絵に描いたような寝正月を過ごし、三が日を迎える頃にはそろそろ寝すぎて頭痛がしてきた。
賑やかすぎる居候達は、正月番組に飽きたのか、はたまた職場にいてもお節料理にも雑煮にもありつけないと悟ったのか、揃って寒波押し寄せる屋外へと飛び出していった。
雇い主として揃ってたかりにでるのもプライドが許さないとコタツに潜り込んでいたが、プライドで腹は膨れない。
正月気分を味わせてくれるのは点けっ放しのテレビだけ。
切なく鳴る腹を癒そうと、銀時は旧年ぶりにコタツを出た。
寒い。
思わずコタツへ後戻りしそうになるが、空腹も限界に近付いてきた。
うたた寝の連鎖をここで断ち切り、安息の地を諦めて外出初めとする。
階下のスナックには年始の休業張り紙が掲げられていて、人の気配も感じられない。
あの店主のこと、この吹き溜まりの街で行き場のない連中のために正月も店開きをするかと思っていたが、そこまでの慈善事業者でもないかと考える。
性格最悪の猫耳年増に行くところがあるとは思えないが、恐らくは万事屋の若手達と同じく、正月無礼講と言う恩恵を狩りに出かけたのだろう。
有能すぎるカラクリは充電中だろうか。
暖簾の代わりに門前を飾る正月飾りは、「正月なんだ、休んじゃ悪いか」とでも言うかのように堂々としている。
盆も暮れも嫁入りも葬式も酒を飲む口実と化すこの街にも、等しく除夜の鐘は響いたはずだが、百八つに十をかけても及ばない数の煩悩渦巻く歌舞伎町。
お神酒で千鳥足の連中が大通りを行き交うのだから、坊主も鐘の撞き甲斐がなかろうに。
正月三が日の午前だというのに清々しい空気は既になく、混沌が草臥れたような街の上空を見上げれば、この街にしては珍しく雪がちらつきだしていた。
「どうりで、冷えると思ったぜ」
ドテラで着膨れたまま、銀時はフラリフラリと歩き出す。
気分爽快と言い難いのは、年を越してちびりちびりと歌合戦をつまみに飲み続けた安酒が残っているせいだ。
空腹も相まって足が縺れる。
なるほど自分もしっかりとこの街の住民たる資格を備えているじゃないかと、冷たい空気に冷えた鼻の奥がツンと痛むのに顔を顰めながら、千鳥足の酔っ払いは墓地へと向かった。
驚くことに墓地には人影がチラホラと見て取れた。
物言わぬ墓石には真新しい花や菓子が供えられている。
冷え切った御影石の群れの中、小豆色の唐傘が開いたのが見えた。
降り出した雪は本降りの勢いで汚れた大地を濡らしている。
「最近は、墓場で雪見酒ってのがブームなのかい?」
「おや、あんた生きてたのかい? 大晦日から今朝まで、二階からちっとも物音が聞こえてきやしないから、とうとう飢え死にでもしたんじゃないかと思ってたんだよ」
「すれすれだよ」
振り向いた大家の手には開けたばかりで湯気の立ち上るワンカップが握られている。
「あんたもやるかい?」
「いや、止めとく」
珍しいこともあるもんだとお登勢が目を向く前に、ぎゅるぎゅると空っぽの胃が絞り上げられるような音が新年の墓地に響いた。
「それよりも、饅頭、食ってもいいか?」
墓石の前に供えられた饅頭を指差せば、答えの前にかすかな笑い声が聞こえた。
「旦那に聞きな」
そうして久々に口にした糖分は美味すぎて、暫く降り積もる雪の冷たさを忘れた。
傾けられた傘の恩恵を口の中で広がった餡子とともに飲み込んで、古ぼけた約束をまた今年も更新する。
2009/12/6更新
Films 9周年に一話三題として、三つセットのお題を募集しました。
「雪見酒、煩悩の鐘、うたた寝」を銀魂でと言うことだったんですが、まさかの銀登勢でいかせていただきました!近土や坂陸奥もいいなぁと思ったんだけど、ここは渋く銀登勢de。