深い山奥はいつも初冬の気配を残している。
冷たい土を苦無で掘り起こしていた操が小さく声を上げた。
苦無を置くと柔らかい手を使って土を払っていく。
やがて少女の手は土に塗れた髑髏を取り出した。
生まれたての猫の子を抱き上げるような慎重な手つきで膝に乗せたそれを撫で、
「……般若くん」
小さく名前を呼んだ。
その傍らに広げた風呂敷の上に、蒼紫が掘り出した小ぶりな髑髏を乗せる。
「……べし見」
辺境の地に葬った四人の忍は、出自や戦闘能力強化を求めて異形となった者ばかりだ。
戦うことこそが己の存在意義だと、強さをひた求めていた。
強さへの執着は骨にまで名残を見せる。
徳川幕府と言う夜がいつまでも続くのだと疑いなく思っていた。
突如として訪れた朝はあまりに眩しく、新時代の中にこびりつく闇を探すしかなかった。
暗い場所へと、ただひたすら。
そこでしか生きていけないのだと、言い聞かせるように。
「式尉さん。……火男」
四つ並んだ髑髏を、操が清めていく。
俯いた少女の表情を窺うことはできないが、いつも全身から発している快活な気質が消えている。
言葉を持たない蒼紫を、操は見たことのない色をたたえた大きな瞳で真っ直ぐに見上げてきた。
「私が、どこか遠い場所で朽ちて骨になっちゃっても、蒼紫さま、見つけてくれる?」
それは操が蒼紫にぶつける初めての責めだったのかもしれない。
幼げに響く声が蒼紫の胸を抉るように発せられたのは初めてのこと。
真綿の柔らかさで、しかし確実に喉を絞られる錯覚。
「でも順番でいけば、私が蒼紫さまの骨を見つける方が先だね」
言葉どころか呼吸すら忘れてしまった男を無垢な眼差しで見つめていた操は、不意に睫毛を伏せて髑髏にこびりつく土を払う作業を再開した。
雪国の軒先に煌めく氷柱に似た繊細で美しく鋭い言葉が、文明を拒む樹海の空気を微かに震わせる。
「私は、それがどこであろうと、見つけに行くよ」
年端もゆかぬ少女は自分達の後を追って、全国をたった一人で駆け回ったと言う。
見知らぬ土地、凍てつく夜もたった一人。
それは翁を瀕死の重傷に追いやった裏切り者のためでも、されこうべと成り果てたかつての仲間達を掘り起こすためでもない。
少女の声は、最強をと謳い続けた自分の声など及ばぬほど力強い。
見つけに行くと、言った通りにするのだろう。
「かえろっか。爺や、心配してるだろうし」
丸みを帯びた風呂敷包みを携え、操は明るい方へと蒼紫を促す。
高い岩場を先に下りた蒼紫が手を伸べる。
頭上にある操の影が、上空を覆う木々の葉影に溶けた。
うろたえた。
掴まなければとがむしゃらに差し伸べた手に、あたたかく柔らかく、土に塗れた手が触れた。
どさりと勢い良く蒼紫の腕に落ちてきた割に、受け止めた体重は頼りないほど軽く、
「……っ」
噛み殺し損ねた嗚咽が蒼紫の耳を打った
いつも、少女は笑顔でいた。
それが周りの者達にとっての幸いに繋がるのだと、御庭番衆に名を連ねる者は口にして、少女を愛でてきた。
それがいつしか少女の義務となり、泣くことすら自由にさせず。
弱い心を奥底に秘めた、強い娘に成長した。
首をぐるりと抱く腕の強さが、彼女の悲しみだ。
促すように抱きとめた手で背を摩ると、腕はいっそう強くなる。
「俺の骨を」
首筋に熱い滴が落ちてくる。
「探しに出る必要はない」
「……、く。行きますっ」
言葉を持たぬ自分には何ができるだろうか。
散った四人の仲間が少女に残す未練は何だろうか。
嗚咽に震える体を抱いて考えれば、簡単なことですよと苦笑する仲間の顔が浮かんできた。
「探しに出ずとも、俺が朽ちて骨になる時は、お前の目の届くところにいる」
強がる少女の背を撫でてやること。
寂しい思いをしないように、傍にいること。
自分が流させた涙を黙って受け止めること。
心からの幸せを感じて浮かべる笑顔を、見守ること。
操は一瞬息を飲み、それから堰をきったように泣き声をあげて泣き出した。
樹海の悪路は少女の涙に凍てつく。
この森を抜けたら、少女が微笑み春を呼ぶのだと夢想する。
嗚咽に震える少女の体と物言わぬ髑髏を四つ携えて、蒼紫は光あふれる方角へと歩みを早める。
2008/12/2
8th記念企画SSでリク募集で頂いた「凍てつく道を」と言うお題から。
カプは完璧に私の趣味です。すみませんっ。るろ剣のノーマルカプが大好きです。特に操ちゃんは可愛くてかっこいいと思うんだよねー。天真爛漫なのもいいけど、シビアな発言をかますのもイイと思うのね。旦那を尻に敷いていればいいね!誰も気づいていないけど、敷かれている旦那だけが自覚していたらいいね!