
 隣にいるだけで幸せなのか、坂井は可愛らしく綻んでいる。
「……………………坂井」
 下村が地獄から這い上がってきた亡者のような声で坂井を呼んだ。
 その後は叶が続ける。
「言ってみろ。誰が、いいのか」
「社長」
 即答。
 考える余地なし。
 一気に白紙になった二人は、もう自分を慰めるだけの言葉も見つけられずに口を閉じた。
「なんだ? なんの話なんだ?」
「お前が飼ってる子猫に手を出そうとして、見事玉砕されたんだよ。今の一言で」
 笑いすぎで疲れたのか、宇野がうってかわった投げやりな口調で説明すれば、なんだと川中も納得する。
「叶、下村」
 のろのろと二人が顔を上げたところに、トドメの一撃。
「やらんぞ」
 こうして、坂井直司争奪戦の幕は降ろされた。


2001/04/14
坂井直司争奪戦というリクエスト(!?)でした。冬雪さまー、大丈夫でしょうかー(>_<)
坂井がお馬鹿で幼いですね(苦笑)しかも、宇野さん笑いすぎじゃん!!突っ伏して笑う宇野さんなんか見たくないわ!(じゃ、書くな…)下村と叶さんの掛け合いが書いてて楽しかったですーv私の中では、どちらも口が達者で巧みって言うイメージがあるので。結局、社坂になってますが……(爆)

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