※注意!!
この作品はBDの学園パラレルなお話しです。
バーテンとフロマネが幼馴染で退行してもらって高校生です。


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小春日和のこんな一日



 窓際の後ろから二番目の特等席で、坂井は熟睡している。
 教壇では、黒板にカッカと言う鋭い音をたてながら版書している宇野がいる。
 几帳面で見やすい字で書くだけ書いた宇野は、チョークで白く汚れた指先を拭いてから、それを生徒が書き写すまでの時間を、机の間を縫うように歩きながら待つ。
 カリカリと言う、シャーペンのたてる音が暫らく続く。
 いつもは何かしらの理由で機嫌の悪い宇野も、今日のように天気のいい日には機嫌も下がりようがないのか、眉間の皺は見られない。
 ゆっくりと近付いてきた宇野は、下村の前の坂井の姿を認めると、ひょいっと片眉を上げて見せた。
 手にしていた教科書をパタンと閉じると、角が当たるように調整しながら坂井の頭に落す。
 ゴツッ。
「痛ッ」
 ひそひそ声しかなかった教室に、低く不機嫌な呻きが響いた。
「んだよぉ……」
 のそりと顔が上げた坂井が停止する。
「……すみません」
 こほんと咳払いをして、寝乱れた髪を梳って姿勢を起こした。
 宇野の低い忍び笑いが坂井と下村の横を通り過ぎた。
 下村の堪えきれない笑い声の気配に、坂井が振り向かないまま小さく笑うなと言う。
 それにまた笑いを零して、下村は再びノートにペンを走らせた。


 五時間目の授業のこと。
 ダンダンと鈍い音をたててボールがつかれる。
 科目は体育。
 場所は体育館。
 競技はバスケットボール。
 ボールをつく音と声援。
 館内を二分したコートの前面で、選手が二人睨みあっている。
 ボールをつきながら隙をうかがっているのは坂井直司で、さらにボール奪回の隙をうかがうディフェンスは下村敬。
 点差はスリーポイント一本を入れれば、坂井のチームが逆転する状況。
 普段はタッグを組めば誰も相手にならないような二人組が敵になる。
 面白い試合に、交代要員も試合待ちの連中も注目している。
 じりじりと与えられるプレッシャーの中で、坂井が不意に二,三歩下がった。
 空気を読んだ下村が慌てて追いかける二人の爪先が同時にふわりと浮くが、坂井の放ったボールに下村の指先は触れることがなく、ボールは綺麗な放物線を描いていく。
 ボールがゴールに入るのを見届けず、坂井は着地した時に相手チームのディフェンス陣の足にひっかかり、後頭部を強かにフロアにぶつけたのだ。
 下村の聞いたことのないような取り乱した呼びかけに応えることができずに、坂井は意識を手放した。


「こういった形の問題が出た時は、この公式を当てはめる。じゃあ、教科書の練習問題を各自で解いて、わからないところがあれば質問するように。騒がないんだったら、隣と相談してもいいから。今日の授業はそれで終わりにしよう」
 教壇の秋山の一声に、教室内は最後の集中力を振り絞って練習問題にとっかかる。
 教室内をゆっくりと巡る秋山が、最後列の生徒に目をやった。
 いつもはしろと言われたことはさっさとしてしまって机に突っ伏している生徒が、ぼうっと窓の外を見ている。
 苦笑しながら教科書の平面でポソっと頭を叩くと、のろのろと顔を上げた。
「大丈夫か?」
 小声で聞いてくる秋山に、下村も苦笑を零した。
「大丈夫ですよ」
 一つ前の席に降り注ぐ陽光が眩しい。
 坂井は結局脳震盪を起こして、あのまま病院に担ぎ込まれた。
 後頭部の強打だから念を押してだそうだ。
 そのため下村は授業なんて聞いていられる状態ではない。
 心ここにあらず。
 秋山も重い嘆息を一つつくと、うららかな春の光に満ちる校庭を眺めた。


