※注意!!
この作品は当サイト迷物の学園モノBDの学園祭編です。
BDの登場人物達が高校生だったり学校の先生だったりしています。
性格が原作よりも大幅に明るくなっていたりします。
そういうのダメかも。という方はどうぞお戻りください。
体育祭が終わって、残暑の猛烈な攻撃も終わり肌寒さが感じられるようになった季節。
体育祭が終われば学園祭である。
学生たちの大型行事と言えばこの二つ。
普段、統率力のないクラスもこの季節にだけはやたらとまとまったりして、担任たちに、
「普段はあんなにまとまりがないのに、最近のお前等はいいな!」
などと言われたりする気持ちのいい季節でもある。
よって、この時期はホームルームの時間がけっこう多い。
川中学園長の学校も例外ではない。
学園長自体がお祭り大好き人間なので、そんな人間に率いられた学園のお祭りは毎年かなり盛大である。
「と、言うわけで今年の出し物は女装喫茶に決定でーす」
黒板に大きく書かれる「女装喫茶」の文字。
明るく笑顔で言い放ったのは学級委員長の沢田令子だった。
「ちょっと待て―! なにが、と言うわけだ!! 男子にナイショで何企んでるんだ、女子一同!!」
「そーだそーだ! そんな話聞いてねぇぞ!」
そんな賑やかな論争が繰り広げられているのは叶教師の担当するF組の教室である。
「うるさいわよ! どーせ、あんたたち放っといたらなんにもしないんだから!」
「なんで女装喫茶なんだよー!!」
「女子一同、満場一致で決定よ。何か文句ある?」
例え民主主義による多数決制で決めるにしても、女子の方が人数の多いF組では男子のブーイングは受け入れられそうにない。
欠席者の席に座っていた担任の叶はにっこりと満足そうな顔をして、
「文句なし。それで決定」
そう言ったのだった。
かくしてF組の出し物は女装喫茶に決定した。
「叶先生、楽しそうですね」
叶の陣取っている席は下村の横の席で、叶のにやけ顔が目について仕方ない。
窓際の壁に椅子の背凭れをつけて横を向いた姿勢の坂井も下村の机に頬杖をついて叶を見る。
「楽しいじゃないか。普通に出し物するよりはずっと」
壇上にいるのは委員長や副委員長など女子ばかりで、叶と同じく楽しそうだ。
「じゃあ、次は女装する男子を決めまーす。一応、民主主義なので投票しまーす。これから配る紙に女装して欲しい男子の名前三人を書いてくださーい。名前はいりませーん」
「女装してもらう男子は一応十人でー、当日は交代制で接待してもらいまーす。女装しない男子と女子はお茶やお菓子の準備してもらいまーす」
「女装役に決定した男子の意義は認めませんのでおねがいしまーす」
ハイテンションな女子達。
うんざり顔の男子達。
命運をわける投票用紙には、三人の名前を書く欄の上に『できるだけ見目美しい人の投票しましょうね♪』などのコメントまである。
用意周到だ。
ここ最近、放課後に女子が集まって教室でなにやらしていたのはこのせいなのかと男子は思い知る。
なんにせよお祭りである。
羽目を外さずしていつ外す。
そんな感じで、文句をたれていた男子達も徐々に盛り上がり始めたのだ。
まぁそれも投票結果によって一喜一憂。
天国と地獄が分かれることになるのだが。
「坂井くん、坂井くん……あ、次も坂井くん♪ 叶センセ、坂井くん。下村くん、英田くん、坂井くん……坂井くん、花井くん、最後は下村くん」
「以上で、開票終わりでーす」
黒板に書き込まれた名前と正の字。
自分の名前がコールされるたびに項垂れていく男子生徒。
女子の間では嬉しい悲鳴が飛び交っている。
正の字がずらずらずらずらと連なっている上に、坂井直司の文字。
「投票の結果、一番人気で坂井くん、下村くん、叶先生、英田くん、南くん……(以下略)が、女装メンバーに決定しましたー。拍手!」
何に拍手なのかわからない。
名前がコールされた生徒はがっくりと項垂れ、青くなった。
若干名反応が違う者もいて、叶なんかは狙っていたのか嬉そうに、「先生、人気者♪」などと言っている。
ちっとも可愛くない。
「坂井、一番だってさ。良かったな」
「ドコガ?」
眼つきが喧嘩モードになっている坂井に臆すことなく下村が、にへらと笑いかける。
この男も女装が決定したのに、平気な顔だ。
「な? 俺が普段から可愛いだとか綺麗だとか言ってるだろ? 自覚できるじゃないか」
「嬉しくねぇ」
「お前、女装したら絶対滅茶苦茶可愛いって。他の連中に見られるのがちょっと癪だけど」
「それ以上言ったら、ぶん殴る」
かなりご機嫌が斜めに入ってしまったらしい。
講義しようにも、ミンシュシュギで決定しまったのだから仕方がない。
決まったことにウダウダ抗議するのは男らしくない。
「他の雑用の分担も決まったし、学祭の成功を願って一本締めー!」
「お手を拝借」
「せーの」
パンッ!!!
