太陽よりも紫陽花よりも君!



 数歩分前を行く金髪頭を、竜也は見ることもなしに眺めている。
 進行方向にその頭があるのだから仕方がない。
 校則違反のその頭は生活指導の教師達からは目の仇にされているが、本人は気にする様子がまったくない。
 金髪頭はいつも綺麗に染め上げられていて、プリン頭なんて恰好の悪いことになっているところは見たことがない。
 ちょっとだけ、痛んだ長い髪の毛が川風に吹かれて揺れている。

 雨上がり。
 その夕方。

 さっきまでの雨が嘘のように晴れ渡った空はオレンジ色に染まっていた。
 灰色の雲の向こうから顔を見せた太陽は本当に綺麗なオレンジ。
 乱れる髪の毛が、黄金色に輝く。
 竜也の視界で光り輝く、生きた色が氾濫する。
「あー、美味そうなおひさんやなぁ」
 息を詰めて見惚れていた竜也の耳に、なんともマヌケな声。
 情緒のない、それでも彼らしい言葉に竜也は我に返った。
「なぁ?」
 不意に振り返られる。
 一見屈託なく見える笑顔が向けられて、そんなもの見慣れているはずなのに、いつも鬱陶しいと突っぱねているはずなのに、竜也は妙にドキリとしてしまう。
 逆光のせいかもしれない。
「どないしたん?」
「べ、つに」
 ふうんと意味深な返事。
 こう言う会話の間の取り方が、シゲは上手い。
 竜也の性格を把握しているのだ。
 竜也にしてみれば、それは悔しさ半分、嬉しさ半分。
「なぁ、タツボン」
「なんだよ」
「ちゅーしたら怒る?」
「きれる」
「……」
 見慣れた苦笑いは大人びていて、また、竜也の鼓動を早くする。
 いつもは嫌だとか鬱陶しいとかあっち行けなんて言ってるけれど、プライドが高くて芯の通った竜也が躰を重ねることを許すほどにシゲが好きなのは事実。
 絆からレンアイ感情に近付いたのは確かだけど、竜也はシゲの顔も声も仕草も好きだった。
 思わず見惚れてしまうほどに。
 シゲはしょっちゅう竜也を綺麗だ可愛いだと言うけれど、竜也だってシゲをかっこいいと思うし大人っぽいとも思う。
 口にしないだけ。

「あ、紫陽花」
「え?」
 さっき太陽を美味そうだと称した奴が何を言い出すのか。
 シゲの視線を追うと、そこには確かに紫陽花の花があった。
 濃い紫の花弁は遠目でも綺麗に映る。
「さっきまで雨が降っとったからな。艶っぽいなぁ」
 太陽には美味しそう。
 紫陽花には艶っぽい。
 シゲらしい形容詞の与え方に、竜也は思わず吹き出した。
 独創的な言語センスだが、現国の成績が悪い理由がわかった気がした。
「タツボンみたい」
「はぁ!?」
 ぼそりと少し高いところから零れてきた一言に、竜也は思い切り眉を顰めた。
 見上げたシゲは、ニヤリといやらしい笑みを浮かべた。
 その顔もみなれたが、あまりオトナっぽいとは思えない。
 大人っぽさを通り越したオヤジ顔。
「濡れたら色っぽいやん? どっちも」
「ばっ……っ、馬鹿野郎、何言ってんだよ!!」
「そうやって赤くなっても綺麗やしー?」
 真っ赤になった竜也の頬をさらりと撫でて、そんな言葉。
「うるさいっ」
「わっ、痛い! タツボン、痛いってー。殴らんといてー」
 そんなことを言いながらも、シゲの声は浮かれている。
 それは勿論、竜也が手加減しているせいもある。
 はたから見れば、その追いかけっこはバカップルのじゃれ合いでしかないだろうけれど、当人達の片方はこんなやり取りを楽しんで、もう片方は恥ずかしいという気持ち一心で。
 彼等は彼等の青春を謳歌する。


2001/07/11
うっわ。青い春ですね!BDずっと書いてて、笛になるとこのギャップにぶちのめされます。節操なしですみません。初のホイッスル話です。杉山のシゲタツはこんなんです。あぁああ、なんだかむっしょーに恥ずかしいのは何故だろう!!??

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