 放課後突入のチャイムが鳴るなり、下村は教室を飛び出して保健室へ向かった。
 がらりと勢いよく開けた保健室のドアの向こうには、川中と叶に保健医の山根が揃っていた。
 下村の登場をさして驚いた様子もなく見ている。
「先生、坂井は!?」
 珍しくも取り乱した下村の様子を胸中では面白がりながら、川中がカーテンで仕切られたベッドを指す。
「大丈夫なんですか!?」
「大丈夫よ。一応検査もしたけど、軽い脳震盪だけだったわ。今は普通に眠ってるだけよ」
 山根の言葉にやっとほうっと安堵の息を吐く。
 そのままへたりこみそうな下村を力づけるように、川中がぽんっと下村の肩を叩く。
「……のぞいてもいいですか?」
 ひどく憔悴したような声に笑いながら山根が頷く。
 薄い水色のカーテンを捲ると、薄暗い仕切りの中のベッドにうつ伏せに近い状態で寝そべっている坂井を見た。
 今度こそ、下村はしゃがみ込む。
「心配させやがって……」
 無事がわかると腹がたってくる。
 低く呟いた下村のガキのような口調に、忍び笑いが起こる。
「ちょうどいいわ。これから、職員会議なのよ。下村くん、坂井くんの看病をよろしく」
「看病って、寝てるだけじゃないですか」
「いいじゃない。心配してたんでしょ? 適当な時間に帰ってくれればいいから。鍵はそのままでもいいわ」
 使われているだけなような気もするが、坂井が目覚めるまで不安と言えば不安。
 はいと返事をすれば、よろしいとのお声がかかる。
 なんだかなぁと首を傾げた下村の肩を、川中が仕方ないんだとでも言うように叩く。
「じゃあ、頼んだぞ。下村」
 どこか心配そうな様子を見せながら川中。
「手ぇ出してんじゃないぞ」
 との牽制をしながら叶が去った。
「……下村くん、後始末はしっかりしてね」
 意味深なセリフは山根で、保健室のドアは閉められた。
 ご丁寧に山根は電気までパチンと切っていった。
 この分では、入り口には不在との札がかかっているのだろう。
 やれやれと思いながら、狭い保健室のベッドの傍らにパイプ椅子を持ち込んで座った。
 覗き込んだ坂井の寝顔は穏やかで、再び安心する。
 白い清潔なシーツに広がる艶やかな黒髪を梳いてやりながら、下村は苦笑を浮かべた。
「まったく、心配ばっかりかけやがって」
「わるかったな」
 目を閉じたままの坂井のいきなりの声に、下村が目を見開く。
 次の瞬間、ぱちりと開いた目に自分の驚いた顔を見た。
 暗がりに輝く目が悪戯っぽい。
「なんだよ、起きてたのか?」
「先生たち、出ていくの待ってた」
 にっと笑う口元が小悪魔的で可愛い。
 じゃ、なくて。
「大丈夫か? 気分は?」
 頬を労わるように撫でてやると、気持ちよさそうにする。
「後ろ頭、たんこぶできて痛いだけ。眩暈とかしてたけど、もう治ったし」
 何度目かの安堵の溜息をつく下村が、やっと微笑を浮かべた。
「心配してるかなって、思ってた」
 申し訳なさそうにする上目遣いは反則。
「で、何がしたいんだ?」
「……わかってるくせに」
 シーツに半分顔を埋めながらぼそりと言う。
 くぐもった声が幼く聞える。
