※注意!!
この作品はBDのパラレルなお話しです。
バーテンとフロマネが幼馴染で退行してもらって高校生です。
こんなんでも許してくださる方のみ、ご覧下さい。
「Study」の後日談になります。
目の前にいる男の口元がさっきから締まらない。
普段は精悍な男らしい顔をしているのに、今日はどうだ。
この面を、この男を慕う大勢の女子生徒に見せてやったらさぞがっかりされることだろう。
宇野は心のソコからそう思う。
思わずにいられない。
ソファーに座って、ジャック・ダニエルを傾けていた宇野の正面の床に座ってお預けをくらった犬のようにして宇野を見上げている。
「……………………負けは負けだ。約束は守ろう」
その情けのないような愛らしいような滑稽なような姿をこれ以上見るのも嫌で、宇野は大人しくグラスを置いた。
叶がぱっと破願する。
素早い動作で立ち上げると、ホールドアップの体勢をとっている宇野の体を軽々と抱き上げた。
向かう先は躊躇うことなく寝室だった。
「叶……この成績表……」
と、化学準備室で宇野が叶に声をかけたのはテスト前だった。
化学準備室は叶の城で、宇野がこの部屋に足を踏み入れることは飛んで火にいる夏の虫状態なのだが、生徒の出入りと授業を理由に叶の手を払い除けることはできる。
叶の魔の手の撃退方法を手にして、宇野は美味いコーヒーを飲みによくこの部屋を訪れるのだ。
上手い事丸め込まれて、そのまま情事に発展してしまうことは10回に1回程度。
さほどの危機感はない。
「坂井のか?」
化学実験の機材の並ぶテーブルに設置してある、コーヒーメーカーもどきをいじっていた叶が振り返る。
宇野の手には叶の担任するクラスの成績表があった。
「………………壊滅的だな」
一頻り眺めてからの宇野の感想がそれ。
叶も思うところはあるので、苦笑で応えた。
女子生徒にプレゼントされたものばかりと言う、大きさも色もまばらなカップにコーヒーを注いで宇野に渡しながら、叶は宇野の座っていたソファーの隣に腰を降ろした。
「最近は授業もよく出てるんだがな。その前がひどかったから響いてるんだ。次のテストに進級がかかる」
最近になって、出席日数・提出物の状況がぐんとよくなった坂井直司。
幼馴染でいつもつるんでいる下村との関係があるらしい。
よくこの部屋にも入り込んでいる。
素行はいいと言えず、他校との問題もしばしば起こしている。
一筋縄ではいかない考えを持っているかと思えば、案外に素直で。
「……しっかし、この点数は……どうしようもないな。特に……化学」
「わかってる」
「ひどすぎるぞ。一桁で片手で表示できる点数なんて。しかも、お前が担任じゃないか」
「わかってるって」
「あまりにもひどいな」
「キドニー」
たまらず、プライベートで呼ぶ呼び方をすると、片眉を器用に上下させる。
「そこまで言うなら、今度の定期考査で坂井に80点以上をとらせてやろうじゃないか」
「ほう、80点とは大きくでたな」
「そうじゃなきゃ進級できないんだ。いいか、坂井がもしも化学で80点以上とったら、俺の言うことをなんでも一つ聞くこと」
勝とうと思った賭けには負けない、と豪語する叶のギャンブルの腕は知っている。
が、今回は叶の力によって勝利を手にできるような賭けではない。
「のった」
それが、宇野の不運の始まりだった。
テストが終わり、即日採点して結果が叶の勝ちと発覚してから、叶のテンションは異常に高いままだ。
いつもはクールで通す男がにやにやと相好を崩している姿は他人事であれば笑いを誘うのに、自分の体の上に圧し掛かっているのであればあまり笑えない。
それどころか、青ざめてしまう。
賭けがなければ、抗議してやめさせてしまえるのだが、負けは負け。
ここで拒むなどと言う男らしくない真似はできない。
殴ってしまいたい衝動を抑えて、宇野はゆっくりしたペースで近付く顔を見ていられずに瞼を下ろした。
擽るように額や頬を滑る唇に、眉に皺が寄ってしまうのを自覚する。
「キドニー」
不意に呼ばれて眼を開ける。
寝室の電気は点けっぱなしだったから、叶の顔がありありと見て取れる。
さっきまでのにやけ顔はどこへやら。
真剣な顔で宇野を見下ろす。
「一回でいいから好きだって言ってくれないか?」
「………………………………………………………」
刻まれていた眉間の皺が更に深くなる。
宇野が怪訝そうな顔をむけると、真剣な顔は錯覚だったのかにへらと笑う叶がいる。
「だって、お前に言われたことないから」
言って? と調子にのってか小首傾げるが、可愛くもなんともない。
むかつくだけ。
「阿呆か、お前」
「ひどいな。いいじゃないか、減るもんじゃなし」
こっちは減らなくても、お前はつけあがるじゃないか。
さらさらごめんだと顔に大書した宇野に、叶は自信のある視線を投げる。
「負けは負けだろう?」
ぐっと宇野が黙った。
てっきり、一晩体を自由にさせろとか言うのかと思っていたのだ。
それなら、いつものこと。
勝手にさせればいいと踏んでいた。
なのに、この男は宇野からアクションを起こさせるような要求をしてきた。
「セックスなんていつでもできるさ。こう言う特権は有効に使わなきゃな」
圧し掛かったままの叶が、手に入れたかったオモチャをやっと与えてもらった子供のように笑う。
だから、ちっとも可愛くない。
「ホラ、キドニー」
負けは負け。
暫し覚悟を決めるための時間を黙っていた宇野は、冷たく叶を睨むと突然その後頭部を引き寄せ、激しく口付けた。
驚愕に固まっていた叶も、すぐに自分を取り戻してそれに応じる。
やがて、触れ合うだけのキスになったところを見計らって宇野が唇を動かした。
ほとんど吐息に混ざったそれだが、叶の耳は余すことなく聞き取った。
勢いに任せてでないと言えない不器用で素直でない恋人に、淡い笑いを浮かべた叶は、羞恥に赤面しているその可愛い表情を覗き込むのを我慢して、首筋に顔をうめた。
「くそ、覚えてろ」
罵声は余裕で吐き出せる口をさっさと塞いで、叶は今ごろ家庭教師代をきっちりと払わされているであろう坂井に胸中でこっそりと感謝した。
後日、宇野の授業で坂井直司がやたらと指名されることが多くなったのだが、その理由を知るのは叶と下村のみである。
2001/03/29
私、叶キドが苦手なのかもしれません(笑)なんか、ちょっと自信なし作です。可愛い叶さんが好評だったので、叶さん可愛く書いたつもりなのですが、どうでしょう……宇野さんが書ききれないんですよ(>_<)頑張りたいです(泣笑)