※注意!!
このお話はドクスキーで天使至上主義な管理人の趣味に突っ走りまくってしまったものです。
当サイトは下坂中心ですが、これは桜坂です。桜内×坂井です。
坂井の相手はフランス帰りのシモムだけなの!と言われる方、若しくはお喋りな殺し屋だけ!
という方はどうぞお戻りくださいませ。




安らぎの温度




 桜内が眼を醒ました時、坂井は診察台に座って包帯と格闘していた。
 左手と唇を使って右腕に巻こうとしているらしいが、上手くいかないらしい。
 巻いたそばから解けていく。
「何してるんだ?」
 声をかければ、ちょっと驚いた顔をして「見てわからないんですか」と言う。
「包帯でじゃれてるのか?」
「ドク、人をなんだと思ってるんですか」
 むっとした低い声で坂井は食ってかかる。
「さぁてね。来いよ。消毒したのか?」
 手招いてやると、素直にやって来て患者用の小さなスツールに腰掛ける。
 肘から二の腕にかけて、ひどく擦りむいている。
「バイクか?」
「子供がいきなり飛び出してきたんですよ。大したことないんですけど、袖で擦れるし服に血がつくから」
 無造作に差し出される腕から、ひらひらと包帯が棚引く。
 Tシャツには血が滲んでしまっている。
「上、脱げよ。邪魔だ」
 消毒液やらガーゼやらを用意しながら何気なく言えば、警戒心も何も持たないまま威勢良くシャツを脱ぎ捨てた。
 日に焼けた健康そうな肌に、ほどよい肉付きとしなやかなラインを描く骨格。
 擦りむいた腕に滲む血が鮮やかだ。
 そこに消毒液を思い切りかけてやると、僅かに息をのんだ様子を見せた。
 眉を寄せているが、何も言わない。
 意地っ張りめ。
 滴る消毒液が薄い朱色に染まる。
 ガーゼを当てて包帯をまいてやると、
「ドク、疲れてるんですか?」
 手元を見ながら坂井が問う。
 坂井が勝手に診察所に上がりこんで、包帯やらをいじりだしても起きださなかったからだろう。
 特別人の気配とやらに敏感な方ではないが、それなりの仕事のしているから人が来れば起きる方ではある。
「昨日遅くに呼び出されてな。寝不足なだけだ」
 言いながら欠伸が零れた。
「最近店にも来ない」
「淋しいのか?」
「誰もそんなこと言ってません」
 さらりと切り返せば、わざと素っ気無く否定する。
 そういう反応を引き出したくて桜内が坂井にちょっかいを出すのに、未だ坂井は気が付かない。
「お前こそ食ってるのか? また痩せたようだがな」
「痩せてませんよ。それに食ってる。それこそあんたが呆れるくらいにはね」
「どうかな」
 トンと首筋を叩く。
 診察のような仕草に、坂井も大人しくなった。
 首筋を辿り、眼を覗き込んだり。
 坂井は抗わずに大人しくされるがままになっている。
 坂井は桜内の手の感触がどうやらお気に入りらしい。
 安心するような心地良さそうな、そんな表情をする。
 勿論、普段はそれを隠すようにどこか困ったような顔で流してはいるが、セックスの途中に背中や頬を撫でるのも、終わった後に宥めるようにして背中をさするのも嫌がりはしない。
 こうした診察の真似事でさえも。
 キスよりも好きなのかもしれない。
 熱を計るように額に手を当ててやると、自然に瞼を降ろす。
 その隙に坂井の腰を引き寄せた。
「……う、わっ」
 すっと体を引く坂井にそうはさせないで腕に力を込めた。
「ドクっ、俺、多分心臓は丈夫なんですけどっ」
 ひんやりとした聴診器の感触がいやなのか、身を捩る。
「動悸が早いな」
「誰のせいっ……」
 肩口に軽く噛み付かれ、坂井が言葉を飲む。
 力強く打つ鼓動が、少しずつだが早くなっていくのがわかる。
 それを自覚もしているのだろう。
 鼓動を聞かれたくなくて、坂井は嫌がる。
「じっとしてなさい」
 子供に言い聞かすのと同じ口調で言ってやれば、また抗議しようと口を開く。
 小さな胸の突起をきつめに噛むめばそれも封じられるが。
 また鼓動が早くなる。
 素直な反応に、坂井が真っ赤になっている。
「……っ、ドク、やめ……!」
 艶めいた声が上がる。
 もう止めてやることはできなかった。