「まぁ、お膳立てはお前がしてくれたわけだし、あんまり意地悪しないでおくけど。大丈夫か?」
 坂井からのお誘いなんて滅多にないし。
「あんまり激しくするなよ。帰る時きついから」
「帰ってすりゃいいんじゃねぇの?」
「若いから」
 自分の欲望には素直な奴だ。
 下村から言い出しても、なかなかこうすんなりとコトに運べないのに。
 我儘な坂井に腹も立てることができないで、下村はただ惚れた弱味だと言った苦笑を湛えた。
 脳震盪で気を失っていた奴が、今はご満悦と言った表情を浮かべて欲しかったモノに手を伸ばしている。
 まったく。
 この小悪魔め。
 焦らすようにゆっくりと顔を近づけていく。
 暗がりの僅かな光を反射させる双眸が、至近距離に臆すことなく見つめていて、鼻先が触れるのを合図にふっと閉じられる。
 こんな仕草がかわいいし綺麗だと思うのだ。
 触れるだけのキスから始まるそれを、ちょっとした悪戯心で省略。
 いきなり坂井の唇を覆うように食らいついた。
 驚いたように一瞬硬直した坂井の睫毛が震える。
 静かな保健室に紡がれる、濡れた音が妙に煽情的。
 少し高いベッドに上がり込んで、坂井を仰向けにさせる。
「痛ぇ」
 色気のない声。
「痛い?」
「後ろ頭、枕に当たって痛い」
 訴える坂井に下村も暫し静止する。
 ここでやめると言い出されてもその気になった自分が困る。
「じゃ、俺の膝の上においで」
 と、提案した下村を、坂井がじとりと見返す。
 疑わしそうな視線を受けながら、そそくさと布団をはぐ。
「ホラ」
 よいしょと坂井を起こして、あやすように耳裏を擽る。
 まるでエロ中年親父でも見るような坂井の視線は変わらずだが、啄ばむようにキスをしているうちに色気を滲ませる。
「無理させないし、リードはとるから」
 つまりは坂井が恥ずかしがるようなことは、言わせませんしさせません宣言。
 殊勝な言葉に、承諾のキス。
 じゃれ合ってはいるものの、お互い若いからと理由をつけた発情期の獣と化している。
 すぐに上がる息を殺そうとして漏れる呼吸音がよけいにそそる。
 下村の膝を跨ぐ恰好の坂井を、より引き寄せて腰を密着させる。
 膝立ちの坂井の顔の方が少し上にある。
 意図を持った下村の手に背中を撫で上げられる。
 引き寄せなくても交わされる濃厚な口付けの合間に、下村は坂井のシャツのボタンを外していく。
 直に肌に触れ、滑らした手の平で背中の肩甲骨だとかのラインを辿ってみる。
 びくりと緊張する筋肉の感触。
 それを楽しみながら、ズボンに手をかけた。
「下村………早くないか?」
 テンポが。
 戸惑うように言う坂井に下村が苦笑で応えた。
「焦らして欲しいんならそうするぜ?」
「誰がそんなこと言ったんだよ」
「わりぃな。こう……心配してたその不安の反動ってやつだ。お前が悪い」
「……なんだ、それ」
 呆れた素振りを見せながらも、心配をかけて、下村が坂井の思ったとおりにかなり不安になっていて。
 そのことが嬉しいのと申し訳ないのとで、下村の余裕のなさを咎めることもできず、緩んでしまった頬を隠すために坂井は下村の肩の顔を埋めた。