小気味のいい音が響く教室。
一応全員がその一本締めには参加したものの、浮いてるヤツ沈んでるヤツと思いは様々である。
その日最後にして最低だった授業・HRが終了するチャイムが鳴った。
女子はこの後残ってどの男子にどんな服、と妄想を膨らますそうだ。
仲がいい女子達でけっこうなことだ。
「坂井、眉間に皺」
「なんでお前はそんなに平気な顔してんだよ」
「坂井の女装が見れるからだろ?」
「自分もしなきゃなんねぇってわかってるか?」
だいぶガタのきた自転車の籠に二人分のカバンを突っ込んで、ペダルを漕ぐのは坂井。
下村は背後で涼しい顔。
「まぁ、それはそれで仕方ない。前向きに考えることにした」
「……簡単なヤツ!」
自転車のスピードは速くなる。
なんにしろ、ただで終わる予感のしない学園祭の季節は到来した。
その頃、写真部部室では……
「さて、諸君」
と、明らかに企み顔で顧問の桜井教師は言った。
暗室でのミーティングはさながら、悪の集団の世界征服の戦略会議。
「日頃、裏ルートでさばく盗撮写真の撮影、ご苦労。今年も日常生活とはまた違ったシャッターチャンスの狙える学園祭の季節になったわけだが、今年は例年に増して気合を入れていただきたい」
にやり、と桜内が笑った。
その笑みを向けられるだけで自分たちはもう悪人の仲間入り♪、な気分になるのは何故だ!?、と写真部部員は思った。
純粋に写真を撮りたいから入部していたはずの新入部員も、盗撮に燃え始める桜内の邪笑の威力に免疫のついてきた三年生も少々青ざめた。
「今年はなんと、裏ルートの写真の需要ナンバー1の高等部F組の坂井直司のクラスが女装喫茶をすることになった!」
「坂井が女装!?」
「F組、思い切ったな」
「思いっきり坂井の貞操の危機じゃないか」
「貞操なんかあんのか、アイツに」
ザワリ、と暗室はどよめいた。
そんな中で桜内の眼鏡がキラリと光るもんだから、雰囲気は高まる一方。
純粋無垢だった新入生もだんだんと飲み込まれてしまう。
「さらに、下村敬に担任の叶教師も女装することになっている」
「そっ、それは凄い……」
「裏写真の需要高ランクに位置してる三人じゃないですか」
「そう、つまりは」
「「「「ビジネスチャンス」」」」
不敵な笑い声がどこからともなく発せられる。
これだから、写真部の部室である暗室は部室棟内には作られずに校舎の外れの階段下の倉庫を改造して設置されたのである。
「すでに学園長からの軍資金も振り込まれている。今年はこの三人に絞って撮影してもらう。他の連中は適当に撮っておくだけでいい。ちなみにピンでも高く売れるが、坂井と下村なら絡みで倍。さらに坂井直司の笑顔を撮れたものには、学園長から金一封が送られる!」
暗室はどよめいた。
異様な盛り上がりである。
「学祭が終わったらみんなで熱海で豪遊だぁ!!」
写真部には曰くが多い。
「……その面をどうにかしろ。叶」
苦々しい宇野の声が資料室のソファーに陣取っている叶にかけられた。
どうにかしろと言われた叶の面とは、いかにも何かを企んでいそうな口元が如何わしげに歪んだもの。
この男の職業当てクイズをしたら、大半が犯罪者と模範解答をくれそうな顔だ。
「だって楽しいんだもーん」
笑いを含んだ声で返事をされ、宇野は悪寒を感じた。
