油小路。
七条。
四方を囲う人影の、袖口を抜いただんだらの白が浮かび上がる。
視界の端にも、同じ白。
籠からはみ出した伊東の白い足袋は、血色の斑模様ができていた。
毛内が抜刀し、応じるように周囲で白刃が煌めく。
藤堂も抜刀しながら、目眩を堪える。
新選組。
御陵衛士。
どちらに立っているのかわからなくなりそうだ。
選んだのは自分だと思えば、ぴたりと視線が定まった。
対峙するのはかつての仲間達だ。
自分はあの輪から、自らの意思で抜け出たのだから。
囲う新選組から先手を繰り出してきた。
服部が迎え撃つ。
周りが乱刃となる中で、藤堂は目の前の永倉を見つめていた。
長い付き合いになる。
この男の傍にいると難しいことも容易く導かれるようで、何度励まされたか知れない。
永倉がじりと地面を滑る、その左手にぽかりと空間が開く。
顎先が、その空間へと何度か小さく振られた。
悲しいなと、藤堂はぽつり思った。
「近藤先生が?」
試衛館の年季の入った道場で、初めて近藤と言葉を交わした日のことが脳裏に浮かんだ。
遠い昔のことのようだったのに、道場に差し込んでいた日差しの色も温度も自分が得た感動すら鮮やかに蘇る。
やはり、悲しい。
「平助っ、行け。近藤さんの気持ちを無駄にするな」
言い聞かす永倉の切羽詰った声をありがたいと胸に沁みこませながら、細い月の出た冬空を見上げた。
この夜は明けない。
永倉が確保する逃げ道は黒々とした闇をどこまでも続かせて、藤堂を誘う。
その道を選んだとしても、夜は明けない。
「土方さんは、なんと?」
永倉は視線をそらした。
御陵衛士の数に対してこれだけの新選組隊士を出動させたのは、他でもない土方だろう。
誰一人として、生かしておく気はないのだ。
「ありがたい」
冷酷を装う美しい横顔を思い、自然笑みが浮かんだ。
背を向けこの闇の逃げ道を走ったとして、誰が藤堂平助を武士として思い返してくれるのか。
達者でいるのかと思い馳せられる時、己の姿は逃亡者としてかつての仲間達の頭の中に形を成すのか。
逃げ果せたとして、次に藤堂がすべきは伊東の仇討ちとして己の命を救う策を打った近藤を殺すことだ。
ならば夜など明けなければいい。
藤堂の朝は、土方が握りつぶしてくれる。
ありがたい。
自分を武士として死なせてくれる。
士道ニ背キ間敷事。
この国の侍を縛る法度を、袂を分かった己にも振りかざしてくれる。
出自に大層な曰くを持つとは言え食うにも困る浪人だった自分が、武士として胸を張れる未来を掴んだ日を忘れない。
江戸の片隅、古い道場で出立を決めた日。
掌に確かな手応えがあって、左右には気安く頼もしい仲間がいて、標があった。
明るく注ぐ光と、清浄な風が吹いていた。
江戸で迎えた夜明けにも、京で迎えた落日にも、悔いはない。
彼らが油小路を思い出す時、自分は武士としていられるのだ。
天晴と笑ってくれる最期を作るは、今。
藤堂の腰が落ちる。
刀身に殺気が走った。
2008/12/2
幕末パロ、なんか死にネタシリーズみたいになってますけど、8周年あざーっす!!!!!!(精一杯のお祝いムードを込めて)
リク企画でいただいた「明けない夜」と言うキーワードを採用させていただきました。この話はずっとプロットが頭の中にあったんですが、このお題をいただいてからぐわ〜っと形になりました。