 ギシっと、互いの部屋のベッドの軋みよりも大きな音が、保健室の清潔な空気を震わせた。
「んっ……ぅん……あっ」
 しゃくりあげるように漏れ聞える声は濡れていて、聞くだけで何が行われているのかわかってしまうだろう。
 完全に脱いでしまわないで、肩にかかっただけのシャツと片足に引っ掛かったままのズボンに下着だとかが淫らで、でもそれがたまらなくそそる。
 親父的発想かなと自問自答しながらも、結局は仕方がない、坂井が可愛いのだからと結論づける。
 下村の胸に凭れかかる坂井は、下村が体を揺すり上げるたびに背中をそらせる。
 項に惜しげないキスをしてやると、それから逃れようと前のめりになるが、それが刺激になって声を上げる羽目になる。
 後ろから抱き込んで貫いた坂井の体は熱く、内部は蕩けそうな状態だ。
 縋るものが欲しくて胸の突起を弄る下村の腕を、引き離す意図でなく掴む。
「ふぅっ……あっ。もう、やだ……」
 仰け反った坂井が、下村の喉のあたりに鼻先を埋めるような仕草を見せる。
 どうしても喘ぎの混じる吐息が余計に近くなって、下村の余裕を食い尽くしていく。
 ほとんど吐息になってしまった声で坂井が呟く。
「うそ……つき」
 と。
「ん?」
 半分意識のとんだ坂井の睦言に、穏やかに問えば一度背を震わせて、
「無茶……させて……んっ」
 この体勢では坂井の表情はうかがえないが、下村には容易に想像できた。
「ごめん」
 笑いながら言って、あやすように耳裏にキスをする。
 赤くなっている耳に舌を這わした。
 坂井の甘い悲鳴が押し殺せずに漏れる。
 硬く色付いた胸の突起を転がされて、体が跳ねる。
 薄暗い放課後の保健室でと思うと、普段よりも興奮してしまう。
 いつもと違った角度で突き上げられるのが辛いのか、坂井の頬に触れると指先を涙が濡らした。
「坂井、もう限界か?」
 優しさを装い問えば、こくりこくりと何度も頷く。
 蠢く喉を這い上がっていた下村の手が、すっと下がりとんでもない箇所に触れてくる。
「しもむらっ、やだっ……あぁ」
 抵抗する力を溶かすように、下村は繋がりあって濡れた下肢を弄る。
「しもむらぁっ」
 猫が甘えるのに似た仕草で、頬を肩口に摺り寄せてくる。
 淫猥な音も坂井の耳には届いていないのだろう。
 下村の耳にも届かない。
 聞えるのは坂井の泣き声の混じった嬌声だけだ。
 屹立した坂井のものを扱き上げると同時に、深く繋がったままの体を激しく揺すった。
 声すら出すことのできない快楽の波に攫われて、坂井の体が震える。
 シーツを蹴って折り曲げられた足の爪先まで、緊張で竦んでしまっている。
 下村が、先に硬直を解いてほうっと詰めていた息を吐き出すと、頬を流れていったその吐息に反応して坂井も弛緩した。
 くたりと下村の胸に体を預けて、荒い息を抑えることもできずに余韻にまどろんでいる。
 遠慮なく預けてくる体をしっかりと受け止めながら、下村は優しいキスを何度も肩口に降らせる。
 体を離して、坂井が口付けをねだってそれに応えて、今更ながらに安堵が体を支配した。
 大きすぎて自覚できなかった不安の断片を自分で感じると同時に、腕の中にいる坂井の存在に安心する。
 知らず強まった腕の力の意味する所を坂井もなんとなく感じたのか。
 されるがままになっている。
「……ごめん」
 心配をかけてと言う坂井の唇を塞いだ。
 離して、正面から抱きしめる。
 抗わない坂井と合わさった胸が鼓動を伝える。
「……やばいなぁ」
 思わず呟いた下村の言葉を、坂井が問う。
 まだ潤んだ双眸が上目に見上げてくる。
「手放せないなぁと思って」
 ふっと坂井の視線が反れる。
 眼下にある坂井の首筋や耳が真っ赤になっているのは、さっきまでの激しい行為の余韻だけではないはず。
 もぞもぞと身じろいで、下村の腕から抜け出すと無言のままシャツやらを掻き集めて身支度を始める。
 ぎしりとベッドが軋む。
 身構えた坂井の予想を裏切って、下村はそうっと坂井の後頭部にキスをする。
 きょとんとした坂井に、下村が笑って見せた。
「早くよくなるように」
 呆気にとられたような坂井の顔が、馬鹿にしたようなものになるのが、暗がりの室内でも充分にわかった。
「ばっかじゃねぇの」
 思いっきり力のこもった言葉に、下村は苦笑を零す。
「早く治さないと、その間はずっと上やらすぞ」
「………………さいてー」
 今度はうってかわった侮蔑の視線。
 どうやっても容赦のない坂井に、項垂れながらも下村の口元は綻んでいた。
 こんなふうに心配されるのが、言っちゃ悪いかもしれないけど嬉しいなんて、自分もよほどこいつを手放せないなとは、坂井がこっそりと胸中でのみ思ったこと。


2001/04/21
甘々の会(仮)のママ・行南さまからのリクエストで、学園モノのらぶらぶエロエロでございました。
……なんだか、ちょっと苦しい箇所が見られますね(笑)
ゴメン、ママ! もっと修行してくる!!
この体位も……なんだか……(>_<)しかも、坂井誘い受け……(自爆)

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