この男の悪巧みが自分に関係ないのであれば、叶がどんなにいやらしい顔をしていようが無視していればいいのだが、叶がこういう顔をしている時そのほとんどが宇野に何らかの被害をもたらす。
嫌な予感が宇野を襲う。
「……お前のクラスの学祭の出し物は女装喫茶だそうだが……、お前もするのか?」
「させていただきます」
「……PTAから苦情がこないことを祈らないとな」
宇野は学年主任。
どのクラスの出し物にも参加こそしないが、責任者ではあるからそれぞれのクラスの出し物の内容を確認しなければならない。
他人のことにはあまり興味を示さない宇野ではあるが、それでも体育祭や学祭のときに生徒達が見せる表情の変化は見ていて気持ちがいいと思う。
中には勿論、まったく関心を示すことなく冷めた態度のままの生徒もいるが、大半の生徒がこの季節になると授業の時とは違う生き生きとした表情を見せ、ある者は意外な特技や一面を見せ、またあるクラスはいつもはバラバラなのにこの時期に限っては驚くほどの団結力を見せてくれる。
自分ではもう味わうことのできない時間を精一杯に生きている生徒達を羨ましくも思う。
そんな清々しさを感じる行事を、この男の存在で台無しにされる可能性があるのかと思うとウンザリする。
何か企んでいる叶を止めることができる人物などいないのだから。
「……桜内が羽目を外しすぎるのも心配なんだが」
「それを言うなら他校とのトラブルだな。うちの生徒は学園長に習ってみんな熱いから」
「それなら教師も同じだ。校門付近と裏門に見張り番をおいて……、委員会の仕事で生徒にやらせてもいいんだが、それはそれで問題に発展しそうだしな」
昨年は他校の生徒が校内で暴れてちょっとした問題が起きた。
加えてここ近年、不審者が学校に侵入するという事件も多い。
そのため今年の警備は慎重をきさなければならない。
いろいろと問題のある生徒と教師を抱えて宇野は眉間に皺を刻む。
他の学校なら、宇野のようなひねくれた上に言いたいことはある程度言ってしまう性格では、上司と対立するばかりだ。
この学校なら苦労こそするが、頭の固い連中に苛々することはない。
同じ苦労なら、この学校で苦笑混じりにやって行く方が宇野にはあっているだろう。
「まぁまぁ、全部一人で抱え込まないで。せっかくの美人さんが台無しだぜ?」
何時の間にか叶が立ち上がって、宇野の間近に迫っている。
おそらくざっくりと皺が刻まれているだろう眉間に、んーと唇を寄せてきた。
僅かに反らされた喉をめがけて、何気ない仕草で持ち上げたファイルの角をぶつけてみた。
「うがっ!?」
思ったよりダメージがあったらしく、叶はそのまま体を仰け反らして呻いた。
「そうだな。一人で抱え込む前に、お前らのように暇と体力だけは有り余っている連中に押し付けてみた方がいいだろうな。行くぞ。会議の時間だ」
叶の喉にアッパーをかましたそのファイルでトントンと肩を叩きながら、宇野はさっさと部屋を出てしまった。
この学校に転任してきて、妙な苦労も増えたけれども、なんて思いながら。
「……やるなぁ」
一方叶は、喉を摩りながら最近一筋縄ではいかなくなった恋人の後姿に淋しく呟いた。
2001/10/01
……まずは下坂と叶キです(笑)桜内は便利な人だ。ちなみに学祭についての描写は私の母校をモデルにしてます。何せ小規模校だったので、大きな学校とはちょっとやり方が違うかもしれません。