街を往く、浅黄のだんだら。
組まれた隊列の先頭には二番隊の長。
道に溢れていた人は左右に別れて彼らを見送る。
静かに永倉の視線が左右に連なる家々と、その合間に走る路地の影を見やる。
その目が引き寄せられるようにこちらを見た。
目が合ったのはほんの一瞬。
どちらの表情も動かない。
そうして恐怖の対象は通り過ぎていく。
俺はそれを見送って、己に課せられた任務を果たすべく斜め前の旅籠を見やる。
浅黄の風が通り過ぎる間、息も気配も殺していただろう幾人かの男達の安堵の吐息がここまで聞こえてくる気がした。
細い路地から女が近寄ってきた。
薬屋の幟を目に留めて、不安に顰めていた眉を和らげる。
子どもの具合が悪くなって。
訴えかけるように薬を求める。
嫌な仕事だと、誰もが思っている。
監察と言う職に就く者も、それを遠くから見る者も、探られる対象も、推す者も。
嫌な役をさせてと、直属となる上司は言葉にも表情にもしないがそう思っている。
何故か山崎にはそれが確信できて、やはり何故だか切ない喜びが沸いてくる。
だから、何も悔いることはないんだ。
だから、あんたがそんな顔をすることはないんだ。
侍になりたくて、江戸から厄介払いされてきた浪士達の巣に加わった。
実際は形すら侍には近づけず、卑しいと言われるのが当然のような仕事ばかりしていた。
それが苦ではなかったのは、誇らしささえ感じて市井に身を紛れさせることができたのは、綴った報告書を一言も漏らすことなく読み取って、何日もかけた仕事に花を咲かせてくれる指揮官がいたからだ。
誇らしかったよ。
二本差しって形に憧れないわけじゃなかったが。
あんたがいたから迷いも悩みも苦しみも近いうちに昇華されるのがわかっていたし、光の当らない任務もしっかりと見守ってくれているのだと思えば力になった。
だから。
だから。
「来世っちゅーもんが、あるんなら」
そんな顔をしないで欲しい。
「副長は、多摩の、百姓に生まれて。局長に出会い、沖田さんを迎え、永倉さんや原田さんと寝食を共にして、また、浪士隊として上洛してください」
山南も藤堂も井上もそこにはいて、道中では芹沢一派とやらかしながら壬生に辿り着き、狼と呼ばれながら恐怖を振りまき、
「そしたら俺は、大阪の、針医の倅に生まれます。江戸からやって来た浪士組の噂を聞いて、また、入隊志願をします。そしたら、俺を見つけて、拾うてください。来世も、その次の世も。俺は針医の倅です。あんたは多摩の百姓。そして、新選組。それが、俺が欲しいもんや」
例え京の都を侍の姿で颯爽と歩くことがなくとも。
犬と蔑まれようとも。
次の世も、新選組監察方の山崎丞として生きて死にたい。
願わくば、粛清を命じる度に瞳の奥に灯してきた蒼い炎を涙に変えて、俺の亡骸を抱いてほんの少しだけ泣いて欲しい。
腕がもがれた様な、そんな喪失感を味わって欲しい。
けれど息を深く吸い込んで、痛みを押さえ込んで立ち上がって。
今ここで朽ちる我が身は鬼火となって、傷だらけの体を引き摺りながら前進する貴方の行く先を照らしましょう。
この声に乗ったが故に粛清されてきた多くの名と共に。
貴方が背負うと決めた罪の半分を飲み込んで、私は先に逝く。
2008/9/24
死にネタ散文ばっか!広瀬ニキ氏の書かれる山崎の副長心酔っぷりが大好きです。秋山女史にもいつか山崎目線で新選組を書いてもらいたい。大好き!