アメリカ映画とソファー



 最近、下村は映画に嵌まっている。
 アメリカ映画からフランス映画、邦画とジャンルも問わずに暇があれば見ている。
 テレビ放送を見たり、レンタルショップで借りてきたりするのだが、映画館には何故か行かない。
 時間がないと言う問題もあるのかもしれないが、映画はやはり映画館の巨大なスクリーンで見るのが良いのではないかと思うのだが。
 大して映画も見ない坂井にはわからない。
 要は中身なのかもしれない。
 ぼんやりと思いながら坂井は、ソファーに体を預けている下村の隣に腰を降ろした。
 映画鑑賞の場は、坂井の部屋だったり下村の部屋だったり。
 お客は二人。
 下村と、坂井だ。
 興味はないが、一台しかないテレビを下村が占領すれば特に見たい番組がない限り、坂井の視線も自然と繰り広げられる様々なストーリーに向けられることになる。
 今日はどうもアメリカ映画らしい。
 下村のこの趣味のお陰で、アメリカ映画とフランス映画、イギリス映画の特徴も知らなかったのだが、最近なんとなくわかってきた。
 画面の中では屈強な刑事と、テロリストらしき知的な男のやり取りが展開されている。
 あまり面白いとも思えない映画にイマイチ興味が湧かなかった坂井は、台所からターキーの瓶を持ってきて水割りを作って黙って下村の前に置いた。
 グラスの底がたてる音に気が付いた下村が、坂井の方へ眼を向けた。
「さんきゅ」
 手にしたグラスを軽く上げて、小さな一口を運んだ。
 再び下村の意識は映画に向けられる。
 本当にジャンルはどうでもいいらしい。
 この前はセピア色の物悲しい古い映画、その前は数年前に公開されて話題を呼んだハリウッド俳優の出演しているサスペンス調の映画。
 無名の映画監督の作品は一昨日。
 その全てを、淡々と網膜に映している。
 面白いともつまらないともその顔には現われない。
 ……こっちがつまらない。
 水割りをいっきに煽ると坂井は、暫らくもぞもぞと身動きしてからごろりと体を横にした。
 そう大きくないソファーで横になれば、坂井の頭は下村の膝の上にいく。
「退屈したのか?」
 一瞬だけ驚いて、もう自分を取り戻した下村が膝の上を見下ろして笑う。
「コレ、面白いか?」
「面白くない」
「はぁ?」
 わけがわからない。
 面白くないものをずっと見ていたのか。
 この男は。
「これ、前にも見たしな」
「じゃあ、なんでそんなにマジメに見てたんだよ?」
 ポスッと転がったまま、下村の胸を叩く。
 下村の右手が、優しく坂井の髪を梳いていく。
「お前が誘うの、待ってた」
 にっこりと邪気なく笑う下村に、坂井が思いっきり呆れて見せた。
 まんまと罠にかかった自分も、少し情けないが。
「ソファー買って正解だったな」
 ふわふわと撫でるように坂井の頬や首筋に触れながら、下村が言う。
 このソファーは、下村が勝手に購入したものだった。
 一人で転がってぎりぎり体が納まるくらいのサイズだが、座り心地がよかった。
 映画鑑賞にはもってこいだ。
「相手してほしいんだろ?」
 輪郭を辿るように指を這わせば、坂井は気持ちよさそうに僅かに喉をそらせる。
 猫に似た仕草が愛しい。
 このソファーが心地いいのは、二人でいるから。
 狭いソファーで二人でじゃれる時間は、穏やかで心が休まるようだった。
「猫みたいだな。お前」
「そう言うのが、好きなんだろう?」
 坂井も手を上げて、下村の髪に触れた。
 色素の薄い髪が、頭上の蛍光灯の明かりを受けて金色に近い茶色に見える。
 片方の手を後頭部にかけ、上半身を上げた。
 支える様に下村の義手が坂井の体を持ち上げ、右手は逃さないように坂井の後頭部を自分の方へと引き寄せる。
 映画はブラウン管の中で勝手に進み盛り上がる。
 下村は下村で、思うままに坂井の口付けを味わう。
 進んで開かれる唇の間から舌を差し入れ、口腔を弄る。
 漏れる吐息が熱を孕み始めた。
 無理な体勢が苦しくなったのか、坂井が僅かに身じろいで、もうやめろと訴える。
 拒否とは違うその訴えを、下村は了承して唇を離す。
 離す寸前に、柔らかくなった唇を吸い上げるようにして。
 ふっと脱力したように、坂井の頭が下村の膝の上におちる。
「セックスするにゃ、ちょっと狭いか」
「こんなところで欲情しないために、小さめのサイズにしたんじゃないのか?」
 ゆっくりと唇を撫でる指先を、舌先で舐めて挑発する。
「お前が誘ってくるとは思わなかったんでな」
 笑いながら、下村の左手が坂井のシャツの中に入り込んでくる。
「ひゃッ、冷てぇ!」
 青銅の冷たさに竦みあがった坂井を見下ろす下村は、楽しそうに声を上げて笑っている。
「冷てぇって、下村っ」
 冷たい手に胸を弄られ、坂井は鳥肌をたてながら下村の手を追い出そうとする。
 膝の上で暴れる坂井を押さえ込みながら、下村は楽しそうだ。
「暖めてくれよ。坂井―」
 今度は温かい熱を持った右手が、首筋を行き来する。
 ちぐはぐな温度が坂井を翻弄していく。
 蛍光灯が明るく室内を照らす。
 見下ろした所にある坂井の表情がありありと見て取れる。
 暴れてはいるが、その顔は決して嫌がっていない。
 むしろ、楽しんでいる。
 下村は嬉しそうに口元を綻ばせた。
 映画の中ではお決まりの美女が登場して、主人公に熱いキスを贈っている。
 触発された下村も、膝の上で少々曲がった甘えを見せる恋人にキスをしてやった。
 ホームシアターの美点は、こういうところだなと心の中で笑いながら。


2001/05/02
タイトルがちょっとレトロに仕上がって嬉しいです。ホームシアター派なもので、こんな話を思いつきました。こういうシーンが滅茶苦茶好きなのです。ラブラブストーリーの王道ですね。ソファーでいちゃいちゃvv楽しかったですー♪甘々の会(仮)のパパの名は伊達じゃない……ような気になるバカップル!

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