 最初に抱いたのは記念病院の手術台だったか。
 瀕死の状態で運ばれてきた患者を一人助けられなかった。
 手の施しようのない状態ではあったが、どうも一日何か引っ掛かるものを感じたまま過ごした。
 医者として、助けられない患者には何人にも出会ってきた。
 闇医者としても、目の前で自分の差し出す手に見向きもしないで死んでいった男も何人もいる。
 虫の居所が、悪かったのだろう。
 帰るのも億劫でいつまでも病院でぐずぐずしていたら、坂井がひょこりと顔を出したのだ。
 多少精神状態が芳しくなかったせいと、坂井が綺麗だったのとで、ほぼ八つ当たりに近い状況で坂井を組み敷いた。
 ブラックボックスとも呼ばれる手術室に連れ込んで。
 抵抗はされたが、意外に容易く坂井は墜ちた。
 初めてではなかったのだろう。
 終わったあともけろりとして、『山根がドクを子どもみたいだって言ってることがあるけど、本当だな』と、そんなことを言っていた。
 その後、何故かずるずると関係は続いている。
 体を重ねる相手に気持ちを求めるようなタイプではない桜内だが、坂井が思うほど自分を嫌っていないことには気が付いたし、それを知っても醒めてしまうようなことはなかった。
 女の体とは違う骨格のしっかりしたごつごつした体ではあるが、しなやかなラインはつい辿りたくなるほど煽情的だ。
 体でも繋げなければ拝めることができないだろう、快楽に苛まれる表情も声も悦い。
 反応も体も悪くない。
 どっちかと言えば相性は抜群だと思う。
 勿論、あの坂井が積極的に抱かせてくれるわけもなくそれなりの苦労もするが、恥らう様も楽しめる。
「ぅん……んっ、ドク……手……」
 繋がった体を揺すり上げながら、何度も坂井が弱い箇所を嬲る。
 しどけなく首を横に振りながらも、坂井が掠れた声で甘く強請る。
 体もギャップを楽しむのもいいが桜内が坂井を飽きることなく抱く理由――セックスをする理由なんて、そうそう考えはしないが――は、このおねだりのせいかもしれない。
 『手』と求められる。
 それは時に背中をさする手であったり、頬を包む手であったり、ただ……ただ手を繋ぐだけに求められる手だったり。
 キスならわかる。
 多少はセックスで得る快感を深くする。
 けれど、坂井が求める桜内の手はそういうものとは直結しない。
 セックスとはまったく別のものを欲しがるために強請られる。
 そういうのを、鬱陶しいと思うのであれば自分は平常なのだが……それを可愛いなと思ってしまう自分がいるのだ。
 求められるままに紅潮した頬に片手を添えてやると、猫の仕草そのままに擦り寄ってくる。
 無意識なのだろうが、その無意識の所作でどれだけ桜内が困惑と狼狽と密やかな喜びを得るのか。
 それに気がついていれば、坂井は意外にも大変な小悪魔ということになる。
 求められることで、救われることがあるのだ。
「ふ……ぁ」
 気持ちよさそうに息をついて、薄っすらと開かれる双眸。
 『もっと』と眼だけで語る。
 腕の中の坂井は幼い。
 甘えるような、そんな仕草を見せるのだ。
 坂井の腕が桜内を引き寄せる。
 近付く漆黒の瞳の中に、微笑んでいる自分を見た。


 もぞもぞと、何かが髪の毛の間を這いまわっているような感触に眼を開けた。
 目前に坂井の顔がある。
 寝起きはいい。
 深夜の急な呼び出しには応えてやれる。
「何してるんだ?」
 数刻前と同じセリフを口にする。
 狭い狭い診察台の上に仰向けになった桜内の上に、圧し掛かるようにして上半身を肘をついて支えている坂井がいる状況は先刻とは大きく違うが。
 うとうとしていた間に服でも着ていればいいのに、坂井も桜内と同様裸のままでシーツが一枚あるだけの状態だ。
 昼間からいかにも不健康。
「白髪」
「なにっ?」
「ドク、白髪増えたなと思って」
 半分桜内の体に乗り上げて、桜内の髪の毛をいじる坂井が何気なく言う。
 坂井の体温がシーツ一枚だけの体には心地いい。
 坂井の綺麗な指は、ざんばらに伸びた髪の毛を梳いている。
「また見っけ」
 聞き捨てならないことを言う。
「若白髪だ」
「へぇ。でも増えましたよね」
「……一本抜け」
「でも、白髪って抜いたら増えるんじゃないんですかね」
 言いながら、髪を摘んでくいっと引っ張られる。
「普通の髪まで抜くなよ」
「はいはい……っと。ホラ、真っ白―」
 きししと笑いながら、指先に摘んだ白い糸のような髪の毛をちらつかせてくる。
 見事に色素のない髪の毛に、少々ショックを受ける。
「まぁた、見っけ」
 嬉しそうに言う坂井が忌々しくて、桜内は仕返しのように坂井の髪の毛の間に手を入れてわしゃわしゃと掻き乱す。
 カラスの羽のように真っ黒で艶々した髪の毛が乱れる。
「ドク、やめてくださいよ」
 困ったように手を払って、トスンと顔を胸に埋める。
 ご機嫌なのか、笑っている振動が伝わってくる。
 もぞもぞと、腕を辿るように坂井の手が動いて手の平に辿り着く。
 指を絡めるようにして握られる。
「何だ?」
「別に」
「好きだな」
 好きにさせてやる。
 握った坂井の手は綺麗で、骨張っている。
 自分の手はどちらかと言えば肉厚な感じはするだろう。
 心は温かくない方だが、手の平はいつもだいたいひんやりとしている。
 そのせいかもしれない。
 ごそっと坂井が動く。
「坂井?」
 顔を上げて覗き込めば、坂井の黒髪だけが眼に入る。
「……ん……ねむ……い」
 桜内が寝ている間、ずっと起きていたのかもしれない。
 舌がまわっていない。
 預けられる体重を嘆息しながら受け入れてやって、桜内はポンっとその背を優しく叩いた。
「仕方ねぇなあ」
 ポンポンと繰り返し背中を叩いてやりながら、桜内はシーツを引き上げる。
 起きたら店まで送ってやって、慇懃無礼な坂井を相手に久しぶりに一杯飲もう。
 それまでは、この手を握っていてやるか。
 漏れる溜息は何故か甘く、握った坂井の手はほんのりと温かかった。


2001/06/02
桜坂でございました。どうなんでしょう?(笑)いったいうちに来てくださっているお客様の何割の方が大丈夫だったのでしょう(笑)後書きに書くべき言葉が見つからないのは初めてです。やってはいけないことをしているような………いや、でもBBSで支持してくださった皆様のためにもこのフロンティアの精神を……(馬鹿)なんだか、ドクに弱い坂井くんですね。第二段とかありますので、お付き合いいただければ幸いであります。

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